兄弟の絆
アーサー、ベンジャミン、クリスが帰って来て、家族が全員揃ったので今夜は何時もより、少しだけ豪華な夕食だった。とは言え、ハンバーグにマカロニサラダ、野菜スープにサツマのデザートだったが、兄達は、「美味い!、美味い!」と楽しんでいた。
夕食後、ルークは3人を執務室に呼び何やら話をするそうで、暇になったカインは書庫で"勇者様の書''を読む事にした。
「はー、やっぱり下水道は作りたいなぁ。トイレを水洗にするには必要だし。それに、その内に城壁の拡張も、後はお風呂かな?」
カインがぶつぶつと考えながら本を読んでいると
「カイン、いる?」
書庫の入り口からクリスの呼ぶ声が聞こえて来た。
「はい、クリス兄さま。何か御用ですか?」
「おー、いたいた。へー凄いなぁ、もう本を読むんだ!僕は本を読むのが苦手だったから、書庫なんて滅多に入らなかったよ」
クリスが周りの本を見回しながら近付いて来る。
「カイン、兄さん達が呼んでるから。アーサー兄さんの部屋に行こうか」
「はい、すぐに片付けます」
アーサーの部屋なんて初めて入るかも?本を棚に戻しクリスの後に付いて、アーサーの部屋の前まで来た。
「アーサー兄さん、カインを呼んで来ました」
扉の前でクリスがアーサーにお伺いをしていた。
『へー兄弟でも勝手に入ったりしないんだ』
仲が良いだけに少し驚いた。
「いいぞ、入れ」
「失礼します」「しつれいします」
カインもクリスに続き入室する。
「クリス、やれば出来るじゃないか。何時もやってれば、教官に怒鳴られずに済むのにな」
「カインの前で言わないでください」
その言葉でアーサーとベンジャミンが笑っていた。
やっぱり、仲が良いね。
「カイン良く来た。少し男だけで話をしたくて呼んだ。まだ早いかと思ったが、ベンジャミンが大丈夫だと言うから」
ベンジャミンがそれを聞いて頷いている。
「カインは、我が家が子爵家だとすでに理解できているな?」
カインが頷いているのを見てアーサーが続ける。
「我が家は、カインを含めて男子が4人だ。率直に聞くがカインは嫡男になりたいか?」
いきなりとんでもない事を聞いて来た!びっくりしたが落ち着いて答える。
「いいえ、望みません。領内の発展の為、アーサー兄さまを少しでもご助力出来れば、それ以上は望みません」
「ほら、言ってた通りでしょう?」
ベンジャミンは予想が当たって嬉しそうに言った。
「何故、お前達は揃って同じ答えなんだ?」
「だって、父様を見てると毎日書類に囲まれて大変そうだし。何処にも行けなくてつまらなそうじゃない?」
クリスがぶっちゃけるとベンジャミンもカインも「そう、そう」と頷いた。そして、みんなで笑った。
「まあいい、カインも加わったから改めて頼む。俺は兄弟全員を養えるように、このサンローゼ家を豊かにしたい。力を貸してくれ」
アーサーはそう言って頭を下げた。ベンジャミンとクリスは、立ち上がって「御意」と答えたので、カインも慌ててそれにならい、立ち上がって「御意」と答えた。
「さて、堅苦しいのはここまでだ。今夜は、兄弟で領内の発展とそれぞれの近況について話そう。特に彼女とかな」
アーサーが少し悪そうな笑みを浮かべながら、何処からか飲み物と食べ物を出してきた。
それから、話が盛り上がりかなり遅くまで起きていたので次の日の朝練は寝坊してしまった。たまには、こんな事もいいね。と思うカインだった。
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その頃、大深森林では。
ギャギャ、ブヒブヒ と魔物達の声がそこかしこに響いていたが、まだ領街からは遠く誰も脅威が近付いている事に気付いていなかった。




