馬車での移動は退屈?
意気揚々と箱馬車に行き、リディアに次の休憩まで、御者台に座る許可をお願いした。肯定の回答が返って来ると笑顔で待っていたカインだったが、返って来た答えは
「何を考えているのです、この季節に準備を何もしてない貴方が長時間御者台にいたら直ぐに風邪を引きます!許可する事はありません」
はっきりと不可を言い渡された。まさかの不可でガックリしていると、ララから救いの手が差し出された。
「リディア様。街道の状況だけであれば、幌馬車の後ろから眺めるのは如何でしょうか? 御者台よりは、かなり暖かいと。それに野営用の毛布にくるまる事も出来ますし」
「そうね、それであれば風邪を引かないかしら? わかったわ、次の休憩地までですよ」
「リディア母さま!ありがとうございます!」
カインは、これでもかと言う満面の笑みで抱きついた。リディアは、「ふふふっ」と笑い頭を撫でてくれた。
しばらく幸せに浸ってからゆっくりと離れ、幌馬車へ向かった。
幌馬車の中は、前方に色々な荷物が積まれていて前が見えなかった。荷台の後方も、積み上げられない荷物が積まれていて、残り2人くらいが座れるスペースしか空いてなかった。
「これは、ララに悪い事をしたかも?」
カインが荷台の狭さに驚いているとララが後ろから近づいてきた。
「カイン様、気になされないで下さい。1人では寂しかったので、一緒に過ごせるだけ嬉しいです。さて荷台に乗りましょうか」
ララに手を貸してもらいカインは荷台に乗り込んだ。次はララが乗り込む番だが、地面から荷台までは約1mで荷台の壁の高さが50㎝。合わせて1.5mを台もなくどの様に乗り込むのかと見ていると。ララは膝を少し曲げると、そのまま垂直飛びをして乗り込む。メイド服のスカートが着地時に”ふわっ”となるが素早く手で押さえた。
「お見苦しい所を」とララが少し俯きながら言ったので、カインも気まずく同じく下を向いた。
「さて、カイン様こちらにお座りください。もうしばらくで出発です」
カインは言われた通りに3,4重におられた毛布の上に座った。
「失礼しまーす。寒いので一緒に毛布に入りましょうね」
ララは、カインの後ろに回り抱え込む様に座り、毛布で包み込み抱きしめる。
「ララなにをしているのかな?」
カインは後頭部に当たる柔らかい感触にドキドキしていた。
「えーと、カイン様が可愛い、いえ、風邪をひかれない様に温めているんです。もし風邪を引かれたら、リディア様に叱られてしまいますので。しっかりと温めさせていただきますね♪」
2人がそんなやりとりをしていると、馬車が走り出した。やはり、箱馬車より揺れが大きい感じがするがララに後ろから抱えられているので、それ所ではないカインだった。
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「よく、この揺れで寝れるよね?寝ててもこの手がしっかりと抱きしめているから動く事もできない」
カインの頭の上で静かな寝息を立てているララを背中と後頭部で感じながら呟く。
「さて、あまり楽しんでいないで目的を果たさないと。街道の広さはっと」
街道はおおよそ6~7mくらいの幅があるが所々、轍が出来ておりそのたびに大きく馬車が揺れる。それにたまに砂利がある様でガタガタと振動が伝わってきた。
「道幅全部を”石畳”にすると早馬が石の上で転びそうだよね。どちらか1mは土のままがいいかな? 後でアーガイル騎士団長に聞いてみよう。
後は、排水だけど街の中みたいに排水路を作るのは現実的じゃないから”カント”を付けるかな?」
カインは、身動きが出来なくて中々大変だったが2時間の道中 街道の情報収集に努めた。
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”ガラガラガラ” 箱馬車と幌馬車が村の入り口で止まった。箱馬車の扉の前には、村人達が並び馬車から降りてくる人々を迎える為に並んで待っていた。ここは、サンローゼ領街を馬車で1日進んだ所にあるトンガ村だ。人口は150人程の少し大きめの村である。街道の通り道にあるため、行商人や旅人が立ち寄るためそこそこ賑わいがある。
ララが箱馬車の扉を開くと最初にリディアが降りる。その後をアリス、カインの順に続く。
「奥様、本日は遠い所お越しいただきありがとうございます。私は、村長のべノンと申します。何もない所ですがご寛ぎ頂ければと存じます」
「出迎えご苦労様です。短い間ですがよろしく頼みます」
リディアがやさしく微笑みかけると、出迎えていた村人達の緊張が解けたようだ。その後村長の後に続き本日宿泊する部屋に案内された。リディアとアリスが一番大きな2人部屋、カインは1人部屋に案内された。少し狭いがとても掃除の行き届いた、きれいな部屋だった。
部屋の窓を開けると村の広場に面している為か、夕食前の買い物や一日の仕事終わりに話をしている村人達が見える。あまり屋敷の外に出られないカインにとってはとても新鮮な風景だった。
「このまま、夕食まで部屋で待機かな?」
カインがそんな事を考えていると扉をノックする音が聞こえた。
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