そろばんを作ってみよう
カインが、【魔法】の訓練やサツマの畑作りをしている時、3歳年上のアリスは家庭教師と勉強をする日々を過ごしていた。朝から元気よく庭で【魔法】の訓練やサツマを育てている姿を見て、アリスは不満を溜めていた。
ある日の夕食の時、おもむろにアリスがルークに不満をぶちまけた。
「父様、毎日、毎日カインは遊んでばかりでずるいです。私は5歳の時にはソフィア先生から字を習っていました。カインも始めるべきです」
「うーん、でもなぁ」
ルークは、少し困った様にアリスから視線を外した。そしてしばらく『うーん、うーん』と唸ってしまう。
「あなた、ソフィア先生に負担にならない程度で出来ないか聞いてみませんか?」
リディアが助け舟を出す。
「わかった、リディア。先生に聞いてみてくれるか」
その日の夕飯は変な雰囲気を持ったまま終了した。
リディア母さま、次の日にソフィア先生に確認をしたみたいで、次の夕飯にはカインも一緒に勉強をする事になった。しかし、カインは1週間に2日それも午前中だけになった。
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「さぁ、今日からカイン様も一緒に文字の勉強をします。よろしくお願いいたします」
ソフィアは、23歳の独身女性で魔法士学院を卒業後、騎士団に入団するが1年で退団。ベンジャミンの家庭教師としてサンローゼ家に来てそれ以降、クリス、アリスと教えている。
「よろしくおねがいします」
カインが元気よく答える。
「カイン、わからない所は私に聞くのよ」
アリスが得意げに言ってくる。
「それでは、アリス様は昨日の算術の続きから始めましょう。カイン様は、文字の書き取りからにしましょう」
アリスは、数字の書いてある羊皮紙を開けて計算をし始める。ぶつぶつと言いながら計算を始める。
ソフィアは、一枚の羊皮紙と小さな石板を渡す。
王国では紙はとても高いため、通常は羊皮紙に文字を書く。ただし羊皮紙も高いため子供たちの勉強には石板に石灰石で文字の書き取りを行っていた。
「それでは、ここに書いてある文字を一文字づつ覚えていきましょう」
そう言ってアルファベット表のようなものが書いてある羊皮紙示し説明を始める。
『あれ?あれ?全部読めるし、意味が分かるぞ! なんでだ?日本語ではないのに…あっ!確かガーディア様が(おまけ)とか言って【異世界言語理解】の【スキル】をくれたっけ』
『どうしよう、読める事を言うのは簡単だけど…アリスねえさんの威厳を守るために、習う振りをするか』
カインが、難しい決断をした。想像してほしい。日本語が読めて、書ける人がもう一度小学校1年生の国語の授業を受け、それも分からない振りをしなければならない。
眠気と闘いながら、カインはソフィアの教えてくれる文字と発音をしながら石板に書き写していた。
「カイン様、それではこの花、木、人、大地、風の文字の書き取りをしていてください。アリス様、出来ましたか?」
ソフィアは、カインに書き取りを指示しアリスの算術の答え合わせをし始めた。
「アリス様は、1桁のたし算、ひき算は問題ないのですが、2桁の少し難解な問題になると間違えてしまいますね。今日は、少しずつ分解しながら計算してみましょう」
アリスは、不貞腐れながらも頑張っていた。
『アリスねえさんは、2桁の計算でつまずいてるんだ。1桁が出来るんだから頑張ればすぐだと思うんだけど。そう言えば、この世界に”そろばん”ってあるのかな? 道雄の時”そろばん”を習ってたから算数得意だったなぁ』
その日は、延々書いては、消してを続けて終了した。
『これは、どうにかしないと心が病むね』




