村の散策2
ほぼ一瞬で広い畑が耕されたのを見て固まった村人、魔物使いの少年、ウェインの復活を待つこと30秒。
「な、な、なんだこりゃ!坊ちゃまは大魔法使いですか?」
「え、普通の”土魔法使い”だけど?」
ウェインとトニーが”どこがだ!”と言う表情でカインを見ていた。
「さ、約束通り賃金を払ってあげてね」
「は、はい。運が良かったな」
村人は賃金を支払い、そそくさとその場を立ち去って行った。
「さて、改めて自己紹介をするね。 僕はサンローゼ子爵家 4男のカインよろしくね」
「俺、いえ私は、トニーといいます。魔物使いです。このハナコ(カウカウブル)の主人で農作業を村人の代わりに畑を耕す商売をしている、しています」
「トニー、僕の方が年下だと思うから普通に話してもらっていいよ。カインと呼んでくれる?」
「お、おう。ありがとな、カイン」
ウェインが鋭い目でにらんでいるが、子供どうしなのでスルーさせて貰う。
「でも、なんで助けてくれたんだ?貴族様でもハナコは譲れないぞ」
「譲って貰うまでは、考えてないよ。でも僕の予想が正しければサンローゼ領街に来て貰う事になるかな?」
「サンローゼ領街に??何か危ない事をさせる気か!?」
トニーが警戒し始める。
「そんな大変な事はお願いしないよ、安心してほしいかな。本題なんだけど、ハナコって牛乳出たりする?」
「”ぎゅうにゅう”?なんだそれ?」
「あ、えっと、乳、ミルク、母乳?」
カインが頭を左右に傾げながら、類似の言葉を並べる。
「ああ、ミルクな。出るぞ、でも普通の人が飲むと腹が下るけどな」
「おっ”ミルク”で通じるのか。よし、その”ミルク”今から飲めるかな?」
「一度姉ちゃんの所に戻ってトンコ、子供のカウカウブルにミルクを飲ませてからならいいぞ」
「じゃあ、早速行こう! あ、でもその前に雑貨屋さんで薬草を買ってからかな?」
カイン、トニー、ウェイン、ハナコは、ぞろぞろと雑貨屋に行き、熱さましの薬草を購入し、トニー達が滞在している納屋?に着いた。
「姉ちゃんただいまー、薬を買ってきたからもう大丈夫だぞ」
カインとウェインは、中に女性が居るとの事で表でしばらく待っていた。中からトニーと女性の言い合う声がかすかに聞こえてくる。その後バタバタと何かを片付ける音が聞こえ、そして聞こえなくなりトニーが出てきた。
「お待たせしました。えっと、汚い所で申し訳ございませんが、お入りください」
何かセリフを読んでいる様な口調でカイン達を招き入れた。
「トニー、急に変な口調に戻ってどうしたのさ? あ、お邪魔します」
薄暗い納屋の中に入ると入り口は土間になっており、左側に3畳ほどの板間があり女性が座っていた。
「こんばんわ、お邪魔します。カイン=サンローゼです。ミルクを飲ませて貰いに来ました」
女性に向かい”安全です”を前面に出した挨拶をした。女性は18歳くらいで少し痩せているが可愛い人だった。
「ご丁寧にありがとうございます。私は、トニーの姉のナナと申します。狭い所で申し訳ございません」
ナナさんが座りながらではあるが、頭を下げて挨拶をしてくれる。
「こちらこそ、ご病気の所無理を言ってすみません。ミルクを頂いたらすぐに帰りますので」
「トニーに聞きましたが、本当にカウカウブルのミルクを飲まれるのですか?初めての方はお腹を壊す可能性があるのですが?」
「大丈夫です、対策は考えていますので」
ナナさんと話していると、木の椀にミルクを入れてトニーが戻って来た。
「お待たせカイン、でも本当に飲むのか?」
トニーが不安そうにミルクの入った木の椀を差し出して来た。カインは「ありがとう」と言って受け取る。
木の椀には、牛乳より少し黄色味のかかった色をしているミルクが入っていた。見るからに濃厚そうだ。カインは懐から【浄化】の魔法陣カードを取り出し【魔力】を流し使用した。
ミルクが少し発光し消える。そして口をつけて飲む。
「美味しい、ちょっと濃厚だけど。美味しいよトニー」
「カイン様、大丈夫ですか?」
ウェインが心配そうに尋ねてくる。
「うん、【浄化】の魔法を使ったからお腹を下す事は無いと思うよ。ウェインも飲んでみる?」
ウェインは、恐る恐る木の椀に口をつけて飲んだ。
「初めて飲む味ですが、不味くはないですね。なれると美味しく感じると思います」
少しびっくりした表情で答えた。カインはにっこり微笑みながら、このミルクを使って何を作ろうか考え始めていた。
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