乗り越えられた日
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「よっし、昼寝したらスッキリした。身体の痛みもかなり良くなったし。厨房に行って飲み物を貰おう」
寝起きの身体に水分補給をする為、厨房に向かった。
厨房では、何やら大きな肉の塊を解体?している所だった。その肉は、血抜きがちゃんとされていて、切っても血が出てなかった。以前、山鳥の解体を見た事があったが、かなりショックな光景だった。
「ロイド、その肉かなり大きいけど何の肉?脂身と赤身が綺麗でかなり美味しそうだね?」
肉を覗き込みながら聞いた。
「カイン坊ちゃん、お目覚めかい?この肉は坊ちゃん達が倒したオークナイトの腹身の肉さ、美味そうだろ?」
「げっ、頭の片隅では考えてたけど、まさかオークナイトの肉だったとは...一気に食べる気が失せたよ。おじゃましましたー」
どんよりした気分になりトボトボと厨房を出ようとすると、襟首を掴まれた。
「ぐぇ、何するのさ! 喉にはいったから...」
振り向くと物凄い形相のロイドがいた!「ヒッ」
「何をふざけた事言っとるんだぁ、あん?」
怒り心頭なのか口調まで変わってカインを睨み付けていた。
「こんなに美味い物を食べないでどうする? それに弱者が強者を喰らう事で強くなれるのに、拒否するのか?」
「でも、そいつに殺されそうになったんだよ。見ると恐怖が甦ってくるんだよぉ」
「ちょっと待ってろ」
下を向きながら恐怖に震え始めたカインを見て、ロイドが肉を掴みフライパンで焼き始めた。"ジュウジュウ"と肉の焼ける音と共に、良質な脂と肉が焼ける暴力的に良い匂いがしてきた。
"ゴックン"カインは、いつの間にか口一杯に溜まった唾液を飲み込む、『なんだ、この良い匂いは?』フライパンから目を離せなかった。
焼き上がった肉を皿に盛り、カインの前に差し出された。カインは、それでも恐る恐るフォークで肉を刺し、口に入れた。
「どうだ?美味いだろう?」
「美味しい、ヤバイくらい美味しい!!」
「それでも、食べないと言うか?」
「ごめんなさい、食べます、食べさせて下さい!」
「おっし、今夜は沢山焼くから残さず食べるんだぞ」
そこには、何時もの優しいロイドの満足そうな笑顔があった。
「こんだけ良い肉なら、あれ作って欲しいんだけど。"勇者様のレシピ"で読んでるだけで食べたくなったんだ」
「よし、作るからレシピを持ってきてくれ」
「すぐ戻るからーーー」
「ルーク様が心配されてたが、乗り越えられたかな?」
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「ますは、バラ肉を柵にして4面を焼いて肉汁を閉じ込めるんだって、その後は、水とワインを入れて1時間くらい中火で煮る。その時、薄切りにしたショウガとネギの青い部分も一緒にだって 」
ロイドが言われたまま、調理をする。
「1時間煮たらどうするんだ?味付けは?」
「えっと、肉だけ取り出して別の鍋でお湯、醤油、砂糖、はちみつを入れて、また45分くらい煮るって書いてあった。そうすると、脂がトロトロになって、やわらかい肉になるんだって。あとゆで卵を一緒に煮ると良いって書いてあったよ」
「ちなみに、この料理の名前は?」
「えっとね、『角煮』かな?」
『これでやっと、角煮が食べれる。レシピを見た時から食べたくてね。写しておいて良かった!』
「よし、出来たぞ。おおっ、フォークがすんなり入るくらいやわらかい」
ロイドが若干興奮しながら深い皿に角煮を盛り付ける。厨房には、とても良い甘辛な醤油の匂いが漂っていて、他の料理人達も、匂いを嗅ぎ付けて集まった数人のメイドも固唾を飲んで見守っていた。
「大分集まったな?まぁ、みんなで味見してみるか?」
その一言に、全員"うんうん"と頷いていた。
全員に角煮が配られ、カインが食べ始めると一斉に角煮を頬張った。
「「「「美味しい!」」」「「「美味い」」」などの声が上がった。
「こりゃ、美味いな。それに少し濃い味でエールと食べたらもっと美味いかもな」
ロイドにも受け入れられたようだ。
みんなで味見を、「あとちょっと、あとちょっと」と言ってる間に全部無くなった。
「全部無くなってしまった! ルーク様達の分まで!」
「しょうがないよ、今から作り直しても間に合わないし。明日また作ればいいんじゃない?父様には、試しに作った新料理が美味しかったから明日出しますって言えばね。そう思わない、ランドルフ?」
いつの間にか試食会に参加していたランドルフに話を振ってみた。
「左様ですね、本日は試しに”味見”として試作した、と報告しましょう。そのかわり、ロイド料理長。明日は沢山作っておいてくださいね。」
「おう、任せておけ!」
その日の夕飯は、オークナイトの肉のステーキだった。もちろん美味しかったが、角煮を超えなかった。明日も楽しみと試食組は思いながら食事をしたとさ。
「美味しいは、幸せだね」
カインは、また一つこの世界を好きになった?
調理時の材料の分量など実際は記載されていますが割愛しました。ご了承願います。




