さぁ、出発だ
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サンローゼ家の屋敷の前に馬車と幌馬車が止まっている。幌馬車の荷台には、贈答品や旅の備品や食料品が積まれていた。馬車は黒い箱馬車で、6名程が載れる貴族仕様である。いつもカイン達が移動に使用している馬車より豪華であった。
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「へぇー、家にもこんな立派な馬車があったんだね」
クリスが黒い箱馬車を見ながら呟いた。
「何を言っている、今回シールズ辺境伯爵領に行くために借りたのだ。まだまだ、追加の馬車を購入し維持できるほど潤ってない」
アーサーがかなり呆れ顔でクリスに突っ込んだ。
「えっ、家ってそんなに危ないの?」
「今すぐにどうこうなる程の状態ではないが、何もしなければ10年以内には立ち行かなくなる。今回父様の仕事を手伝って良く分かった。父様も母様も何もしていない訳ではなく、色々な施策を行われている。だが結果が出るのは数年先だ」
「アーサー兄様、学院を卒業して王都の騎士団に数年所属した後、サンローゼ領に戻って家庭を持ちたいので必ず豊かにして下さい」
クリスはアーサーの両手を包む様にしっかりと握る。
「何を言っているんだ、お前も手伝うんだ」
アーサーは静かに低い声で怒気を乗せて言い放つ。
「は、はい」「よし、言質を取ったからな」
アーサーは表情を崩して楽しそうに笑った。
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「カイン様、道中気を付けてくださいね。本当は私も同行させて頂きたかったのですが」
「ガーディー、新婚早々離れ離れはないでしょう」
ガーディーとカインが荷馬車に荷物を運びながら会話をしていた。ガーディーは昨日ノエルと結婚式を挙げたばかりで明日から休暇を取る予定なのだ。この異世界では新婚旅行等は一般的ではなく、結婚後1週間位の休暇を取って過ごすらしい
「お土産を買ってくるから楽しみにしていてね」
「お心遣いありがとうございます。私は無事に戻られるだけで十分です」
『ガーディー、それはフラグではないでしょうか?』
「心配無用だよ、騎士団が護衛してくれるしね」
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「リディア、アリス久々の移動になるから十二分に気を付けて欲しい。リディア、これがシールズ辺境伯爵へ渡してほしい書状だ。よろしく頼む」
「確かにお預かりしました」
「アリス、シールズ辺境伯爵の所にはアリスと同じく今年から学院に通う”ナディア嬢”がいるから挨拶をしておくように。学友になるのだから、仲良くして貰える様にしっかりとな」
「分かっております、私はそんなに子供ではありません」
ルークがリディア、アリスの順にはハグをした。
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「ララ、これが頼まれていた”閃光玉”と”爆音玉”だ。使い方は知っていると思うが念のため、両方とも魔力を通し2秒後に発動する。少し私の趣向で通常より強めになっているので注意して」
ベンジャミンがララに小さな袋を渡していた。
「ありがとうございます。使わないで済むのであれば、それが一番です。必ず皆様をお守りします」
「よろしく頼むよ」ベンジャミンが爽やかな笑顔でララと握手をした。
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「それでは、皆様。馬車の方に乗車をお願いします」
今回の旅の護衛をするアーガイル騎士団長が声を掛ける。
「「「それでは、あなた(父様)行ってまいります」」」
「気をつけてな、アーガイル頼んだぞ」
「「「はい」」」「はっ」
リディア達は、ルークににっこりと返事をし、アーガイル騎士団長は敬礼で返答をした。
先導の騎士たちが馬を進め、その後を馬車と荷馬車が続く。ルーク達、留守番組はリディア一行が屋敷の門
を出るまで見送っていた。
「行ってしまいましたね、父様」
「そうだな、2週間は屋敷に一人だと思うと気が滅入る。アーサー達は明日いつ頃に出発だ?」
「はい、昼前の出発です。屋敷が静かだと仕事がはかどるのでは?」
「リディアの手伝いが無いから、余計に遅くなる」
ルークが寂しさを背中に漂わせながら、屋敷の中に入って行った。
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”ガラガラガラ” サンローゼ領街をでて大体2時間が経った。始めは街の外にあまり出た事がなかったアリスとカインは、流れる景色を楽しそうに見ていたがあまり代わり映えが無くなってしまい、ついには飽きてしまい2人共静かになった。
揺れる馬車の中では、本を読む事も難しく寝るにもそれほど疲労が無いため出来なかった。
『はぁー、馬車の性能もそうだけど道が悪すぎて揺れがひどい。よく異世界物でサスペンションの改造とか頑張る主人公が多いけど、気持ちが良く分かる』
「リディア母さま、休憩までどのくらいですか?」
「そろそろ、だと思うけど?」
この揺れの中でも気にせず読書をしていたリディアが顔を上げて答えた。
そんな会話をしていると、馬車の速度が落ちて来た。しばらくゆっくり走っていたが道の横に広がった場所に着き馬車が停車した。
「お疲れ様でした、最初の休憩場に到着しました」
馬車の扉をノック後、ララの到着の声が聞こえた。
「ララ、良いわよ。開けて頂戴。アリスとカインを降ろしてあげて」
「かしこまりました」と言いながら扉が開いた。
「さっ、アリス様、カイン様 馬車を降りて身体を伸ばしましょう」
アリスとカインは飛び出すように馬車を降りた。休憩場はサッカー場の半面くらいの大きさがある場所だった。それぞれの御者は、馬用の水桶を用意し水を飲ませたりマッサージをしていたりした。騎士団達は周囲を警戒する者と馬の世話をする班に分かれ行動していた。
「ねぇ、ララ。今日宿泊する村まではどのくらいで着くの?」
「そうですね、夕方くらいでしょうか?アリス様」
「まだまだ、時間がかかるわね。つく前に退屈で倒れちゃうかも。何もないのも退屈だわ」
アリスは、まだまだ続く道の先をみて溜息を吐いていた。
カインは通ってきた道とこれから進む道を見ながら、全部”石畳”にするのはやりすぎかな?とか考えていた。『道が整備されれば揺れも少なくなるし、スピードも上がるから良いと思うんだけどなぁ。そうだ次の休憩まで御者台に乗って道の状態を見てみようかな!』
リディアの許可を取るために、カインは馬車に戻った。
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