そろばんを作ってみよう5
「後は、この世界に”そろばん”が存在するかの確認だね」
さっそく、カインは”そろばん8号”を取りに部屋に戻るのであった。
”そろばん8号”を持って、ルークとリディアを探すと談話室で夕食前の”香茶”を飲んでいた。
「父さま、リディア母さま、これを見てください」
カインは、持ってきた”そろばん8号”を見せる。
「この、玉が沢山ついている物はなんだ?」
ルークがカインの持っている”そろばん8号”を不思議そうに見ながら聞いて来た。
「これは、”勇者様の本”に書いてあった、”そろばん”と言う物で”算術”を行う時に役に立つ道具だそうです」
いかにも”勇者様の本”に書いてあった体で説明をする。
「”そろばん”?初めて聞く道具の名前ね。それがどうして”算術”の役に立つのかしら?」
リディアが”そろばん8号”をカインから受け取り、手に取って見ていた。
カインは、2人に”そろばん”を使っての”たし算”、”ひき算”、”かけ算”、”わり算”の説明をし”そろばん”を使うと間違えにくく、早く計算が出来る事をプレゼンした。
「「こ、これは、すごい(わ)‼ ランドルフはいるか(いますか)?」」
2人の声が重なる。
「お呼びになりましたか?旦那様、奥様」
呼ばれるのを待っていたかのようなタイミングで、談話室の扉が開いた。
『びっくりしたぁ! どこかに監視カメラとかあるのかな? それとも特別な【スキル】か? ランドルフ恐ろしい子』
扉から入ってくるランドルフを見つめた。
ルークもリディアも慣れているのか、ランドルフに”そろばん8号”を見せ、カインから聞いた説明をしている。3人で「これは!」とか、「良いな」とか、「早速」とか話しあっている。しばらくするとカインの方に近付き囲んだ。
「カイン、これはどうやって作ったのだ?」
「これの作り方を知っているのはカインだけかしら?」
「カイン坊ちゃま、これは1日何個くらい作れますか?」
3人は、ほぼ同時にカインに聞いて来た。カインは少しびびりながら。
「僕が、”魔法”で作りました。”魔法”で作ったので作り方を知っているのは僕だけです。1日に100個でも200個でもがんばれば作れるよ。こんなの作ってごめんなさい」
最後は3人の圧が強く、悪い事はしていないのだが”ごめんなさい”と言ってしまった。
「ごめんなさいね、カイン。あなたを叱っている訳ではないの」
リディアが、優しく抱きしめながら頭を撫でてくれた。
「すまんな、カイン。この”そろばん”がサンローゼ家を救うかもしれないと思ったら、つい力が入ってしまった」
ルークが同じく頭をなでながら言う。
「申し訳ございません、カイン坊ちゃま。私も久々に興奮してしまいました」
ランドルフが深く頭を下げる。
「もう、大丈夫だよ」
『体が小さいから、上から大きい声で言われたから不覚にもビビッてしまった』
カインは、にっこり笑いながら3人の謝罪を受け入れた。
「それじゃあ、”そろばん”を作ってみせるね」
”ちょっと待ってて”と言って外に行き”そろばん”を作れるくらいの土を布袋に入れて取ってきた。3人の目の前で”クリエイトクレイ”を唱え”そろばん”にした。
3人は、”そろばん8号”と同じに出来た”そろばん9号”をまじまじと観察し同時に頷いたのであった。
その日から、毎日午後は”そろばん”を作る日々となり、合計2,000個出来るまで続いた。
『おかしい? なぜだ? アリス姉さんの為に作ろうと思っただけなのに?』
カインは、目の前にある2,000個の”そろばん”を見て思った。




