村の散策
「カイン様、ウェインです。少しよろしいでしょうか?」
扉の向こうから今回護衛として同行している、ウェイン隊長の声が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
カインは入室の許可を出しながら、扉の方を向いた。
ウェインが移動時に着ていた鎧を脱いだ姿で、扉を開けた。
「お休みの所申し訳ございません、奥方様よりカイン様の村内の散策の同行をご指示いただきました」
「えっ、村内を見てもいいの? やったぁー!」
「本日は馬車での移動でさぞ退屈だったのではないか?と申されまして。もしお疲れではなかったらですが」
「うん、全然大丈夫。すぐ行こう、今行こう」
カインは飛び出すように部屋から出て外に向かった。
村の広場では、買い物や家に向かう人たちが歩いていたり歓談をしていた。トンガ村の主な産業は他の村と同じ農業だ。しかし街道沿いにある村の為、カイン達が宿泊する宿屋と酒場、そして雑貨屋があった。酒場に行ってもお酒を飲めるわけではないので、カインは雑貨屋に向かう。
雑貨屋は、ここを通る行商人等から品物を仕入れている為か、村の規模以上の品ぞろえがあった。予想するに村人だけではなく、旅人や行商人相手にも商売をしているのだろう。そうでなければ、野営用のテントや馬車の車軸などは並んでいないと思うカインだった。
食材なのか、薬なのか瓶詰めの薬草や種、香辛料と思われる物もあった。その中にひと際目を引く物があり、乾燥した黒い草?の様な物を手に取る。乾燥した蔦のような外見だが、振るとカサカサと音が鳴る。そしてほのかに甘い香りがする。
「店長さん、これは何ですか?」
かなり緊張した面持ちでカイン達が、入店してからずっとこちらを伺っていた店長らしき男性に質問をした。
「いらっしゃいませ。はい、それ。いえ、そちらは2年前くらいに遠方から来たという行商人から購入した物です。香辛料の一種らしいのですが、甘い匂いなのですが味が無いのです。そんなわけで売れ残っています。それ以来、その行商人も訪れないので甘い匂いに騙されて購入しましたが、使い方も分からず売れ残っているのです」
「へぇー、そうなんですか」
『これは、絶対バニラビーンズだ。ああ、解析めがねを持ってくればよかった』
「これ、おいくらですか?」
「売れ残りなので、銀貨2枚、いや1枚でいかがでしょうか?」
「ありがとうございます、購入します」
カインは銀貨1枚を店長に渡し、購入したばかりのバニラビーンズらしき物を大事に抱え店を後にする。カインが笑顔で得体のしれない、乾燥した草にしか見えない物を大事に抱えているのでウェインが質問してきた。
「カイン様、自分には知識がないので購入された物が何なのか想像がつきません。教えて頂く事は可能ですか?」
ウェインが本当に不思議そうにカインが持っている物を見ていた。
「これは、一種の香辛料でこのまま食べても味がしないんだけど、ある料理を作る材料なんだ。使うとこの甘い香りがたまらなく良い物になるんだ」
ウェインは「そうなんですね」としか言えず会話が終了した。その後も村の中を散策するが、特に見る物が無く宿屋の前に戻って来てしまった。他に何か見る物がないかと考えていると、村の入口とは逆にある農耕地の方から口論する声が聞こえてくる。カインが見ると大きな4足動物をつれた子供が、村の大人達と何やらもめている様だった。
何となく、その4足動物が気になったカインは現場に近づいて行った。近くまで行くとその4足動物は額から一本角をはやした灰色の牛のような動物だった。
「だから、仕事は最後までちゃんとするから賃金を先に貰えないかとお願いしている」
牛のような動物を連れている、中学生くらいの少年が村の大人に交渉をしていた。
「それが、人に物を頼む態度か。それに金だけ持っていなくならない保証が何処にある」
「だから、そんな事はしないって言っているだろう。姉ちゃんが熱を出してるから熱さましの薬と食べ物を買う金が欲しいんだよ」
「そんな事、知った事か。お前たちがこの畑を明日までに全部耕すと言ったから、泊まる場所まで用意してやったのにまだ半分も終わっていないのにどうして金が払えるっていうんだ」
村人が少し怒気を乗せて子供に言い放つ。
「それは、姉ちゃんとタロウが一緒に耕せたら出来たんだけど・・・」
「ほれ、見ろ。最初から出来ない事を言っていたんだ。まったく流れ者はこれだから」
「あの~、ちょっとすみません?」
カインは少し強引に会話に割り込んだ。
「ああん? 誰だお前は?」
怒りが収まらない村人は、カインに気づかず子供を脅していた口調のままで返答してしまった。
「貴様、カイン様に向かって何を言っている! 」
ウェインが剣に手を掛けながら、カインの前に割り込んできた。
「ひ、ひぇ~、誤解なんです。おら、貴族様に気づかず申し訳なかっただ」
村人は、しりもちを付きすぐさま土下座をしながら謝罪をした。
「急にこちらから、声を掛けてしまったのが悪かったので気にしていませんから。立ち上がってくれませんか? そして良ければ話を聞かせてくれませんか?」
カインがウェインを宥めながら、村人に説明を求めた。
まとめると。この少年、トニーと姉は牛の様な魔物を使役する魔物使いで農村を回りながら畑を耕す仕事を請け負って生活をしている。この村にも3日ほど前に到着し、明日までに畑を耕す仕事を請け負ったが少年の姉が病気になり賃金の先払いを交渉していたとか。
「それじゃ、僕が代わりに畑を耕すので賃金を払ってあげて貰えないですか?」
カインが提案すると村人と少年は「何を言っているんだ?」という顔をした。ただ、貴族の子息の提案なので村人は
「坊ちゃまが、代わりにと言われるのであれば可能ですが。結構広いですよ」
村人は少年たちが耕すと約束した畑を指さした。畑の広さ的には、バスケットボールのコートが3面くらいのそこそこ広い畑だった。
「それじゃ、約束ですよ」
カインは、地面に手を付けて魔力マシマシの【アースディグ】を唱えて指定された畑を一瞬で耕した。手に着いた土を払いながら、ウェイン達を見ると大きな口を開けてポカンとしていた。
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