サツマが出来た!
シールズ辺境伯が帰られてから、しばらくたったある日。午前中の何時もの日課を終えて昼食を食べに食堂に向かうととても楽しそうにしているリディアが先にいた。
「リディア母さま、何か良い事でもありました?」
「えっ、分かる? うふふ、今年の年越しにみんなで帰って来るって手紙が来たの」
そうして、手紙をカインに渡してくる。
手紙はアーサーからで、今年の年越しにはアーサー、ベンジャミン、クリスの3人でサンローゼ家で過ごす事が書いてあった。そして、王都にもサンローゼ領街の”石畳”の道の噂が届いている事も書いてあった。
『へークリスも帰って来るんだ。クリスの事は殆ど覚えてないんだよね。俺が小さかったからあまり近付かせてもらってなかったのかな?』
「リディア母さま、良かったですね。全員が揃うのは何年ぶりですか?」
「たしか、クリスが学院に入ってから一度も帰って来てないから3年ぶりかしら?」
リディアが首を傾げながら答えてくる。
『かわいい、リディアは天然でこんなしぐさをするから、ルークが浮気とかしないんだろうな』
「楽しみですね」
カインは、嬉しそうなリディアをみて自分も嬉しくなっていた。
昼食後、カインは訓練場の端にある、菜園に来ていた。
「ガーディ、お待たせ! 待った?」
「いえいえ、予定通りですよ。ちゃんとお昼は食べてきたのですか?」
ガーディとは、”石畳”の道を一緒に作ってからとっても距離が近くなったと感じている。最近噂では、整備局のノエルとお付き合いを始めたとか。
それも合わさってか、昔のような尖った感じや寂しそうな感じが無くなったとカインは感じていた。
『身近な人が幸せになるっていいよね』とか思っている。
「もちろん、がっつり食べたよ」
にっこりと笑顔で答えた。
「そんな事より、サツマはどう? 大きく育った? 太い?」
「はい、カイン様の方法がとても良かったみたいで、いつもの1.5倍くらい大きいサツマになってますよ」
そう言って、すでに掘り返していたサツマを見せてくれた。
「おお、ホントだ」
そこには、長さは15㎝程と小さいがぷっくり太いサツマがあった。例年の長さと変わらないが細い小枝のようなサツマと比べたら大きな違いだった。
「カイン様の方はまだ見ていませんが、葉の大きさも茎の太さも違うのでとても楽しみです」
ガーディは、早く掘り起こしたくてうずうずしながら言ってきた。
「よーし、始めよう」
カインが近くのカイン専用のサツマの茎を引っ張る。
「あっ、あれ?抜けないぞ! よおぉっしょ!」
カインが全体重をかけて漸くサツマが姿を現した。そこには、道雄の時に見た鈴生りになった大きく太く育ったサツマが土からひっぱり出されていた。
「い、やったぁー、大成功!」
「カイン様、すごいですね。こんなに大きなサツマは見た事ないですよ」
「よし、ガーディ頑張って全部掘り起こすよ‼」
カインとガーディは、泥だらけになりながらサツマを掘り起こした。2人で掘り起こしたサツマが小山の様になっていた。
「カイン様、早く食べてみたいですね」
「チチチッ、ガーディ甘いよ、甘すぎるよう。サツマはこれから年越しの時まで寝かせてから食べないとせっかくのサツマがもったいないんだよ」
「え、こんなに美味しそうなのにですか?」
「年越しくらいまで待ってから食べた方がもっと甘くなるんだよぉ。ガーディ君。とはいえ少しだけ味見してみる?」
「もちろんです、カイン様」
それから、2人は落ち葉と薪の切れ端を集め”焼き芋”を始めた。しばらくすると芋の甘い香りがしてきたが「まだまだ」とお互いに言い聞かせてしばらく待つ。そして、枯れ葉が燃え切ってからサツマを火から掘り起こした。
カインとガーディは、一個ずつサツマを持って2つに割る。割ると黄金色の甘い香りを漂わせているサツマが出来上がっていた。たまらず2人はかぶりつく。
「「う、旨い」」
夢中で食べ続ける2人だった。
『大成功だね。追熟後のサツマがもっと楽しみだ』
年越しの日が今から楽しみなカインだった。




