第3話 星空のむこうの国
PCとスマホでゴッチャに書いたので、改行等おかしな所があったらすいません。
それから1ヶ月程空きまして、読んで下さっていた方々には大変申し訳ありません。
東北中堅都市、某商業高校。
美術部の部室に一年の佐藤可那はいた。
可那は人見知りの激しい子だった。特に大人に対して。
授業中先生に指されても声は蚊の鳴く様な小ささで、聞こえず側に来ても教科書を見たり、下を見たりして目を合わせない子だった。
美術部の部活でも同じ一年の数人と二言三言話す程度で、二年・三年の上級生とは一言も話さなかった。
だから美術部でも基本いつも一人で陸上部のトラックの見える窓辺で外を向きながら課題の絵を描いていた。
窓からは手前に校門に向かう通りが横に伸びていて、通り脇には銀杏の木が校門まで立ち並んでいて、その奥にトラックが見えた。銀杏の木は秋には通り一面に実を落とし、登下校の生徒達に踏まれるので、通りは一面独特な匂いに包まれる。
普段その窓から見える景色をスケッチしているのだが、走っている陸上部員の中の一人が気になっていた。
銀杏の木と木の間から見える彼はいつも黙々と走り、可那の眼前を横切って行く。
五月に気付き、六月の雨の中も、七月の暑さの中も、彼は走っていた。
部活が終わり可那が帰る時も、陸上部も部活は終っているだろうに、彼は一人でトラックを何周も走っていた。
気になって目で追う内に自分が彼を好きな気がして来た。
好きだと思う内にその気持ちを伝えずにいられなくなった。
可那は部活の時間が終っても,一人走る彼に誰もいなくなったトラックで、前の日に書いて来た手紙を渡した。
彼、飯野晃(陸上部二年),はその場で手紙を開け、中の便箋を読み、また中に仕舞い、手紙を可那に返した。
「悪いけど、俺キミの事そもそも知らないし。今は走るので精一杯だから」
それだけ言って、また走り出した。
可那の前から遠くへ遠ざかって行った。
一言も話す事もなく、可那の片想いは失恋に終った。
『そうだよな。あの人は、私の事知ってもいなかったんだもんな』
夕暮れのトラックにポツンと取り残された可那は返された手紙を眺めながらそう思った。
突然舞い降りた恋心は自分の中で勝手にはしゃいで相手と自分の距離感も分からず行動を起こし、そして跡には自己嫌悪と穴があったら入りたい程の恥ずかしさを残した。
1年後。
可那はブックドムで本を探していた。
可那は小説は日本の作家より海外の作家の方が好きだった。どうにも日本の作家の文体には湿気を感じるのだ。海外の作家だと翻訳されていても、乾いている様に感じた。
『パトリシア・ライトソン、ヴォネガット、バージェス、アーヴィング、ディケンズ・・・』
好きな作家名をチェックして、ハインラインの『夏への扉』を手にした時だった。
「あ、その本」
横にいた男が声を出した。
可那はこの人も本が欲しいのかと思い、横の男の人の方に本を向けた。
「いいよねその本、表紙も良いし、中身も良い。AMIZONで確か今、早川SF文庫版は挙がってないんだよな」
そう言うと男は可那に背を向け、文庫本のコーナーを去ろうとした。
「あの」
つい、可那の口から声が出た。
「ん?」
男は反応して振り返り、可那の方を見た。
「ああ、その本?俺は要らないよ。何回か読んだ事あるし」
「あ・・あ・」
『 まただ。また余計な事をした。恥ずかしい。この人きっと変な顔して私を見てる』
可那は自分が声をかけ、立ち止まらせた事に自己嫌悪を感じた。早く謝ろうと思うが今度は上手く声が出ない。
『なんで私は普通に見せる事が出来ないんだろう』
可那がそう思っている時、男が声を出した。
「勘違いの勘違いしてる?この本を俺が欲しがってると思って譲ろうとしたんでしょ?有難う。君は勘違いして謝ろうとしてるみたいだけど、この場合謝らなくて良いんだよ。全く最近は皆、よく考えずとりあえず直ぐ謝る。それを普通と思ってしなくても良いのに。少し考えてからでも謝る事は出来るのに。あ、ゴメン。君の事じゃなくても。ん〜、本好きなの?」
「はい」
今度はスンナリと言葉が出た。
「俺も、本とCDとDVD好き」
「それって、全部じゃないですか」
「そう。メディアは大抵全部好き。寧ろ映画なんかは知らないのあると腹が立つ」
そう言うと男はニヤッと笑った。
決して格好良いタイプの男では無かったが、普通程度のルックスと不思議な安心感があった。
類は友を呼ぶ。
可那はその言葉が頭を過ぎった。
『普通に話せてる。きっと同じタイプの人間なんだ。周りを気にせず普通に話せてる』
「じゃあ映画は?映画は何が好き?」
男が聞いた。
「あ、ピアノ・レッスンとか」
「お~、深いなぁ。ホリーハンター?あの人凄いよね、最初のブロードキャストニュースじゃアイドルみたいだったのに、ピアノ・レッスンもそうだけど、クローネンバーグのにも出ちゃって」
「?」
「あ、クローネンバーグ分らなかった?あと音楽も良かったよね。マイケル・ナイマン」
「あ、それはCD持ってます。重くて綺麗な曲ですよね」
「あのサントラは名盤だよね。そのあとワープのエネミーゼロの曲やってたのは笑ったけど」
「??」
「あ、分んない。ゲームの話」
こんな感じでそれから二人は、ブックドムの商品を見ながら本やDVD、はてはフィギュア等のお互いのウンチクや、こだわりを話しあった。二時間程は居ただろうか。店側からすればいい迷惑だったろう。
それから男の誘いでそのまま男の部屋を見に行った。
「きっと君なら喜ぶ様な物がいっぱいあるから」
と、言われ。
実際話が合う事、話が途切れない事、話したい事がドンドンあって、緊張せず話せる人の方が恋愛は楽なのかも知れない。
可那は感情は昂ぶらないが、好印象で外見も特別気になる所のない普通のこの男みたいなのが、結局は自分にはあっているんじゃないかと思った。ランクを下げると言うのではないのだけれど。
アパートの男の部屋は壁中棚だらけで、DVD・CD・本等がほぼ満タンに並んでいた。
「アルバイトとかしてないから、これをネットで販売して収入を得てるんだ。大学行きながらちょっとした実業家。波はあるけどね」
男は笑いながらそう言った。
確かに可那が見たかった映画や本が色々ある。
『相性が合うのかな。だからこの人とは話せるのか?』
可那はそんな事を思いながら、棚のDVDや本を細かくチェックしていた。
「見たい本やDVDとかあったらいつでも貸すよ。あ、あった」
そう言いながら男は棚のDVDを指でなぞりながら、何かを見つけたらしくDVDを一枚抜き出した。
「これ、今から一緒に見ない?あ、時間大丈夫かな?」
男はそう言うと取り出したDVDのジャケットを可那の方に見せた。
「四月怪談?」
「そう。小中和哉って、最近はウルトラマンシリーズの監督してる人の初期の映画。高校生でしょ?高校生なら絶対これ見た方が良いよ。きっと泣ける。感じるものあると思うよ。ちょっと前に再販したんだけど、今は入手困難でAMIZONで中古でも五千円以上するんだ。この前仕入れて、見ようと思ってたから丁度良い。どお?」
「なんか、タイトル聞いた事あります」
「お、鋭い。原作は大島弓子の漫画だから。綿の国星の」
「綿の?」
「あ、そっち知らなかったか。で、どうする?見て行く?」
「はい。時間は大丈夫です。ちょっと興味あります」
「上等」
男はルパン三世の声真似をして言った。
「あ、それ、カリ城の」
「正解」
二人はクスクス笑った。
その日から可那はほぼ毎日、男の家に通う様になった。
正式に付き合う様になるのにも時間はかからなかった。
その男こそ、この小説の主人公、只野幸作。
俺である。
つづく
読んで頂いて有難うございます。
次回は第7話になります。




