そろばんを作ってみよう4
仲良く掛け合い漫才みたいな事をしている2人を生暖かい目で見つめていると、その視線に気付いたルークが居住まいを正して。
「カイン、明日から書庫の入室を認める。その"勇者様の書"を含めて蔵書を読む時は、書庫を使う様に。使い方のルールは、ランドルフに教えてもらう様に」
「畏まりました」
とランドルフが受ける
「それでは、カイン坊ちゃん。書庫に参りましょうか」
ランドルフが執務室の扉を開けた。
「旦那様は、今日中の書類の決裁を私が戻るまでにお願いします」
カインを執務室の外に誘導しながら、ルークに釘をさすのを忘れない、優秀なランドルフだった。
2人で書庫の前に着いた。
「まず、書庫の使用のルールですが、使用している時は、必ず扉を開けておいて下さい。これは、読書中に本棚が倒れる事故があり出来たルールです。扉を開けて置けば、メイドか執事が定期的に中を確認しますので」
その後、飲食禁止や魔道ランプの使い方などの説明を受けた。ランドルフが書庫を出た後、カインは魔道ランプの下で”勇者の書”を見ていた。
カインは、広辞苑ほどの厚さのある”勇者の書”の表紙をめくる。そこには”日本語”で
『2019年現在、東京で一番高い電波塔は?』と書かれていた。
『2019年?最近じゃないか!、あっでも俺がいたのが2025年だから6年くらい昔になるのか? まあいいや。2019年だから』
「スカイ〇リー」
”勇者の書”が淡く光り、その後勝手にページがめくれる。めくれたページには、”日本語”で勇者からのメッセージが書かれていた。
『初めまして、同郷の方よ。私は、遠藤一と言います。2019年の4月に日本から転移召喚でこの世界に来ました。召喚された理由は、魔族の王が今住んでいる国を多くの魔物と一緒に攻め込んで来ていて、国を救ってほしいと。当時すでに40歳でしたが、多くの運に救われ何とか魔物を倒しました。しかし、戦いに疲れた私は魔族の王と和解の道を選び、戦いを終わらせました』
『その後、今の妻と結婚をし3人の子供にも恵まれ人並みの幸せを手に入れました。しかし、やはり日本が恋しく同郷の人がいないか方々探しました。でも出会う事はなかった。そこで、もし同郷の方がこの世界に来て寂しくない様に、少しでも楽しく過ごせる様に、”役立つであろう事”をまとめた本を残します』
『願わくば、あなたの新しい人生に幸多からん事を』
『PS.友人の付与魔導士に作ってもらった【解析】スキルが使える眼鏡も同封します』
『PS2.もしサンローゼの子孫が困っていたら助けていただきたい。お願いします』
「おおっ、ご先祖様が”勇者”だったと聞いてたけど、日本人の転移者だったんだ。まさか、ご先祖様も子孫に日本人の転生者が生まれると思ってなかったかもなぁ。しかし、”役に立つであろう事”とか書いてあったけど何を残してくれたのかな?」
パラパラと本をめくると、そこには日本人のソウルフードの”米”の栽培方法、”味噌、醤油、みりん、ケチャップ、ソース”などの調味料の作り方、魔法を使っての”電化製品の再現方法”の考察などが書いてあった。
「これは、いい物を貰ったぁ。楽しく新しい人生を過ごせそうだ」
まだまだ、沢山の”役立つであろう事”書いてある本を見ながら何から手を付けるか考えていた。そして、当初の目的を思い出した。
「そうか!”そろばん”もこの本に書いてあったって言えばいいんだ! 本当に書いてあったりは…しないね。まっいっか。俺しか読めないし」
問題が一つ解決して、とても嬉しいカインだった。
「後は、この世界に”そろばん”が存在するかの確認だね」
さっそく、カインは”そろばん8号”を取りに部屋に戻るのであった。




