肥大するメビウス
こんにちは~、お仕事進捗どうですか~?
あら? まぁまぁまぁ、話には聞いていたけれど、本当にいましたね。えぇ、はい。そちらと同じ……神の御使い的な。見ればわかる? 全体的な造形が似通ってるから? うぅん、綺麗って言葉は誉め言葉なはずなのにそれと同じ扱いだと思うと途端にイヤな気持ちになりますね。
貴方は黙っててください。こちらの方とお話しますから。
あれでしょ? 貴女がこちらの担当してる世界の元になっちゃった聖女様でしょう?
え? 聖女とは何の話だ?
あら貴方、言っていないのですか?
並行世界が無数にあるとはいえ、その世界だって滅びるまでは進み続けるわけです。それはご存じ? なら良かった。
貴女が転生した世界は基本的にヴァイオレットローズ・シークレットガーデンに寄った側だったわけです。でもそのお話とは別の道筋に貴女は進んでしまった。結果、新たなお話が生まれてしまった。
簡単に言えばそういう事ですね。えぇ。
こちらが担当している世界のお話もあるんですよ。あ、ほら、そこにつまれてるゲームの、そう、その木漏れ日のピリカ、っていうタイトルのやつ。伝説に憧れた少女が聖女を目指すとかいうやつです。で、その伝説の聖女が貴女、ってワケ。
あら? 随分としょっぱい顔されてますね。自分が聖女とか何かの間違い? いいえ?
とある貴族の令嬢はしかし家族に虐げられていた。
身の回りの物を強奪する強欲な妹。それらを窘めてはいてもただそれだけの両親。
反省した様子のない妹はとうとうある日、姉の婚約者までをも奪ってしまう。
失意の中彼女はその身を修道院へと寄せ、家族との縁を切る事にした。
そうして日々を修道院で過ごしていた彼女はある日、神の使いと出会い姿を消した。
彼女がいたとされる場所には、神の使いである鳥の羽が残されていた。
その羽は美しく、仄かな力を発していた。その羽に祈れば小さな怪我であれば治ったし、病気も完治とまではいかずとも症状を軽くした。
その羽を求めた者は多く、だがしかし修道院からその羽を運び出そうとすれば羽は途端に輝きを失ってしまう。
まるで消えてしまった彼女の代わりのように、その羽は修道院でのみ寄りそうようにその輝きを発していた……
っていうお話がですね、できちゃったわけですよ。こっちの並行世界で。
ほぼまんまでしょ。
え? 何となく似通ってる部分はあるけど完全一致ではない? 別に妹に虐げられた事はなかったし、確かに婚約者は譲ったけれど合意の上? 家族との縁も別に切った覚えはない。
神の使いは……まぁ、はい。鳥の羽は何となく貴方が?
その後の羽についてはノータッチ、と。
むしろお仕事いっぱいでそっちにかまける余裕なんてなかったし、暇な時間ができたとしてもそっちに意識を向けた事もない……
ん、んあ~、よりにもよってそういうパターンですかぁ!
そーりゃお仕事減らないわけだぁ!
え? あぁ、あるんですよたまに。
前世の知識とやらで転生した人生をどうにか乗り切ろうと考える人は多々いるんですが、そこから外れたルートへ行こうとしてこっちも予想してなかった新たなルートを創り出しちゃう、みたいなのが。
とはいっても、そこまで多くはないんですよ。
転生者が複数いたとしてもそういう時は割と高確率で潰し合ったりしてますので。
え? はい。結構ありますよ。
その木漏れ日のピリカっていうお話は基本的にかつての聖女とやらに憧れた少女が自らも聖女を目指そうとする物語です。
他の並行世界には割といっぱいいる鳥なんですが、こちら側にはその数はまさに減少の一途を辿る状態。むしろ保護しないと絶滅するのも時間の問題レベル。
そしてその鳥は既に人の暮らす場所ではなく前人未踏の地でひっそりと生息しているという状況。
えぇ、そうです。
タイトルからはほのぼの系ストーリーを想像させますが、実際のところ割とガチな冒険譚です。
そちらのゲームのグラフィックは全体的にほんわか系ですが、内容はかなりハードですのでプレイする際は気合入れて頑張って下さいネ!
まぁ、そういうわけでその主人公に転生したという自覚のある転生者はサクッと攻略を目指すわけです。
え? 旅に出ない選択肢? どうでしょうねぇ……その主人公、村で暮らす平凡な少女なんですが、親が死んでしまって村で暮らすにも日々の生活だけで精一杯、って感じですしそのまま村に留まっていた場合、村一番の金持ち息子の結婚相手にされかねないので。
あ、はい。お察しの通りその金持ちの息子は顔も性格も最悪です。しかも金持ちっていっても精々村一番なので、別に贅沢な暮らしができるほどでもないです。人生棒に振る金額としては端金ですね。
なので大抵は村を出る選択肢を選びます。一応村に残るルートもあるんですが……まぁそちらのゲームをプレイしていただければわかるんですが、バッドエンド扱いでして。
中にはあえてそちらを選んだ猛者もいます。はい、前世がSM嬢の方でしたね。素晴らしい調教の手腕でしたが……その、なんというか……村全体がSMクラブになっちゃって……あぁ、いえ。それ以上の事は特に何も……えぇ、本当ですよ? そういう事にしておいて下さい。ね?
というわけで主人公転生してしまった方々は大体村を出て冒険に行くんですよ。でも途中で適当な所で生活しよう、とか本来の話から逸れようとした人もいます。
うーん、そちらの方々の成功率は半々といったところですかねぇ……本来のストーリーに沿っていけば仲間も集まりますが、あくまでも聖女を目指す主人公の助けになる、という流れですので……あと聖女の奇跡も目当てにしてる部分があるので……
えぇ、聖女の前に姿を見せる、と言われてるんですその鳥。そんなことはないんですけどなまじっか原作知識持ちの方々はそれを信じてるので。案外気付かないものなんですかね。
なので聖女を目指す主人公とその力の恩恵にあやかりたい仲間たち、という形でストーリーが進みます。
それで途中適当なところで聖女を諦める、とかいう選択肢を選ぶと場合によっては仲間が敵に回るなんて事もあるんですよね。だからこそ仲間と会う前に適当な所で生活する、という選択肢を選ぶ方もでております。
町の道具屋さんとして成功した方もおりますよ。そちらは結婚もされて幸せな人生で幕を終えました。
ただ……聖女を目指して神の鳥を探す、というのは別に主人公だけがやっている事ではなくてですね。ライバルもいるのです。
で、ライバルの仲間キャラなんてのもそれなりに人気があるらしくて……原作開始前にむしろそちらを仲間にできないか、なんて考えたりだとか、むしろライバルと一緒に聖女目指せば解決じゃーん、なんて考えた人とかがおりまして……
こちらの成功率は一割あるかないか、ですね。
あと、ライバルポジで転生した人もいるので……そうなると主人公とライバルで手を結ぶ、というのがとても成功率下がるんですよ。
既に結構言ってますけどそういえばネタバレ大丈夫です? そうですか。安心しました。
なにせライバルは途中で脱落しますから。それも強大な力を得た上で。
ライバルを救済したい派が手を結ぼうとする事もあるんですが、ほら、そもそも自分は転生者だ、なんて普通明かさないじゃないですか。なので大抵はこじれます。
それに、並行世界が多数あるので主人公が転生者じゃないけどライバルは転生者、とかいうのもあるんですよ。
主人公に転生したけどライバルは転生者じゃない、というのも勿論あるし、両方が転生者である場合もあります。それ以外で仲間ポジションに転生した人だとか、ライバル側の仲間に転生した場合とか。
そういうのがかなりのパターンに分かれておりまして……
その状況で聞けます? あなたは転生者ですか? なんて。
えぇ、難しいですよね。余程原作から離れた言動してたらもしかして、とは思いますがでもその相手が自分の味方になってくれるかはわからないでしょう?
それにこのお話の登場人物大体好き嫌い分かれるタイプが多いんですよね。
主人公の娘とて、夢に向かって突き進むよくあるタイプといってしまえばそれまでですが、ちょっと現実見えてない部分とかありますし……それくらい無鉄砲さがないと流石に神の鳥を探す旅とかできないとは思いますが……転生者なら最終的にゴールが見えてるけど、そうじゃなかったら現実の見えてない小娘、みたいな部分もあるので。綺麗ごとがハナにつく、という風に見る者もいます。
ライバルも事情があるとはいえ目的のために手段を選ばない部分があるので……えぇ、人によっては受け入れられないかなと。
お互いの仲間たちに関してもそうですね。
目的がある。だから手を貸す。打算があるとわかっていても、長所と短所がハッキリしているので人によってはこいつとは仲良くできそうにないな、って感じたりだとか。逆に全部許せる、って人もいるようではありますが……でも、ほら。ゲームとして見ているだけなのと、現実として関わらなければならない場合とは別物でしょう?
ゲームならエンディング見た時点で大体の事はまるく流せるかもですが、現実だとどうなんでしょうね?
ライバルが転生者の場合なるべく悪事になるような事はせずどうしても仕方のない場合であっても犠牲がでないように、とか最小限に抑えようとしたりする人がそこそこいるんですけれど、主人公も転生者の場合そんなの知らないのでやってもいない悪事を働いたと決めつけて言及しちゃったりすると、まぁこじれます。この時点でライバル側は主人公が転生者であると気付けるんですが……でも、いきなり人の事犯罪者扱いしてくる相手と手を組めます? 難しいですよね。
逆にやってもいない犯罪をやったと決めつけたそちらこそが、やったのでしょう、と嵌めるパターンもあります。証拠もなしに決めつけた状態なので流れによっては主人公が一転窮地に陥りますが……
和解の道はありませんでしたね。このパターンに入っちゃうと。
それに、場合によっては仲間にも見限られますし。
大体上手くいくのって、原作知識がぼんやりしてる程度にしか覚えてない場合が多いので……もしくは素直に原作通りに話を進める場合か……
貴女のように完全に知らない、という場合は半々、といったところでしょうか。知らないからこそやらかしちゃいけないパターンに突入する、という人がそれなりに……えぇ、はい。
実際途中までは上手くいってた人もいるんですよ。ライバルと手を組んで協力する流れに持ってった人が。
でも、原作知識とか全く知らなかったが故に突入した挙句、踏んじゃいけない地雷みたいなものも知らなかったせいで……その人は最終的にライバルに足の腱を切られて監禁されてしまいました。
ちなみにその並行世界ではライバルは転生者ではなかったけれど、主人公以外だとライバルの仲間キャラにいましたね。転生者が。
そして彼はほの暗い百合展開に鼻息荒く見守るだけの豚となり……ごほん。こほんこほん。今の部分は聞かなかった事にしてください。ね?
ともあれ、原作と言われる内容以外の新たな道筋を作り出す人もいるので、そこからさらに派生した未来がまた別の何かとして形になって他の世界に……なんて事になるのでお仕事の終わりが見えないんですよね。
いえ、他所の世界から流れてくる魂の数が減ればある程度終わりも見えてはくるのですが。
根本的な原因がどこか、が判明していないので後手に回っておりますが……まぁ、いつかはきっと終わりが来る事を信じる他ありませんね。
さて、それではそろそろこちらも仕事に戻らなければ。
なんだか思った以上に長居してしまいましたし。
あ、そうそう貴方。
人手が足りないからって見込みありそうな人物を引っ張ってくるのは構いませんが、次はもうちょっと上手くやってくださいよね! 貴方のせいで発生したようなものじゃないですか、木漏れ日のピリカ。
え? 自分がやらなくてもどっかで似たような事象が発生して結局そうなってた?
うぅ、否定できないのが悲しい。
それにそっちが前にやらかしたせいでヴァイオレットローズ・シークレットガーデンと恋のキラメキは素敵なプリズム! なんていう同時2タイトルが発生したんだからとやかく言われるつもりはない?
あぅぅ……それを言われると言い返せませんね……いえ、その節は誠にご迷惑を……
じゃあ今回の件はそれでチャラという事で……えぇ、そうですね。あれもこれもと言い合っていては終わりが見えませんものね。
えぇ、はい。
では次はうちに是非遊びにきて下さいませ。
うちで手伝ってくれている方も中々に面白い方ですので。貴女ならきっと仲良くなれそうな気がします。
どんな方、ですか?
えぇと……前世では秘書課の田中さん、と呼ばれていたとは聞いていますが……え? 従姉妹だった?
まぁ、まぁまぁまぁ、まさか同じ世界線から流れてきた方だったとは……こんなところでまさかの再会フラグができるなんて、世間てば案外狭いものですね。
えぇ、そうですね。次は是非貴女もいらしてくださいな。仕方ないから貴方も誘っておきます。というか貴方が案内しないとこちらに来れないでしょうし。
先にこちらが来れそうなら次は一緒に遊びに来ますね。
来る時は事前に連絡入れるので、お茶の一つくらいは用意しておいて下さいね、貴方。
それではこれにて失礼いたしますね。えぇ、はい、では。




