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平穏無事に暮らさせてくれ  作者: DATEMAKI
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プロローグ2

 本日の目的であった薬草を、根っこが傷つかないようにしながらナイフで刈り取る。この薬草は根を傷つけさえしなければ、そのうち元の大きさにまで成長するのだ。


「ふう…。これで今日のノルマは達成だな」


 俺は汗をぬぐって、一息ついた。山歩きにもだいぶ慣れ、ここら辺の植物分布もだいたいわかってきた。お手製の地図を広げて、新たに得た情報を書き込む。

 今使っている地図は、以前道具屋で購入したできの悪い地図の情報をベースに、別の羊皮紙に自分で大まかな地図を描いて使いやすくしたものだ。そこに自分の足で歩いて入手した情報を記入していくことで、独自の探索マップを作り上げてきたのだ。

 これを作ったおかげで、今後は効率よく薬草採ることが可能になるだろう。余裕がでたら、更に探索範囲を広げてもいいかもしれない。


 仕事が終わったので俺は街へと帰路を急ぐ。せっかく仕事が早く終わったのだから冒険者ギルドで新しい知識を身に付け、できることを増やしたい。ギルドにある書物はギルド内であればタダで読めるのでありがたい。

 獣道を抜け街への道に出る。そして、足を進めながら俺はため息を吐いた。街までは2時間ほどは歩く必要があるだろう。


『はぁ、せめて自転車が欲しいな…』



 □



 街へと入ると人々の賑わいで活気付いていた。農家が野菜を売り、屋台では美味しそうな肉の串焼きなどが売られていたりする。屋台のいい香りに吸い寄せられつつも首を振って耐える。収入はだいぶ安定してきたとはいえ、俺はまだ贅沢できる身分ではないのだから。


 俺はまだこの街に来てから日が浅い。以前いたところからは這々の体で逃げてきて、行き倒れていたところをこの街の神父様に助けていただいたのだ。神父様には、感謝しても感謝しきれない。


 冒険者ギルドに行く前に、いつも通り俺は教会へと足を運んだ。するとこちらに気づいたシスターがゆっくりと近づいてきた。


「こんにちはリュー。仕事は無事に終わりましたか」

「コンニチハ、シスターフィフィ。シゴト、ブジオワッタ」


 彼女は俺が助けられた教会で、シスターをしているフィフィという女性だ。歳は18歳、髪は銀髪で動きやすいようにいつもはポニーテールにしている。綺麗というよりは可愛らしい顔立ちをしており、タレ目でぷっくりとした涙袋が愛らしい。胸は修道着に隠れてはいるがCカップくらいはありそうだとみている。


「それは良かったわ! お疲れ様でした」


 優しい笑顔とともに労ってくれるシスターフィフィ。彼女と会うのは俺の日々の楽しみだ。今日も癒されました。ありがとうございますと思いつつ、俺は背嚢から薬草をいくつか取り出し彼女へと差し出した。俺が差し出したのは、テュカリーフとシェファルという2種類の薬草で、この二つと教会で作れる浄化水を用いれば下級ポーションが作れるのだ。


「コレ、キョウオオクトレタ」

「ありがとうリュー。…でも、無理しなくていいのですよ。もう十分なほどお礼は受け取っているのですから」


 彼女は俺から薬草を受け取りつつも、申し訳なさそうに言うが俺は首を振った。


「カンシャ。キモチ。……ムリ、シテナイ」


 そもそもこの愛らしいシスターに会って一日の疲れを癒されるためにきているのだから、無理なんて全然していないのだ。というかこれをやめろと言われたら悲しすぎるだろ。


「そうですか。……ありがとうございます。でも本当に無理だけはしないでくださいね」


 そういってシスターが笑顔を向けてくれた。ホント癒されますな〜。


「アト、コレ……コドモタチニ」


 背嚢の中から木苺のような果物を取り出し、シスターに渡した。この教会では孤児たちを養っているのでその子たちへのお土産だ。グランベリーといって、甘さより酸味の方が強くて俺は苦手だが子供達には人気の果物なのだ。


「あら、本当にありがとうございます。子供達も喜びます。……今日はみんなに会っていかれますか?」


 少しの間だが一緒に暮らしていたので、子供達とも仲がいいが今日はまだ予定があるので遠慮して帰ると伝えた後、俺はギルドに向かった。



 □


 俺が教会からギルドに向かう途中、小さな少女が笑顔で花を摘んでいる姿を見つけた。その少女に俺は声をかけた。


「コンニチハ、オルガ」


 少女はこちらに気づくと可愛らしい笑顔で挨拶を返してくれた。


「こんにちは、リュー!」


 少女は幼いながらも、とても端正な顔立ちをしている。歳は7歳くらいだろうか。病弱な体質らしく線は細いが元気一杯の笑顔を浮かべている。少女は教会にたまに預けられていて、そこでこの少女とも仲良くなったのだ。


 彼女の耳は尖っていて俺が元いた世界では見ることのなかった存在であるエルフらしい。ただし、お父さんがエルフでお母さんが人間だから半分だけだけどとオルガは言っていたので、ハーフエルフとでも言えばいいのだろうか。


「マタ……ヌケダシタノ?」


 俺はオルガの目線にあわすようにしゃがんで、ちょっと呆れたように言う。それというのも、オルガはあった頃から何か病気にかかっているようでよく体調を崩していた。だが遊びたい盛りの子供で、よくベッドから抜け出してはシスターに叱られていたのだ。


「うん! だって今日はお姉ちゃんが怪我しちゃったから一緒にお家にいてくれるって言ったのにひどいんだよ! オルガを置いて出かけちゃったんだから!」


 少女の手には小さな花がいくつか握られている。どうやらお花を摘んでいたようだ。


「ソレハ?」

「これ? オルガ、お姉ちゃんの怪我が早く良くなるように、お見舞い用に摘んでるの!」


 心優しい少女はいつも自分に自慢してくる姉のお見舞い用に花を摘んでいたとのことで感心する。しかし……


「ケホッ、ケホッ……」

『ああっ、たくっ』


 俺は近寄り少女の背中をさすった。以前から少女は度々体調を崩していたのだ。やっぱりまだ良くないようだ。俺はポケットから匂い袋を取り出し、少女に嗅がせてやるとゆっくりだが徐々に治っていった。

 咳の症状がひどいようなので、ハーブをいくつか調合して作った匂い袋を用意しておいたのだ。ギルドの書物で調べて作ったものだが、気休めくらいにはなるだろう。


「オルガ、ムチャダメ。イエ、カエル」

「うん。でもリュー、これ何? 匂い嗅ぐとスーッとしたよ?」

「コレ。イキスウ、ラクナルニオイ袋。リュー、オルガニアゲル」

「オルガにくれるの?」


 俺が頷くとオルガは「ありがとう!」と言って顔をほころばせた。俺は乱れたオルガの黒い髪を手櫛で整えてやり、家まで送っていった。そして、自分用に残しておいた少量のグランベリーをオルガに渡した。


「ヤスンデ、ビョウキ、ヨクスル」

「うん! でも大丈夫だよ。お姉ちゃんがお薬作ってくれてるんだ。あとはシェラウンの花があれば大丈夫だからもうちょっと待ってねって言われたんだ」


 まだこちらの言葉は得意ではなく、早口だったのでオルガの言葉はよくわからなかった。しかし、シェラウンの花とかいうのがあれば、あとはオルガのお姉さんが直してくれるという感じのことを言ったのだろう。

 どういうものかわからないが回復の目処が立っているのなら安心だ。この街で俺と普通に接してくれるのは、教会のみんなとギルドの受付嬢のミリアさんと同じ黒髪であるこのオルガぐらいなのだから。バイバイと手を振り、別れを告げて俺はギルドに向かった。


 □


 俺は目的地のギルドに着いた。ギルドは大きな木造の2階建になっている。依頼者が訪れるため、無骨ながらも清掃は行き届いているのだ。

 俺がギルドに入ろうとすると、金髪の女性が出てきた。その女性はすごく整った容姿と、ピンと尖って立っている耳をしていた。オルガと同じでエルフなのだろう。俺は思わず目をそらしてしまった。高嶺の花なんて見るだけ毒だ。

 ただでさえ、この黒い髪を嫌う人は多いのだ。黒髪というのはここら辺ではあまり受け入れられないことは教会の人からも言い含められている。それに俺はまだこちらの言葉もまだうまく喋れないし、あまり多くの人と関わるのは面倒なので基本は避けている。エルフの女性はチラリとこちらを見たものの、すぐに興味をなくしたようですぐに立ち去ってしまった。


 ギルドに入るとすぐになんだかいつもと様子が違うことに気がついた。なぜなら誰もこちらを気にする様子がないのだ。普段は俺がギルドに入ると大抵は蔑んだ目で見られたり、時には汚い言葉を飛ばされることもあるが今日は俺の登場など御構い無しに盛り上がっているようだ。

 何を盛り上がっているのかよくわからないが、注目を浴びないのはいいことだ。俺はそそくさといつもの受付嬢の元へと向かい、クエスト達成の報告と薬草を提出することにした。


「こんにちは、リューさん。依頼達成の報告ですか」


 俺の接近に気付いた受付嬢がにこりと笑って問いかけてきた。


「コンニチハ、ミリアサン。コレ、コンカイノ、ヤクソウデス」


 俺はカバンから薬草を取り出し、受付の机の上に乗せた。


「は〜い、それでは確認させていただきますね」


 受付嬢のミリアさんは種類ごとに分けられた薬草の品質と数量を確認する。ミリアさんは狐人族の女性で年齢は20歳くらい、ギルドの受付嬢は皆美人が揃えられているらしくミリアさんも例外ではなく美しい。何より茶色の髪の上に生えている黄金色の毛並みの狐耳がたまらなくそそるのだ。ミリアさんが品質チェックしている間俺は狐耳をじっくり観察させてもらう。ああ…触ってみたいな〜。もふもふしてそう。


「はい、いつも通り良い品質です。数量・品質ともに問題ありませんでしたよ」


「ハイ、アリガトゴザイマス」


「こちらこそいつもありがとうございます。リューさんが品質の良い薬草を採ってきてくれるようになって、錬金ギルドからの評判も良くなってるんですよ。はい、ではこちらが報酬です。小銀貨2枚と銅貨5枚ですね」


 俺はミリアさんから報酬を受け取った。

 この世界の通貨は硬貨が使われており、鉄貨から始まり、鉄貨10枚で銅貨、銅貨10枚で小銀貨、小銀貨10枚で大銀貨というように10単位で貨幣の価値が変わるのだ。俺が泊まるような安宿に泊まるのに必要なのは一泊、大体小銀貨1枚だ。日本円にするなら5千円くらいだろうか。つまり、今回の稼ぎは1万5千円くらい。まずまずと言った稼ぎだろう。


「ハイ、ドウモ。……キョウ、ハサワガシイ。ナニカアッタカ?」


 俺は周りの様子を伺いながらミリアさんに尋ねた。


「あ、はい。ちょっと大口の依頼が入りまして。……ただ難易度が高いので皆さんどうするか迷われているようです」


 やはりそういうことか、こんなに冒険者たちが騒ぐのは大抵喧嘩か大口案件が入ったかだ。まぁ、俺にはあまり関係ないだろうがこうも騒がれると少し気になってしまう。


「オオグチノイライ? トウバツ?」


「いえ、討伐ではなくて採取なんですけど…」


 俺の予想とは違い討伐ではないらしい。採取なら俺でもできるかもしれないがそれで簡単にできたら大口案件にならないだろう。


「サイシュ? ヤクソウ?」

「ええ、シェラウンの花の採取依頼なんです」

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