ご褒美タイム
俺は今、街の屋台の串焼きで小腹を満たしていた。甘辛のタレで味付けされた肉はとても美味しく、調子に乗って5本も購入してしまった。だけど構わないだろう。今回の薬草納品の報酬は大銀貨2枚と小銀貨2枚だ。いつもは小銀貨1枚から2枚くらいを稼げればいい方という稼ぎなので今回の収入は大きい。これならちょっとは装備を整えることもできるだろう。
今回はちょっと無理して遠征し、遠くまで行ったので装備はボロボロ、まあ前よりも多少はいい装備を買えるくらい稼いだのだから問題はない。オルガちゃんの病気を治すのに必要なシェラウンの花は、どっかの貴族様が依頼するくらいだからオルガちゃんのお姉さん頑張ってもそうそう手に入らないのだろうと思い、ダメ元で採取に出向いて見たのだ。あわよくば大金貨100枚とかいうお偉いさんのクエスト分も手に入れたいところだったが残念ながら花自体は1つしか見つけられなかったのだ。シェラウンの花があったら換金した後、拠点を移してのうのうと暮らしていこうかとも思ったが俺はまだ25歳、スローライフに走るのはもう少し後でもいいだろう。
シェラウンの花の件は少し残念だったが、普段ギルドの書庫で勉強させてもらっている際に図鑑で見た貴重な薬草を道中で採取できたのでまあいいだろう。変に目立たないようここら辺でも取れる薬草、数も少なめにした上でギルドに出したので俺のアイテムボックスの中にはまだ多くの貴重な薬草が眠っている。しばらくこれで困ることはないだろう。
アイテムボックスとは容量に限界はあるものの、入れたものを劣化させずに保存させる本人しか開けない亜空間のスペースのことをいう。これは、この世界でも限られた人しか持っていないスキルだ。俺はこの世界に来た時運よく手に入れており、有効活用させてもらっている。
この世界にはスキルという特殊な能力を持つものが少なからず存在する。アイテムボックスもその一つだ。他にもモノの素性を調べる“鑑定の魔眼”や魔法とは違い詠唱を必要とせず火を出すことができる“発火能力”、遠くを見ることができる“千里眼”といったスキルがある。これは使える能力を持つというだけで、実際にスキルを使うためには練習が必要で使えたとしても個人差が大きい。
そしてこの世界にはスキルとは別にもう一つギフトと呼ばれる力を持つものがいる。それは最初からある分野の才能を神から与えられるというものだ。有名なのがかつて世界を救った勇者が手にした“剣の才”、そのパーティーの大魔道士が持っていた“魔法の才”だろう。
このギフトの取得方法は二つ。一つはこの世界に生まれたとき、ギフトを持って生まれることだ。しかし、ギフトを持って生まれる人間は極まれにしかいない。もう一つは、この世界と別の世界から渡る際に神から与えられ、訓練することでメキメキと実力を手に入れたと言われている。
実は俺も召喚された際、ギフトを貰っている。ただ、過去の偉大な人物たちとは違い、悪くはないがあまり役には立たないであろう力だ。とはいえ一応、俺にはスキルとギフトが一つずつあることになる。欲張らなければしっかり生きていけるだけの力は手に入れているわけだ。
オルガちゃんの家によって見たところ彼女のお姉さんはまだシェラウンの花を手に入れられていないようだったので、出所は秘密にするよう約束した上で彼女に渡してきた。なるべく目立つのは避けたい。俺の逃げ出したところから追っ手は出されていたいとは思うが念のためだ。我ながら浅ましいことこの上ないな。オルガちゃんがもし、誰かに喋ってしまったら最悪、拠点を変える必要が出てくるかもしれない。
そんなことを考えながら串焼きを齧っているとどこからか甘い香りがした。漂う香りので元を探ると若い女性の屋台で麦芽のクッキーを売っているようだ。今の時刻は午後3時くらいだ。今日はオルガちゃんの家によった後すぐにギルドにいったのでまだ教会に顔を出していない。せっかくだし、クッキーをお土産にし、教会に顔を出すことを決めた。
「オネーサン、クッキー、フタフクロ、クダサイ」
「あ、はい! 二つお買い上げですね? 大銅貨1枚になります」
クッキーの屋台の女性は黒髪が珍しいのか黒髪をキョトンと見つめた後、笑顔で対応してくれた。この国では黒髪は珍しいのだ。黒髪がいないわけだはないが、黒髪といえば隣国の帝国グラスフォーデンの人間が多いのだ。
「お客さん、この辺じゃ珍しい黒髪ですね。グラスフォーデンからお越しですか?」
「イエ、グラスフォーデン、チガウ、ベツノクニ」
「あら? そうなんですか。だとしたら大変ですね〜。この国は昔からグラスフォーデンといがみ合ってますから。黒髪だとグラスフォーデン出身の人と間違われちゃうかもしれないですね。商人以外だと愛想悪いでしょう?」
「エエ、マァ」
屋台の店主らしく、人当たりのいい接客でこちらも心地が良い。ただし…少し話が長いが。俺は苦笑いしつつ相槌を打った。
「この街も本当はいい人が多いのであまり嫌いにならないでくださいね?」
「ハイ、ダイジョウブ、イル、ナカヨクシテクレルヒト」
「それは良かった! でも、あまりに住みにくいようでしたらいっそグラスフォーデン近くの町に拠点を移してみるのもいいかもしれませんよ? 実際のところ国境近辺では昔から交流があるので忌避感は少ないらしいです。国境から離れた地域に住む人の方がグラスフォーデンを嫌っているってのは不思議なものですよね」
「ナルホド…」
そういうものか。実際に接していない地域では敵対国については悪い情報しか流れないので悪感情ばかりになってしまうのかもしれない。もう少し、生きるすべを磨いた後一度国境付近の町の様子を見てみるのもいいかもしれない。住みやすそうならそこに移ってもいい。どうせしがない宿暮らしの身、縛られるものなどないのだ。でもせめて戦闘技術を身につけてからだな。弱い魔物を狩る力くらいないと時期によっては稼げなくなってしまうからな。
「あら? 長々とお話ししてすみません! お買い上げありがとうございました! また来てくださいね」
「ハイ、マタキマス」




