出会い
俺は必死に逃げていた。今日はいつも通り街の近場で薬草を採取しに来ていたのだが運悪くフォレストウルフに出くわしてしまったのだ。普段はこんなとこにいないはずなのになぜ? と思いながらも助かるために必死で走っている。実際のところフォレストウルフ程度にそう易々と殺されたりはしないのはわかっているのだが、フォレストウルフ一匹ならまだしも三匹相手を倒せるほどの実力はまだない。魔力を操作し脚力を強化しているのでまだ追いつかれていないがこのままでは追いつかれてしまう。そう思い俺はアイテムボックスを開き、あるものを取り出した。
「“燃えよ”」
それに魔法で火を付けた。俺は火の適性は低いものの着火くらいはできるようになっていた。魔法を発動するには詠唱と魔力操作が必要とされている。召喚された場所で他のメンツとともにある程度教育を受けているので俺も多少の魔法は使える。魔法は自分の意思が込めやすい言語を使うのが一番いいとされていることもあり、俺も日本語を使わないと上手く発動させることが難しい。そのため、人前では魔法を使うことは避けている。身バレを避けるためにも細心の注意が必要だ。
“しゅ〜〜”
火を付けたことにより、音をたて煙を放ち始めたものを後ろに投げる。すると“パン!”という音ともに弾け大量の煙がまった。今使ったのはこの近辺で採取できる植物を組み合わせて作った煙玉だ。威力はないが目くらましと煙の匂いによる一時的な鼻を鈍らせることができるので嗅覚の鋭い相手を撒くのには優れているので重宝している。
俺はギルドの書庫でこういったものの作り方や使い方を学び、安全に植物採取できるように準備をしているのだ。いずれは食肉になるような弱めの魔物を狩ることもできるようになるために有効な手段を日々身につけているのだ。
“ウォン! ウォン!”
”グルルル!”
「ちっ」
走りながら後ろをチラッと見ると引き離すことができていないのがわかった。煙玉を使うにはどうやら距離が近すぎたようだ。無駄玉を消費してしまったことに舌打ちをしながら次の手を考えていると大きな声で呼ばれているのに気づいた。
「お〜い、こっち! こっちに来て〜!」
どうやら同じ冒険者らしい。ここら辺の冒険者なら大概黒髪の自分が魔物から逃げ回っていたら指差して笑うのが普通だろうに珍しくも助けてくれるようだ。俺はお言葉に甘えてそちらに向かって走っていくとどうやら声をかけてくれたのは3人パーティーであるらしいことがわかった。それも皆女性だ。
金髪の女性が剣を片手に前に出た。
「私の後ろに!」
俺は彼女の指示に従い、彼女の後ろへと逃げ込んだ。この世界は魔力などというものがあるので絶対に男が強いとは言い切れないのだ。だから俺が女性の後ろに隠れるのも仕方ないことと自分に言い聞かせながら彼女の後ろから迫り来るフォレストウルフを見つめる。食欲でヨダレを垂らしながらは迫り来るその顔はなかなか凶悪なツラしていた。
追って来た三匹の内、二匹が目の前の女性に迫ると彼女はスッとフォレストウルフの元に駆け寄り、一振り目で先頭の一匹の首を跳ね、その間に迫って来た二匹目を下顎から剣で突き刺し、脳を貫いた。
「“氷よ、我が敵を貫け、アイスニードル”」
後ろを走っていたフォレストウルフがその光景に驚き、逃げようとしたがパーティーメンバー1人である黒のとんがり帽子をかぶった魔女コスチュームの女性が唱えた魔法により、頭を大きな氷柱で貫かれ、死んでしまった。
「大丈夫ですか? 災難でしたね。こんなところでフォレストウルフに出くわすなんて」
フォレストウルフから剣を抜き、俺に声をかけてきた女性の顔を見るといつかギルドで見たエルフの女性であることがわかった。彼女の頰には倒した際に飛び散ったであろうフォレストウルフの血がついてしまっている。だがそれで彼女の美貌を損なうとは思えなかった。むしろその姿が俺には一層美しく見えてしまったのだ。
「お〜い? 大丈夫?」
白い兎耳を頭の上に生やした獣人の女性に目の前で手を振られ俺はハッとした。エルフの女性の美貌につい見とれてしまったようだ。それにこの声は…どうやらさっき遠くから呼びかけてくれたのはこの獣人の女性らしい。
「タスケテイタダキ、アリガトゴザイマス」
俺は頭を下げ、お礼を言う。どうやら集まってきた魔女コスチュームの女性含め、3人の女性パーティーに助けられたようだ。




