魔力操作習得
新章の始まりです。よろしくお願いいたします。
スッキリとした目覚めだった。
”洗礼の儀”から一月、漸くこの異世界での生活も慣れ、夜明け前には目を覚ます事が出来るようになった。最初の頃は道雄の記憶のせいか、なかなか起きる事が出来なかった。しかし、そこはまだ5歳児の身体なので暗くなれば自動的に眠くなり、9時間も寝れば目が覚めるようになった。
「さて、日課のランニングをするか」
道雄は、体力作りの為、延いては簡単に死なない為に毎朝ランニングをするようにした。5歳児なので出来る事は限られていて、1㎞も走れば体力が尽き座り込む事になる。継続は力なりと思い行っている。
大体家の周りの壁の内側を15周もすると1㎞くらい走った事になる。まだ、壁の外に一人で出る事を許可されていないカインとしては、壁の内側でランニングをするしかなかった。
「痛てて、まだ少し痛むなぁ」
道雄は、手に残った傷跡を揉む様にさすった。
---
”洗礼の儀”の後、ルークから
「カインの事だから”魔法”を使おうと試すと思うが、ベンジャミンから【魔力操作】の方法を学ぶまで”魔法”を使う事は禁止だ」
「えっ、なぜです? 父さま‼」
道雄は食べていたお菓子を取り上げられた様な、吃驚した表情で聞き返した。
「カインは、例の加護の為に通常の子供より魔力(MP)が多いと思っているが違うか?」
ルークはゆっくりとした口調でカインに尋ねた。
「はい、多分多いと思います。他のステータス値と比べても多いので」
道雄は少し動揺しながら答える。『さすがにMP;1000オーバーとは言えない』
「”洗礼の儀”が終わっても【魔力操作】を覚えるまで、”魔法”が発動するMPには達しないのが一般的だが、中には子供でありながら多くのMPを持つ子供が居たりする」
「たまに、その様な子供が感情のままに”魔法”を発動させようとすると、MPが暴走し放出されたMPがそのまま子供に戻って爆発現象が起きたりする。爆発現象が起きると子供は大怪我をし下手をすると”魔法”【スキル】を失ったりする。だから、ベンジャミンが帰ってくるまで絶対に使うなよ」
ルークは5歳児のカインに向かって、大人を説得するように言い含めた。
「そうそう、早く”魔法”を使いたかったらベンジャミンが帰ってくるまで体力づくりでもしているように。”魔法”も体力を使うとベンジャミンが言っていたぞ」
ルークはもう一度カインに釘を刺した。
---
「しかし、早く”魔法”使ってみたいな。1月の走り込みで何となく”魔力”を感じるんだけどなぁ」
道雄は、両手を開いてまじまじと見つめた。両手に力を集める様に意識すると”魔力”らしきものが集まってくるのが分かる気がしていた。
キョロキョロ、キョロキョロ
道雄は、太陽が上り始め明るくなってきた屋敷の庭を見渡す。
「今なら誰もいないし、見つからないだろう」
道雄は、両手を地面に付け”魔力”を両手から放出して地面に転がっている石を飛ばすイメージをする。
両手から何かが出始めるのを感じ、浮かび上がって来た言葉を唱える
「わが、いにしたがい、てきをうて。ストーンバレット!」
唱え終わったが、地面に転がっている石はピクリとも動かなかった。
「やっぱり、だめか」
両手からまだ、何かが出ている感じがしていたが意識の集中を切ってしまった。
キュコォ
急に何かが膨らむような感じがして、次の瞬間両手の下の地面が爆発した。
道雄は、また激痛と共に意識を失う。
「ここは?」
道雄は、目を覚ますといつものベッドの上であった。
ベッドサイドには、アリスとリディア、そしてルークが立っていた。
「馬鹿者‼‼ あれほど”魔法”を発動させようとするなと言ったはずなのに、どれだけリディアやアリスが心配したと思っている」
ルークが今にも殴りそうな勢いで大声でカインを怒鳴った。
「ごめんなさい...」
カインは、包帯が巻かれ動かない両手を見つめながら泣いた。
「それはリディアとアリス、そして屋敷の者に言いなさい」
ルークは、部屋を出ていった。
...
「6か月、長かった。やっとベン兄さんが帰って来る。まさか、年越しの休みにならないと帰って来ないとは思わなかった」
カインは、すっかり治った両手を見ながら、出迎えの為に玄関に向かう。
しばらくすると、玄関前に馬車が止まる音がした。
そして、玄関の扉をメイドが開く。そこには、久しぶりに見る 兄ベンジャミンが立っていた。
「ベン兄さま、おかえりなさい」
カインは、満面の笑みで兄ベンジャミンを出迎えた。




