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犬子三時間会わざれば活目して見よ。

 前回のあらすじ

 付呪師としての初仕事で国宝級のブツが出来てしまった。


 このリボン効果は素晴らしいが見た目が悪い。アレンジしてもらうつもりで手芸用リボンを適当にカットしたのみで端部処理をしてないので当然だが。

 そして、一度付呪をすると素材の強度が飛躍的に上がり、加工が困難になる。というか加工すると付呪の効果が失われる事も解った。

 仕方が無いので、日本から持ち込んだ旅行用の隠し財布袋にリボンを詰めて渡す事にした。


「それじゃタバサ先生、このリボン入りの袋を常に身に付けておいて下さい。

 これさえ有れば魔王に襲われでもしない限りは、まず安全だと思います」


「お、おう……ありがとうタロー殿。大事に使わせて貰う。

 しかし凄いもんじゃのぅ。勇者の力というのは」


「後で魔力が回復したら足りない物を袋に付呪します。

 リボンの付呪効果だけだと、高所からの落下とか耐えられない事もあるでしょうし」


「すまんのぅ、わし等が不甲斐無いせいで余計な気を使わせてしまって、

 もっと強ければ良いのじゃが、足手纏いにし」


「そんな事ありませんよ。先生には経験と魔法の知識があるじゃないですか。

 あとはその、飲み物を飲む時に鼻を濡らしてるのもなんか和むし」


「そうか? わし癒し系か? なんならミルク飲もうか?」 


 故意に鼻ミルクしてたのか。獣系のヒトは素直だから先代の勇者に変な事を吹き込まれたのかも知れないな。

 うちのトトさんも玩具を鳴らしてるのを褒めたら物を壊さなくなったし、先生も昔褒められたのを思い出してるのかもしれん。


「はい癒し系です。でもミルクは飲まないで良いですよ」


「コレはウィルベルの分な。無くさないように持っててくれ」


「あざッスご主人様。帽子の中に挟んどく事にしますデス」

 

 見かけは悪いけど効果を考えたら国宝扱いをされてもおかしくない品だし、みんな喜んでくれる筈だよね。

 いまはコレで精いっぱいだけど将来的には可愛い装飾品を作りたい。自由にカスタマイズ


「それじゃリリーさんの所へ行きましょうか」

 




 食堂へ続くドアを開けると鼻歌を歌いながら動き回る白い巨人の姿があった。

 普通なら心躍る光景の筈なのだが、白い防火服と三角ヘッドの組み合わせは何処かの秘密結社を連想してしまい全然嬉しくない。

 近いうちに目で楽しめるようなエプロンなり、割烹着なりをプレゼントしたい。露出は少なくても良いけど顔は見えないと駄目だ。日本料理は目で食べるって言うしな。


「ふんふふん ふんふんふ ふんふふん。

 ジャガを煮る ねぎも煮る ふふふん ふふんふ 出来あがり HEYッ!」


 左手を鳩尾に当て、右手を高々と上げたオペラ歌手のような姿勢で勢いよく振り向いたリリーさんは、俺達の姿を見るとフリーズした。ミートゥー。

 こういう時、どう声を掛けていいのか解らない。自分に当て嵌めて考えるとスルーされた方が助かるが、どうする? 思い切って声を掛けるべきか?


「どーもお疲れッス、リリーさん。良い匂いッスね。そのスープ? 

 というか煮物? それが今日のバンゴハンなんデスか?」


 二者択一を迫られて悩んでいると、ウィルベルちゃんが突破口を開いてくれた。ありがとう助かった。


「……えっ、はい。そうですね、違います。これは……イモニカイという料理で、

 ジャガイモと牛肉とねぎ等をスキヤキ風のダシで煮込むスープ料理です。

 ウィルベルさんのご家族に振舞うとの事でしたので、多めに用意しました」

 

 なるほど芋煮か。しかも巨大な寸胴鍋に一杯。これだけあればハーピー村の住民に振舞っても御釣りが来る。

 リリーさんが気を利かせてくれたんだし、今夜は芋煮会を開くしかない。……こんにゃくが無いのは異世界だし仕方ない。

 飽食の日本と違い、切迫した食糧事情でノンカロリー食品を作る余裕は無いだろう。確か加工にもかなり手間が掛かる筈だしな。

 

「ほう。芋煮会ですか良いですね。折角だからウィルベルの村へ持って行って、

 パーリィと洒落込みましょう。ウィルベル、村の人口は30人程だったね?」


「多分それ位ッスね。今の季節なら増えてないと思いますデス。」


「そうか、ありがとう。これだけあれば量は充分だな。あとは器が必要か」


「申し訳ありませんタロー様。まだ、お鍋以外の支度が出来ていないんです。

 急いで準備しますので、もうしばらくお待ちいただけませんでしょうか?」


 約束の時間まであと3時間もあるのにこちらの言葉足らずで謝らせてしまった。  


「あっ、いや、まだ用事は済んでないけど、魔道具が出来たんで渡しに来たんですよ。

 これを首から下げて服の下に忍ばせておいて下さい。お守りです」


「そうなんですか? お帰りが随分早かったので、早とちりしてしまいました」


「リリー嬢ちゃんよ。その袋見た目は悪いが自動回復に加えて、状態異常の無効、

 水中呼吸、高い防御力を備えた優れものじゃ。肌身離さず身に付けておくのじゃぞ」


「ええっ!? 状態異常を無効化するんですか? そんな貴重品怖くて持てません!

 お、お返しします。こんな大それた物を頂かなくてもお気持ちだけで充分ですぅ」

 

 腰の引けた姿勢のリリーさんは、プルプルしながら魔道具をつき返してきた。

 えっ、何この反応。ああ、そうか傷付けたら大変だから心配をしてるんだな。

 まともな金銭感覚してるのはリリーさんくらいだろうし、正常な反応なのかもね。


「駄目です。返品は受け付けません。それは、皆の安全を守る為に作ったんです。

 身に付けていてくれないと困ります。今までの食事代がわりに受け取って下さい。

 勇者の仲間は常識に囚われてはいけませんよ。リリーさん!」

 

「はッ! そう、そう、そうでした! 私は勇者の、タロー様の仲間でした。

 勇者の非常識に付き合うのも仲間の大切な仕事なんですよね。タバサ様!」


「そんな事を口で言ったら台無しというか、言った覚えも無いんじゃがな。

 伝説では平和の為に日夜暗躍しとるらしいんじゃよ? わしはインドア派なのに。

 否定しようにも、尾ひれを付けたのが勇者で国王で故人じゃから性質が悪い。

 そういうしがらみで仕方なく善行を積んでおるのじゃ。1日15時間は眠りたいのじゃがのぅ」


「長生きも色々大変なんスねぇ。ところでご主人様、そろそろ暗くなる時間デス。

 あまり暗いと案内出来なくなるんで、そろそろ出発の準備をお願いしまス」


「そうか、解った。俺達はこの後トトを拾ってウィルベルの勤め先に行ってきます。

 リリーさんは料理の準備の方を宜しくお願いします。」


「料理はお任せ下さい。あ、トトさんに会ったら褒めてあげて下さいね。凄いですよ」


 リリーさんはそう言うと、優雅なお辞儀で見送ってくれた。しかし白ずくめでは絵にならない。あのKKKみたいな服は早くなんとかしないと。

 それにしても、トトが凄いってなんだろう? まさか人型になったりしていないよな? しがみ付いての腰フリを許せるのは犬だからなんだぞ。

 奴は人間で言うと28歳だ。28歳全裸男にしがみ付かれたら、手加減できず殺してしまうかも知れん。頼む。そうはならないでくれ。

 俺は祈るような気持ちでドッグランへの扉を潜った。





 結論から言うと杞憂だった。ドッグランにはトトとスライヌ氏、それにスパルタンアントがいるだけで変わった様子は無い。

 リリーさんはトトを褒めてやって欲しいと言ったのだ。唯一の常識人と思われる彼女が、犬が発情したから褒めてあげてなどと言う筈は無い。


「ワッフォ!」


 俺達の姿を視認したトトが咳払いのような鳴き声を上げると、だらけた雰囲気をかもし出していたスパルタンアント達が一斉に整列した。

 むむ。奴め完全に蟻達をコントロールしている。僅か数時間で、これ程の信頼を得るとは凄い(おとこ)だ。俺はトトに対する評価を数段階引き上げた。


 「ウゥー……」 


 続いて発せられた唸り声で、円陣を組んだスパルタンアントが幾層にも積み重なり、5本の指を持つ巨大な腕を形作る。

 その大きさは、俺の家から日の光を奪った14階建てのマンションにも匹敵する。なんだか腹が立ってきたが、八つ当たりは駄目だ。落ち着け俺。


「タバサ先生、スパルタンアントはあんな複雑な連携をする召喚獣なのですか?」


「いや、スパルタ軍の精兵を思わせる一糸乱れぬ連携を得意とする魔獣なのじゃがな、

 縦に積み重なって戦うなど前代未聞じゃよ。タロー殿に召喚された時点でレベル30、

 もう成長の余地は無い筈なんじゃが以前より動きが良くなっているみたいなのじゃ」


「レベルの上限に達してからも強くなるもんなんスかね?」


「ワワンッ!」


 

 最初から練習の成果を見せるつもりだったのだろう。トトの鳴き声を合図に戦いが始まった。

  

「ウチの子は新しい遊びを考えると人に見せたがるんですよ。

 そんなに続かないから、諦めてみんなで見物しましょう」 

 

 組体操をしているスパルタンアント、面倒なので群体蟻と呼ぶ事にしよう。

 群体蟻は、ディズニーアニメ張りの滑らかな動きで跳ね回りながらトトに近付き、4本の指を弾いてデコピンを繰り出す。

 壁が迫って来るのに等しいその攻撃をトトは2本の前足で受け止める。自分から攻撃はせず、あくまで稽古を付けているといった様子だ。

 なるほど。人を超える力を持つスパルタンアントが力を合わせれば遊び相手を務まるくらいの力を発揮出来るという事か。

 組み体操で力を合わせて戦うのは、キングダムや戦国BASARAで見た事がある。トトもそれを見て覚えていたのだろう。

 それからしばらく経って、群体蟻と稽古を終えたトトはこちらに走り寄り、俺達の周りをピョンピョンと飛び跳ねている。

 その工夫を称える。


「犬の成長は早いというが、こんな短期間でレベル50を超えるとはのぅ。

 天晴れじゃ。取って置きのビーフジャーキーをやろう」


「トトさんレベル50ッスか。これは変な呼び方は出来ないッスね。

 これからはトト先輩と呼ばせて貰いまスささ、先輩、牛乳おつぎしますデス」


「凄いなトト。俺には召喚獣を鍛えるって発想は無かった。

 俺からはコレをやろう」


「ヴーッ! ワンワン!」


 俺は2人からジャーキーや牛乳を貰ってご満悦のトトに近付きリボンを仕込んだ首輪を取り出した。

 首に巻こうとすると鼻に(しわ)を寄せて威嚇してくる。

 大方、自由が奪われると思っているのだろう。誤解を解こうじゃないか。


「トト。散歩の時間だ。ウィルベル! 本拠地から少し離れた所へ転移する。

 散歩に向いた所を教えてくれ。そうだな、徒歩30分くらいの所が良い」


「ハッ!? …………ハッハッハッハッ、フガフガフガフガ」


 散歩と聞いて一瞬呼吸を忘れ、一拍置いて豚のような鼻息を漏らすトト。

 考えてみると本格的に外を歩くのはこっちに来てから初めてだな。

 トトのステータスを確認するとレベルがかなり上がっていた。

 検証は後にしてとりあえず散歩に行こう。


「了解ッスご主人様。それじゃ、あの魔法をお願いしまス」



【トト】【種族:犬】

【勇者LV:059】 

【HP:622/622】

【MP:626/626】

【SP:629/629】

【力 :620】【技 :622】

【知力:004】【魔力:616】

【速さ:629】【幸運:625】

【守備:619】【魔防:618】

【ドッグトレーナー LV:50/50】

【災害救助犬 LV:50/50】

【猟犬 LV:50/50】

【セラピードッグ  LV:50/50】

【タレント犬 LV:50/50】

【スキル1:自宅警備】

【スキル2:経験×30】

【スキル3:      】

【スキル4:      】

【スキル5:      】


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