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平穏無事に暮らさせてくれ  作者: DATEMAKI
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 オルガは誰からシェラウンの花をもらったかなかなか口を割らない。今も自分の枕に顔を押し当て、こちらに答える気がないことをアピールしている。


「は〜、オルガ? 誰に貰ったのか教えてくれないかしら? お姉ちゃんその人にお礼が言いたいの…」


「う〜、う〜」


 オルガは枕に顔を押し当てたまま首を振って、唸るような声とともに拒否をした。


「は〜、全く……誰に似たのか本当に頑固ね」


 困ったわといった風にレイラルカーラは頭に手をやった。その様子を見たウェリアがクスクスと笑い声を上げた。


「ふふっ、似た者姉妹ね。あなたも頑固者じゃない。…今回の報酬の件、忘れてないわよ?」


 そう、今回の報酬はレイラルカーラのパーティーメンバーであるウェリアともう一人の女性が自分たちも負担するから自分を報酬にするのは止めろといったのにレイラルカーラは自分の事情だからと言って聞かなかったのだ。


「う…、それは悪かったと思っている…」


 レイラルカーラは気まずそうに顔をウェリアから背け、見えないようにした。


「ふふっ、顔を隠すところまで一緒なのね?」


「もう! それより、他の材料はどう? まだ効力はもちそう?」


 レイラルカーラは誤魔化すように、しかし切実にウェリアに聞いた。なにせ、今回のクエストの期限が今日までなのは事前に採取したカイゼル病を治すための特効薬に必要な貴重な材料の薬として効果を出せる消費期限が持って今日ぐらいというところだったのだ。


「うん…。大丈夫よ! 明日になったらさすがにサヘラの血が凝固しちゃうところだったけど…。それに他の薬草もまだなんとか問題ない状態だと思うわ」


 ウェリアは治癒魔法の使い手というだ。そして薬の調合にも長けている。とても頼りになるパーティーメンバーなのだ。


「お礼の相手を探すのは後回しにして、まずは薬の準備だな。ウェリア、頼めるか?」


「任せて、すぐにやるわ」


 ウェリアが自分の胸を叩いて任せろといったアピールをした。すると彼女の大きな胸が大きくたわんでゆさゆさと揺れるのであった。



 □



 調合し終えた薬を飲んでオルガは眠りについた。魔力を感じる限り、症状はだんだんと良くなっているのがわかる。レイラルカーラとウェリアはその様子に安心したように息をついた。


「うん、オルガはもう大丈夫だよ。あと少しおとなしくしていれば体調も良くなるわ」


「ウェリア、お疲れ様。ありがとう」


「ええ、レイラもここのところずっと気を張っていて疲れたでしょう? 今日はもう休んだ方がいいんじゃない?」


 二人は紅茶を飲みながら一休みしていた。レイラルカーラもウェリアもここのところ気を張り詰めていたためかとても眠そうだ。


「そういうわけにはいかない。一度ギルドに行かなくては期限に設定した時刻はもう間もなくだしな。それに、もしかしたらシェラウンの花を届けてくれたものがわかるかもしれない」


「そういえばそうね。クエストのこと忘れてたわ。ん〜、現金なことだけどギルドを介さなかったってことで依頼とは無効にできないかしらね?」


 レイラルカーラは首を振る。


「そんなことはできない。助けて貰ったのに不義理を働くなんて……」


「でも…せめて達成依頼料を倍にするからレイラの身だけでも勘弁してもらえないかしら?」


「いや、私が自分で約束したことだから保護にはできない」


「もう! 本当に頑固ね!?」


「すまない」


 とそこにトントンっと家の扉をノックする音が聞こえた。レイラルカーラが誰が来たのかと家の扉を開けるとそこには人間の女性がいた。


「シェーナ、いらっしゃい」


 そこにいた女性はレイラルカーラのパーティーの一人、人族のミシェーナ・マーフェスだった。銀色の髪に紫の瞳、そして透き通るような白い肌をしている少女だ。頭には黒のとんがり帽子、身にまとうのは黒のローブと魔女のような出立ちをしている。まぁ正真正銘の魔女なのだが。彼女はレイラルカーラのパーティーの最後の一人だ。


「遅くなって御免なさい。あたしの伝手でも流石にシェラウンの花は手に入らなかったわ。ギルドでもさっき聞いて来たけど……まだ誰も手に入れられてないようね」


 悲壮な表情を浮かべたシェーナが申し訳なさそうに言った。普段表情をあまり変えないシェーナが辛そうな顔をしているのが本当に悲しんでいるのを物語っている。それに対し、レイラルカーラは首を振って返事をした。


「いいえ、ありがとう、シェーナ。色々無理をして貰って。……それにもう大丈夫よ。さっきオルガには薬を飲ませたところだわ」


 シェーナはパチパチと瞬きして、驚いた。


「!? シェラウンの花が手に入ったの?」


「ええ」


「誰が!?」


「わからない。だが今のシェーナの話だとやっぱり冒険者ギルドの人じゃないようだな。とりあえず上がってくれ」


 レイラルカーラに促され、一つ頷いたシェーナは家に上がった。


「シェーナ、お疲れ様〜」


「うん、ウェリアもお疲れ様」


 シェーナはウェリアと挨拶した後、オルガの眠るベッドに近づいた。そこには安らかに寝息を立てるオルガがおり、魔力の流れを感じ取ったシェーナは安心したように息をついた。そしてベッドから離れ、レイラルカーラたちの元へ近づいた。


「オルガはもう大丈夫なようね。安心したわ」


 レイラルカーラは妹を助けるために協力してくれた仲間に頭を下げお礼を言った。無理な採取に付き合ってくれ、親身になって協力してくれた。彼女にとって最高のパーティーだ。


「ああ、二人のおかげだ。本当にありがとう」


「やだな〜頭あげてよ、レイラ。仲間でしょ? へへ〜、でも本当に良かったよ〜。…でも、本当に誰だったんだろうね? シェラウンの花をオルガちゃんにくれたのは?」


「オルガが貰った? 知らない人からもらったの?」


 シェーナの質問にレイラルカーラとウェリアの二人は腕を組み考えるように唸った。


「あの感じは知っている人から貰ったように見えた」


「ええ、でも絶対言いたくないって感じだったわね」


「そう…なの。起きたらもう一度聞いてみるしかないわね」


 3人揃ってオルガが眠るベットへ目をやった。3人とも優しい目でしばらく見つめた後、レイラルカーラが切り出した。


「ええ、じゃあ私は一応ギルドに顔を出してくる。もう期限は過ぎているけど一応クエストの手続きをしてこないと」


「わかったわ。じゃあ、私はお夕飯作って待ってるわね」


「あたしも手伝うわ」


 日はすっかり暮れている。クエストの期限の時刻はもう過ぎている以上、今からシェラウンの花を持って来ても無効だがもしかしたら今から持ってくるものがいるかもしれない。早めに手続きをしておくのがいいだろう。

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