買い物をしよう3
「美味しぃー、甘いー‼」
アリスの”だいがくいも”を食べた感想が、食堂に響いていた。
「アリス、座りなさい。美味しいのは分かったから、もう少しお淑やかに感動しなさい」
リディアも目じりを下げ”だいがくいも”を食べながら注意をしている。
「しかし、この”だいがくいも”は新しいな。これを食べる為だけに、我が領を訪れる商人が増えると思うぞ」
ルークが”だいがくいも”をフォークに差し目の高さに上げて感想を言った。
「帰って来て本当に良かった、カインに感謝だね。カインありがとう」
クリスが隣で同じく”だいがくいも”を頬張っているカインに向かって感謝を伝えた。
「これは、…にも食べさせてあげたいな」
「うん? アーサー兄様。誰に”だいがくいも”を食べさせたいのですか?」
ベンジャミンがアーサーが何気なく呟いた言葉に、すかさずツッコミを入れていた。アーサーは慌ててベンジャミンの口を塞ぐ。ベンジャミンとカイン以外にアーサーの発言は気づいていない様で、2人のやり取りを”仲がいいな”くらいでしか見ていなかった。
カインは”だいがくいも”を食べながら、ロイド料理長の技術というかセンスに吃驚していた。試食の時に作ったレシピは道雄の祖母のレシピで家庭の味を超えるものではなかったが、ロイド料理長が出して来たこの”だいがくいも”は、お店の味になっていた。これは、夕食後の”かすてら”が余計に楽しみだと1人ワクワクしていた。
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「ベン兄さま。冒険者ギルドで魔石を購入してきたのですが、魔石に【魔力】を溜める方法を教えていただけないでしょうか。【魔力】を溜めれれば【魔法陣魔法】で、魔道具を作れるのではないかと思って」
「良いよ、約束だったしね。どこから説明しようかな? 魔石から【魔力】を引き出すところからかな」
ベンジャミンは、側に在ったカバンから羊皮紙の束を取り出した。
羊皮紙の上には様々な記号と文字らしき物が並んでいた。カインの目には、プログラム言語の様に数行の文字の並びがあった後、記号になり再度文字に続いていた。
「この【魔法刻印】は、3つの構文で成り立っていて、1つ目はこの魔石からの【魔力】を引き出す”構文”。2つ目が実行したい【魔法】を記入する”構文”。3つ目が【魔法】を実行する場所を決定する”構文”。これはどんな魔道具でも変わりはないんだ。【魔法刻印】はまだまだ研究が進んでいなくて、この”構文”の使い方しか出来ないのが正しいかな」
ベンジャミンは、羊皮紙に書かれている”構文”の意味やパターンを説明してくれた。現在に伝わっている文字の意味や構文を写させてもらえたので、ベンジャミンが戻った後も研究が出来るようになった。説明を受けている間に一つ気付いた事があった、それを質問すると。ベンジャミンは嬉しそうに
「カインなら気づくと思ったよ。そう【吸魔器】の魔力を吸い出す”構文”はここにはないんだ。私が研究を重ねて見つけた新しい”構文”なんだよ。あと”構文”の内容を後から変更できる方法と合わせた2つの成果で、研究室を貰えたんだ」
『発想の目の付け所がこの世界の常識を外れているな』とカインは説明を受けながら考えていた。『もしかしてベンジャミンも”転生者”だったりして?でもガーディア様はそんな事言ってなかったしねぇ』と考えているとベンジャミンに呼ばれている事に気づいた。
「…カイン? カイン? 聞いているかい?」
「ああ、すみませんベン兄さま。考え事をしていました」
「もうそろそろ夕食だから、続きは明日にしようと思うけどって聞いてたんだけど、どうする?」
「そうですね、夕食に遅れるわけにはいかないので続きは明日にしましょう」
資料を片付けて揃って食堂に向かった。今夜の夕食は、パンとサラダと肉入りのスープだった。夕食はいつも通りとても美味しかったが、カイン以外の家族はどこかソワソワしていて落ち着きがなかった。どうやら食後のデザートが気になって落ち着きが無くなっている様だった。
夕食が終わり食器が片付けられると、メイド長が香茶の用意をしてカップに注いでいった。いつもより濃いめの様だ。その後”かすてら”が小皿に入れられて運ばれてきた。まだ温かいのか”かすてら”から甘い匂いがしている。
”かすてら”を運ぶメイドの後に続いて、ロイド料理長が食堂に入って来てルークの側に立つ。
「ロイド、このお菓子の説明をしてもらえるか」
「畏まりました、このお菓子は”かすてら”と言います。カイン坊ちゃんから提供されたレシピです。まずは、お召し上がりください」
ロイド料理長から許可?が出ると一同が一斉に、フォークを”かすてら”に差して口に運んだ。
「「「んっっ!」」」
言葉にならない、声を上げ目を見開く。そして口をもぐもぐして「ほーっ」とため息をついた。アリスなんて夢中になって食べていた。
「これも、素晴らしく旨いな」
ルークが”かすてら”を食べた感想をロイド料理長に伝えた。
「はい、この”かすてら”は今までのお菓子とは一線を画すものと思います。柔らかく、甘く、しっとりしており、とてもお茶に合う。どうでしょう、この”かすてら”のレシピはサンローゼ家だけの物にして訪問されたお客様のみに出されては?」
「そうだな、この”かすてら”があれば貴族でも食べに訪れると思う。リディア、ランドルフどうだろう?」
「「その通りだと思います」」
リディアとランドルフが声を揃えて賛成した。
カインは、”だいがくいも”につづき”かすてら”でもロイド料理長はセンスが違うと吃驚した。試作で作った物より何倍も美味しかったからだ。甘さがとても丁度良くしっとりとして、それこそ〇明〇のカステラかと思った。カインがロイド料理長の方を見るとにっこり微笑んでいた。
経験の差は凄いと少し悔しさを感じたが、アリスがとても嬉しそうに目を蕩けさせて食べているのを見てどうでも良くなってしまったカインだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。”お菓子”の回は今回で終了です。




