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【書籍化作品】疎遠な幼馴染と異世界では結婚している夢を見たが、それから幼馴染の様子がおかしいんだが?  作者: 語部マサユキ


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閑話 義妹との契約

皆様のおかげでスニーカー文庫より書籍化決定いたしました。

ありがとうございます。ありがとうございます。

「天音ちゃん、週末にみんなで温泉行かない?」


 始まりはお母さんのそんな何気ない一言だった。

 連休中に小旅行に行く、それは我が家では珍しい事では無いので私は特に不思議に思う事も無かった。


「温泉? どこの?」

「貴女たちがいつもお世話になってる、ほら神威さんの家の……」

「ああカムイ温泉ホテル? 別に週末は用事無いから良いけど……何でまたあそこに?」

「ちょ~っとあそこの割引券が手に入ってね~。期限も近いらしいからこの際連休中に行こうかな~ってお父さんとも」

「へ~」


 二つ返事でOKする私にお母さんは何故か「よし!」とガッツポーズをしていた。

 ……その理由は後日、これでもかってくらいに分かるんだけど……私はこの時点では能天気にも我が母の企みには微塵も気が付いていなかった。


 ハッキリ言って私は幼馴染である天地夢次君に対して、幼馴染以上の特別な想いを持っている……それは今更親友たちに指摘されなくても自覚していた。

 ……有罪判決にはちょ~っと納得いかないところもあるけど、誘惑していたとハッキリと断言されると……否定できないのも事実。

 私は最近は以前にも増して自分の行動がエスカレートしている。

 最早お馴染みとなりつつある窓からの訪問で、薄手の服や足が出る短パン姿の私から慌てて目をそらして……それでいて気が付かれていないと思っているのかチラチラと見て来る彼に優越感を感じていないかと言えば……ウソになる。

 他の男子だったら嫌悪感しか抱かないだろうに……彼に“女として”見られる事に喜びを感じてしまっているのだ。


 これは……色々とマズイ気がする!!

 お風呂上りの姿で彼の部屋を訪問した自分にいよいよ危機感を覚える自分がいて……そろそろ限界を迎えそうな彼の動きにほくそ笑んでいるような自分もいる。

 私はここ最近の熱暴走を繰り返す脳内を少し冷やす必要性を如実に感じていたのだ。

 もう少し、ゆっくりとした付き合い方で関係を深めていければ……そう思っていたのに、何故か無意識にブレーキどころかアクセルを全開で踏んでしまう……。


『あの夢』のように夢次君を求める私がいるのだ。


 ……カグちゃんに言われた言葉が胸に刺さる。

 私だってここまで自分がエッチな女だとは思いたくないが……夢次君を前にするとどうしても……ね。

 ……連休中に家族旅行に行く計画はこの時の私には幸いに思えた。

 ちょっとだけ彼と距離を置いて、少し頭を冷やしてからまた少しずつ節度を持って関係を深めていければ……そんな事を考えていたのだけど……。



 まさかチェックインしたホテルに夢次君がいるとは…………しかも同室で……。



「ちょっとお母さん!? 何で夢次君のうちが同じ部屋に!?」

「あら、私は最初に“みんなで”って言ったはずだけど~?」


 楽し気にそんな事を言うお母さんは勿論グル、というか首謀者の一人なのだろう。

 ……ってか娘の前で天地家母おばさんと一緒に式場の話をし始めるのは本当に止めて…………お父さんも既に孫の名前とか考えなくていいから!!


 あからさま過ぎる両家の計らいに私も夢次君も気が付かないワケも無く、顔を見合わせるとど~しても顔が赤くなるし会話がたどたどしくなってしまう。

 そんな時、カムイホテル自慢のゲームセンターで不意に私は彼の妹ちゃん、夢香ちゃんに話しかけられた。


「天音さん、少しお聞きしたい事があるんですけど……良いですか?」

「どうかしたの夢香ちゃん?」


 この時は夢次君がたまたま一人用のビデオゲームに熱中していた。

 ……と言うか夢香ちゃんがその時を狙って話掛けて来たのは丸わかりであったけど、正直私にとってそれは僥倖とも言える。

 実は前から彼女とはお話してみたかったのだ。

 お隣の年下の同性だと言うのに今まで接点が少なかったから……理由は、まあ例によって兄である夢次君との疎遠期間が尾を引いていたからなんだけど。

 そして私は促されるままに自販機横にあるベンチに二人揃って座った。


「実は……天音さんに見て欲しいモノがありまして……」

「見て欲しいモノ?」


 そう言うと彼女はおもむろにスマホを操作し始めたかと思うと、私に動画を見せて来たのだ。

 それが何なのか一瞬分からなかった私だが……理解した途端に噴き出してしまった!

 だって……だってその動画は!!


「え!? うええ!?? ここここここれって!!?」


 テンパって狼狽える私に夢香ちゃんはコクリと頷いた。

 それは見慣れた夢次君の部屋……そして夕日のオレンジに染まる中、私が落ち込んだ彼に……お礼と称して“私から”してしまったシーン……。


「あうあうあう……」

「……安心してください。動画のデータはそのスマホに入っているのだけです。消そうと思えばいつでも消せますし、何なら今消してくれても良いですよ?」

「な、なんでこんなものを……」


 撮ったのか、それとも見せたのかを問いたいのか自分でも良く分からず上手く言葉が紡げない私に夢香ちゃんは「いや~発見した時に思わず」とだけ言うと、さっきまでの楽し気で無邪気な顔を顰め、真剣な目を私に向けて来た。


「率直にお聞きします。天音さん、貴女は兄をどう想っているのですか?」

「……え?」

「兄は……お兄ちゃんは良くも悪くも直情バカですからね。思い込んだら一直線しか見ないような純情野郎です。そんなバカが、昔から好きだった女性にこんな事をされてしまったら……もう後戻りは出来なくなってしまいます」

「え? ええ!!?」


 夢香ちゃんの言葉に私の思考は停止した。

 今、妹さんは何て言われましたか??


「私は……二人は余り仲が良くないと思っていましたが、兄は女性と言えば貴女の事しか見ていないような真正のバカでしたからね。ストーカーになるほど非常識じゃ無かったのが幸いでしたけど……」


 一番身近で彼の事を見ている妹の真剣な眼差しは本当に兄の事を考えていて、そこに虚偽を交えている気配は毛ほども感じない。


「もしも……天音さんにそんな気が無いと、揶揄い半分に遊んでいるというのであれば・…………プ」

「え?」


 しかしそこまで話たところで夢香ちゃんは突然吹き出してしまった。

 え? 何で急に? 私は真剣だった表情を崩して笑い始める彼女について行けない。


「……分かりましたから……そんなに“嬉しそうな顔”をしないで下さいよ。真面目に話せないじゃないですか」

「え……ええ!?」


 言われて私は思わず両手を頬に当てると、いつの間にか口角が上がっていて……そして顔が物凄く熱くなっている!

 私のそんな様に夢香ちゃんは更に笑い始める。


「き、気が付いてなかったんですか? 私が“昔から好きだった女性~”と言った辺りからず~っとですよ?」

「!!!!?????」


 そうするとひとしきり笑った彼女は何も言えていないし、質問に何も答えれていないと言うのに、満足したとばかりに伸びをして言った。


「天音さん……これからは“アマ姉”って呼んで良いですか? 私、お姉ちゃんって夢だったんですよね~~いや、ここはお義姉ちゃんかな?」


 ワザワザ言い直す意味に気が付かない程……私も鈍感ではない。

 私は夢香ちゃん……義妹(仮)に向かって頷いて見せた。


「…………なら姉から最初のお願い……動画を私にも送ってくれない?」

「ヒヒ……りょ~かいアマ姉!」

             



 そこからは怒涛の勢い……どうやら今回の旅行では私と夢次君以外の全てが敵……いや私にとっては味方と言って良いのかも……。

 いつの間にかホテルで暗躍していた親友二人と調子を合わせる義妹ゆめかちゃんたちの激流に流されるままに流され…………私は満天の星の下、夢次君の腕の中にいた。

 熱い視線の彼に見つめられて……私は自分の性悪な本性を自覚する。


 結局、親友たちの言う通りだったのだ

 私は無意識なんかじゃなく意識的に彼を誘惑していたんだ。

 彼の夢を垣間見て……自分に恋愛感情を持ってくれているかは分からないけど、彼が性的に女性として私は見ている事は確信していたから……。

 気持ちがどうでも、既成事実さえ出来てしまえば……彼の心を縛り付ける事が出来る。

 自分の……自分だけのモノに出来る……。

 何とまあ……自分勝手で打算的な嫌な女なのだろうか……私は……神崎天音という女は。


 こうなる事を…………心底願っていたのだから。

 彼の方からも……私の事をきつく、ガラン締め(雁字搦め?)に縛り付けようと……私の事を独占しようとしてくれるこの瞬間を……。


「俺はお前の事が………………」


 私を彼だけのモノにしてくれる魔法の言葉……。

 歓喜と共に私が答えるはずの最高の瞬間…………それが…………。





「よ~し、取り合えずは今回の召喚も成功したようだな……使える人材かは分からんが、中々見た目は良さそうではないか……」


 次の瞬間に、突然どうでもいい言葉によって遮られた。

 本当にどうでもいい……くだらない、興味もない何者かによって…………。


面白いと思って頂けたら、感想評価何卒よろしくお願い申し上げます。

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 E・Gコンバ〇トではないが、デストロイの季節。
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