そろばんを作ってみよう2
その日は、延々書いては、消してを続けて終了した。
『これは、どうにかしないと心が病むね』
カインは、授業が終わった午後、何時もの様に訓練場(何時も魔法の練習をしている辺りをそう呼ぶ事にした)に来ていた。
「授業の事は後で考えるとして、まず"そろばん"を作ってみよー」
最近独り言が増えたと思いつつも、口に出している。
「"クリエイトクレイ"は、初めて使うからなぁ?イメージをしっかり持って作れば何とかなるか?」
カインは、たし算、ひき算、かけ算、わり算と"エアそろばん"を行ってイメージを固めた。
「わが、いしにしたがい、せいけいせよ。クリエイトクレイ!」
地面に向けた手の下で土が集まり、だんだんと"そろばん"の形になっていく。そして、見覚えのある形になった。
「スゲー出来たよ! ちゃんとシャカシャカ音がして動いているよ!」
カインは、何度か玉を弾いたり、振ったりした。
"パキッ" 何度目かの玉弾きをした時、玉を留めている部分が割れてしまった!
「ああああっ! 壊れた!......強度のイメージが足りなかったかな?」
カインは再度、今度は鉄の硬さをイメージして作り直した。
"そろばん2号"は、かなり硬く出来た。玉を弾く度に"キンキン"とまるで鉄琴を叩いているみたいだった。
「これは、これで俺みたいな段持ちなら楽器みたいで楽しいけど、初心者だと集中出来ないかもな?」
その後、漸く"そろばん8号"で現状満足が行く物ができた。ちょっと玉を弾きにくいが、地球にある物より少し大きめにしたら壊れず、音もさほど気にならなかった。
「よし! 次はこれをどうやって思い付いたか、考えないとなぁー、それに、もしかしたら既にこの世界にもあるかもしれないし?」
今日作った"そろばん2号と5号と8号"を持って部屋に戻る。ちなみに、5号は2号の半分くらいの大きさに作った。使い辛かった。
ベンジャミンがいればと思いながら、部屋で考えたがこの手の物はリディア母さんかなと思い、メイドに居場所を聞いた。先程から、書庫で調べ物をしているそうなので行ってみる。
サンローゼ家には、小さいが書庫がある。なんでもご先祖様が色々集めたらしく普通の子爵家よりも多い蔵書とか?
詳しくは、カインは知らない。まだ小さいので入室の許可が出てないのであった。書庫に着くと片方だけ扉が開いていた。
何時も"ノック"をせずにアリス姉さまが怒られているので、開いている扉を叩き中にいるであろう、リディアに声をかける。
「リディア母さま、カインです。中にいますか?」
少し大きめの声で叫んでみる。
「カイン? 今手が離せないから入って来て」
中から入室の許可が下りた。カインはキョロキョロしながら書庫内に入室する。
書庫内は、古い皮と紙の匂いが漂っていた。本を守るために書庫内は薄暗く、そんなに大きくない筈の書庫が広く感じる。
少し進むと、リディアが魔法の光のランプを使いながら本を読んでは、書き留める作業をしていた。
「リディア母さま、カインです。初めて書庫に入りましたが、本がたくさんあるのですね」
感心しながら言うと、リディア母さまは、掛けていた小さな眼鏡を外しながら、カインを見る。
「カインは初めてだったのね。今度ルークに言って入室の許可を貰いましょう。せっかく文字を習い始めたのだから」
そう言って、優しく微笑む。
その仕草に、カインは、意味分からない程"ドキドキ"してしまった。それを誤魔化す様に視線を泳がせる。一冊の淡く光っている本の背表紙が視界に入った。
「なんだ、あれ?」
おもわず、口から出てしまった。




