辺境伯が来たぁ~2
『やっぱりね、これを言う為に来たんだしね。父さまは、ちゃんと交渉できるかな?』
ルーク以外の家族に緊張が走った。
「ご依頼いただければ、全力でご要望にお応えさせていただきます」
『父さま、ちゃんと言えましたね』
家族がほっとしているのが分かった。この「ご依頼いただければ」が大事なのです。これが無いと無料で行わなければならなくなる可能性が十分あったのだ。この為に、何度も家族で練習したかいがあった。何せ、寄り親で、義理の父親で、借金をしているので、ルークが無料でと言ってきた時は説得するのが大変だった。
「あの“石畳”以上の物であれば、頼みたいの。条件と期間を言ってもらえるか?」
予想に反して、直ぐに商談が始まった。
「ランドルフあれを、ここに」
ルークがランドルフに指示を出す。これも練習済み。
「畏まりました、メイド長テーブルの上をお願いします」
壁際に待機していたメイドたちがテーブルを片つけると、羊皮紙の束と領街の模型をガーディと共に運んできた。
「これは…」
シールズ辺境伯が領街の模型を見て、息を呑むのが分かった。
「“石畳”を施工するにあたり、まずはこのような模型を作成させていただく必要があります。期間はデザインが決まってから施工する道の長さによりお答えさせていただきます。詳細はこちらに」
ルークはここまで一気に説明すると閉じられた羊皮紙を渡す。
シールズ辺境伯は、封を破り内容を確認し同行していた執事の一人に渡し2,3言話し、口を開いた。
「委細承知した。すぐにでも依頼したい」
「「「「「えっ」」」」」
客間にいる羊皮紙の内容を知っている者全員の声がハモった。何も交渉がなしに依頼されるとは思っていなかったのだ。
「どうした?何か問題か?」
「いえ、畏まりました。すぐに対応させていただきます」
何とか再起動した、ルークが答える。
「うむ、うむ」
シールズ辺境伯が何かを納得した様子で頷いていた。
「して、あれは誰が作ったのじゃ?」
何処まで情報を持っているのか、かなりストレートに尋ねてきた。
「はい、ここにいるカインが【土魔法】で施工しました。詳しくは、夕食後でいかがでしょうか?」
ルークが素早く回答と提案をする。ちなみにこれも練習した回答だ。
「そうじゃな、そんなに急いては事を仕損じるか。了解した、夕食後に詳しく聞かせてもらおう」
「お父様、部屋を用意しておりますのでお着替えをされてはいかがですか? ご案内させていただきます」
リディアがスッと立ち上がり、シールズ辺境伯を案内する。
「そうだな、夕食前に少しさっぱりするか、よろしく頼む」
メイド達と2人が客間を退場する。シールズ辺境伯の関係者が全員退出して扉が閉まるとサンローゼ家の関係者は深いため息をついた。
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リディアとシールズ辺境伯が客室に入り扉を閉める。
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「お父様、あまりルークをいじめないでください」
リディアが少しむくれて言った。
「許せ、許せ、久しぶりに婿殿をからかいたかったのじゃ。成長したではないか、だいぶ練習を積んだようだな?」
楽しそうにシールズ辺境伯がリディアに尋ねる。
「もぉ、ルークはかなり頑張ったのですが、お見通しですか? 本人の名誉の為どのくらい練習したかは伏せておきますが、頑張っていましたよ」
生徒を褒められた先生の様にリディアは喜んでいた。
「しかし、あの街の模型は危険だな。他に詳細を知る者はいるのか?」
すこし、口調をゆっくりに尋ねる。
「いえ、さすがにまだ、お父様だけです。家の者には箝口令を敷いております」
「あれは、下手をすると“反逆罪”に問われかねん。十二分に気を付けるのじゃ」
「はい、承知しております」
シールズ辺境伯の気遣いに礼をして答えた。




