そろばんを作ってみよう3
「なんだ、あれ?」
おもわず、口から出てしまった。
キョロキョロ見渡した書庫の中で、一冊の背表紙が淡い光を放つ本があった。
「??カイン?どの本です?」
リディアがカインのつぶやきに反応して聞いてくる。
「えっと、その上の段の右側にある青い本です」
周りと比べると、ひと回りくらい太い青い背表紙の本を指さした。
「これかしら? 私には光っている様には見えないけど」
リディアがカインが指さした、青本を本棚から引き出しカインに渡す。
「”勇者の書”?なんだこのベタな本は?」
けして、上手ではない金色の文字で”勇者の書”と”日本語”で書いてあった。
「”勇者の書”ですって⁉」
リディアが吃驚して、声を上げる。
『しまったぁぁぁー、つい読めたから読んでしまった。よく見ると”日本語”じゃないか!』
カインは、自分の失態に頭を抱えた。
「カインちょっと来なさい‼」
リディアは、興奮した様子で片方に青本を、もう片方にカインを抱えルークの執務室に文字通り走って行く。カインは、なされるままルークの執務室に連れていかれた。
「あなた! 入るわよ」
”あ”の時には、すでに扉を開けているくらい興奮しているリディアは珍しい。中のルークは沢山の決裁書に囲まれながら目を見開いてびっくりしていた。
「リディア何事だ⁉」
「リディア様、何事ですか⁉」
ルークの執務室で一緒に仕事をしていた、ランドルフも何時も出さない音量の声を出していた。
「カインが、この”勇者様の本”の文字を読んだの‼」
目を見開いたままのルークとランドルフは、”あちゃー”と頭を抱えているカインを見た。
「カイン、そ、それっほ、ホントなのか」
驚愕しすぎて、舌が回っていない状態でルークがカインに問う。
「はい……」
下を向きながら、答える。その姿を見てルークは、はたと気づき。
「カインこっちに来なさい」
と言って、自身も執務室の隅に向かう。
『カイン、これは”例”のせいか?』
『たぶんそうだと、先ほどから少し頭痛がします』
『わかった、私に任せなさい』
部屋の隅で”コソコソ”している、夫と息子を疑惑の目でリディアは見つめていた。
「うぅっほん」
変な咳ばらいをルークは行い、リディアを見ながら説明?を始める。
「カインが”勇者様の字”をなぜ読めるかの件は、しばらくの間私に預からせてほしい」
”ギロッ”と眼力を強めるリディアに負けずに頑張るルーク。
「こ、これはカインの身を守るためなのだ」
可哀そうなくらい冷や汗を垂らしながら、釈明を続けるルーク。
「カインの身を守るためなのですね」
一文字、一文字ゆっくり話しながらリディアが再度ルークに問う。
まさに、”ギギギ”と音が聞こえそうなほど、ぎこちなくうなずくルーク。
「わかりました。ランドルフも時期が来るまで、ルークが隠していることを追求しない様に」
ランドルフは、恭しく礼をする。
「なぜ、読めるかは置いといて、カイン。この本はカインの12代前の”勇者様”が書き残したとこのサンローゼ家に伝わるものです。
ですが、"勇者様"の文字を私達子孫は、ある時を境に読めなくなってしまったのです。それが意図的になのか、そうでないかは今では分かりません。
お義母さま、カインあなたのお祖母さまね。それは、残念そうに教えてくれたわ」
「母上は、俺にそんな事教えてくれなかった」
実母にそんな大事な事を教えてもらえずショックを受けているルーク。
「あなた、お義母さまが、おっしゃってたわ。ルークは父親に似て大局を見定めるのが得意だから、小さな事はリディアに任せると。だからお義母様はあなたに伝えなかったのよ」
リディアは、カインをふと見て”ウィンク”をする。
「そうか、俺は大局を見定めるのが得意なのか。うんうん」
『おい、おい、父様?細かい事は出来ないって言われてますよ。本人が良ければ良いか』
両親を見て仲がいいなと思うカインだった。




