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最終話 

いよいよ最終回っ。


「超・拡大版でお届けだようっ」






 オリュンポス山の一角、閑古鳥かんこどりの鳴く薄暗い森の斜面のうえに、大きな、美しい黄金の館が建っている。

 黒い木々の間から、百舌もずの卵が土のうえへと落ち、くしゃりと音を立ててつぶれる。

 閑古鳥、すなわち郭公かっこうの卵は、別種の鳥の巣に預けられる。預けられたほうの鳥はそのことに気づかず、自分の卵もろとも、温めはぐくむ。そして、先にかえった郭公のひなは、継母ままははが血を分けた本当の卵を、一つ残らず、巣から落としていくのだ。




 この館のあるじは、ヘラ女神。

 女神が最高神ゼウスの後妻ごさいであられることは先刻ご承知であろうが、かの女神は実のところ、ゼウスしん二方目ふたかための後妻であり、女神が正式なきさきとなられるにあたり、先の後妻であられた秩序の女神テミス神は、みずからその身を退かれたのである。

 さらにそのとき、正式の奥方ではなかったもののゼウス神のお子であるアポロン神・アルテミス神をみごもられていた黒衣のレト女神の出産を妨害し、難産をいた。双子の神は、他の神々の心ある計らいによって無事にお生まれになったが、そういったいわれのため、世にある限りの神々のうち、ヘラ女神を恐れぬ方々はおられなかった。







「妃よ、罰を言い渡す」

「なにとぞ、寛大なご処置をっ……」

金輪際こんりんざい、私に逆らうことをゆるさん。すなわち……」



 ゼウス神は雷霆らいていをもって脅しをかけたうえ、愛すべき妃ヘラ女神に対して、こう告げたのでした。



「私の浮気を知ったとしても、黙ってハンカチを噛みちぎること。よいなっ」

「……む ――」

「無理ではないっ」



 ピカッ、ゴロゴロドカーンッ。














 てなわけで、始まりましたよ、最終回っ。




(ケートス)めっ、コンチキショーっ」

「もう限界だから、離しちゃうよーう」

「死ねーっ」


 ケートスめがけて飛んでいった乱暴(あーるしてい)女神アテナ。


「ひ、ひえええええっ」


 しかし……



 ズゴゴゴゴゴゴッ……、ジャパーンッ。



 巨大な波が女神を押しもどし、現れたのは……


「大地ゆるがす海の神、ポセイドンだ、どんっ」


 奥州平泉(ひらいずみ)の地に追いつめられた主君、九郎判官(くろうほうがん)源義経(みなもとのよしつね)を守るため、衣川館ころもがわのたちにあって敵と戦い奮戦むなしく立ち往生し、「夏草や兵どもが夢の跡」の重要な一端を担ったことで知られる薙刀なぎなたつかいとして伝えられる僧兵武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)……あたかもその伝説的荒法師(あらほうし)が自慢の薙刀を構えるがごとく、三叉の矛(トリアイナ)を構え、バッチリ黄金比にはまった決めポーズをとった海の神ポセイドンの姿であった……のでございました。



「出たなポセおじさん、そこをどけいっ」


 アレスをいたぶる海の怪物を我が手にかけんと意気込むアテナ女神は、姪とは思えぬ荒々しさでポセイドンに迫ります。


「この私、アテナに逆らえば、ゼウス神の兄弟ポセおじさんといえども、海の藻屑もくずとなって惣菜魚(オジサン)の餌食だぞっ」



「落ち着け、知恵の女神よ」


 海の神ポセイドンは落ちついた声でさとします。


「私にはお前とやりあうつもりは毛頭ない。もとより自慢の黒髪も、さほど残っておらぬゆえな」


 さすがは実力者ポセイドン、気負い立つ女神を前にして、おじさんジョークを言う余裕と貫禄を見せつけます。


「ならばとくとくそこをどけっ」


 知恵の女神が吠えたてます。


「まあ待て。お前は今、ケートスからアレスを助けようとしているが、それはお前の役目ではない」

「なにっ」



「ガオーッ」

「やっちゃえやっちゃえーい」


「うう……、うがごえうどだだっ……だーれでもいいからっ……、助けてくれーいっ……」



 いたぶられつづける軍神アレスの声を聞きつつ、アテナはポセイドンをにらみつけます。



「なんだ、まだわからんか」

「わかるかコンチキショーっ」





 と、ここでペルセウスの出番です。


「僕の役目ですねっ」



「なにっ」


「だってほら、パパがお命じになったのは、僕にでしょう。知恵の女神さまだって、僕に栄誉を授けたいって思ってるんでしょ。だってそもそも、ケートスの存在意義ってそれじゃん」


「あ、そうか……」


 ここでようやく理性を取り戻したアテナ女神。


「はっはっは。さすがペルセウス、物分かりがいい。さとい勇者と脳筋の知恵の女神(ばかむすめ)、同じ父親から生まれたとは思えんな」


 海の神ポセイドンがダンディーな低音しゃがれボイスで軽口を……



「だーれがバカムスメじゃごらっ」



 ずどーん……、ぶくぶく。




 海の神ポセイドンは悲鳴をあげる間もなく水底へと沈み、



「ウヒャアッ……」



 地底の国(タルタロス)の手前にある冥府に居を構える冥府神ハデスが、しとやかなる冥府の妃ペルセフォネの膝に驚きのあまりすがりつくときの悲鳴が、はるか地の底から聞こえてくるのみでございました。





 そして……


「ペルセウス、これを使うんだよう」

「あ、ヘルメっち」


 先ほどまで二神のやり取りを見てクスクス笑っていたヘルメス神が、ペルセウスに武器を授けます。


HN(ヘルメスにんじゅつ)ナンバー22、鍛冶かじの神ヘファイストスを召喚してメドゥーサの首を精巧に再現させるの術……っていうのを使って、ちゃんと蛇の髪を備えて敵を金縛りにする気満々のメドゥーサの首を作ってあげたんだよう」


 まあ正確には、呼びよせたヘファイストスに「作らせた」……のでございますけどね。

 というか、あれ? ……前回黄昏系女子(ヘスペリデス)の園で一緒だった彼は、いつの間に別れ、また呼び寄せられたのでしょう……?


「語り部さん、いちいちつっこまないの。だから読者にモテないんだよう」


 いえ、そんなことは……、あるのかしら。



 ……とにかく、そんなわけで、


「ありがとう、ヘルメっち。これでケートスを倒せるよっ」


 ペルセウスはそういうなり、怪物ケートスへと向かっていきました。



 一方……、


「ふっ、果たしてあのお子ちゃまに、ケートスを倒すことができるかしら」


 麗しい唇をなまめかしく動かしてほざくアンドロメダの傍らに、アテナ女神が立ちます。


「なによあんた、私の隣に立とうなんて、百五十ね……、って、きゃあっ、女神さまっ……」


 アテナ女神は、この鼻持ちならない王女をガシッとつかまえて……








 キランっ。








 ……天空(ウラノス)の果てまで投げ飛ばし、星座にしてしまったのでした。



「この、このっ」

「ガガガガ、ガオーぅ……、まいったガオ……」

「へへへ、どーんなもんだいっ」


 さて、ペルセウスのほうも頃合いよく、精巧に作られたメドゥーサの石頭を利用してケートスを退治し終えたところでございました。




 ……いやあ、長かったけれど、ようやくおしまいですね。


「メドゥーサの首、使い方違うけど……。まあ、いっか」

「いっかじゃないわいっ」


 やれやれといったようすのヘルメス神と、いつ彼の隣に現れたのか、わざわざメドゥーサの首を作らされたうえに別の使い方をされて不満げなへファイストス神。


「よくやったわ、ペルセウス。ゼウスの妃め、ざまあみろってんだ」


 ゼウスと彼の浮気相手との子供を英雄に仕立てあげることに成功して大満足のアテナ女神。


「うううううー、アテナーっ……、覚えてろーっ」


「くがーっ」

「おうぇーっ」


 そのようすをオリュンポスの峰から見下ろしながら、ハンカチをズタズタにするだけでは飽き足らず、腹いせに(ラドン)とクジャクアルゴスを毒液でいたぶるにいたったヘラ女神。


「ううっ……」

「しっ。……アテナに聞こえるわ」


 駆けつけたアフロディテに介抱される軍神アレス。


「やれやれ、どいつもこいつも、困ったもんだ」


 そう言いつつ、いまだに愛人ダナエにご執心でヘラ女神のもとに戻るにはもう少し時がかかりそうな最高神ゼウス。





 そんなわけで、長きにわたるこの物語も……









「ねえ、ヘルメっち。僕の恋人は?」

「アンドロメダなら、お空のうえだよう」

「わあ、きれい……」














 ……おしまいに……




















 ―― 待っててね。いつか、僕が死んだとき……、













 ―― ご所望の首を持って、僕も夜空にあげてもらうからっ。






















 ……めでたし、めでたし。―― 完











「最後まで読んでくれて、僕としてもうれしいよーう」

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