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ずっと一緒に  作者: 川崎 春
隣国編

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41 クララの謝罪

閑話の前の話の続きです。閑話に繋がる話になっていくので暫くお待ちください。

「メイフィーア・ロゼライト公爵令嬢」

 会場に入る少し前で、声をかけられてそちらを向いて内心ぎょっとする。


 その女性は、私に近づいて来ると深々とカーテシーをした。

「不敬をお許しください。私はクララ・モートンと申します」

 爵位が下の者から声掛けをするのはマナー違反なのだ。……(よしみ)を結びたい貴族同士の夜会ではそこまで問題視されないのだが。この方とは因縁があって話をする間柄ではない。

 表情には余裕がなく、憔悴しか見えない。断れば何か起こりそうな気がする。


「どのようなご用件でしょうか」

「謝罪をしたいと思い、お声がけさせて頂きました」

 クリス様の事だろう。とはいえ、謝罪の手紙の一つも来なかった上にかなり時間が経っている。何故今なのか分からない。

「……会場のテラスに行きましょう」 

「感謝します」

 クララ様は少しほっとした表情で言った。


 探すと幸いな事に小さなテーブルと椅子の置かれたテラスが見つかった。私達はそのテラスに通じる扉を抜けて扉を閉める。その片方に座って彼女にも座る様に促した。

 何を謝りたいのか、どう思っているのかは聞かねば分からない。まずは聞く事に専念する事にした。


「かつての私は愚かで、文官である事に奢りがありました。試験に受かり実力を認められたので、間違った判断をする事はないと思い込んでいました」

 頭がいい。それは確かに突出した能力で、理性的な事は分かる。頼られる文官ならそう思うかも知れない。

「ですので、自分が如何に恥知らずな行いをしているのか理解していませんでした。婚約者の居る男性に近づき、自分が婚約者の様に振舞う愚かさは……今も時を戻せるならやり直したい程です」

 クリス様の事を好きではないと分かって、内心安堵する。


「実は、夫に強引に言い寄る令嬢が居るのです」

 ……なるほど、それで謝罪(みそぎ)に来たのか。懺悔室のシスター役に抜擢された様だ。

「モートン侯爵の側に居なくていいのですか?」

 クララ様は涙目で言った。

「夫もその令嬢も、会場の何処にも居ないのです」

 何処かのテラス席に二人で行ったと言う事か。最悪……休憩室かも知れない。


「私がいけないのです」

「不貞を自分のせいにする前に話し合った方がいいと思いますよ」

 あなたのお陰で分かった事ですけど……。

「いいえ。恥知らずな私を気遣い、歩み寄ってくれた夫に……自分の気持ちをぐずぐずと伝えないまま結婚してしまいました。だから、夫は愛してくれる人を見つけて心をそちらに寄せてしまったのだと思います」


 心臓が大きく跳ねる。

 今の私がやっている事はクララ様のやっている事と変らない。私達の婚約期間は五年を超えている。同年代なら、既に二人目の子供も珍しくない。それなのに……結婚準備のお誘いすら出来ていないのだ。


「私は愚かでした。本当に申し訳ありません」

「赦します」

 即答していた。これは自分が赦されたいからだ。

 安堵した表情はすぐに消え、クララ様の表情は暗くなった。


「もしかして、離縁をお考えですか?」

「はい。できるだけ早く。……子を授かっていますので」

 一瞬息を呑む。お姉様を身籠ってベランダから飛び降りた先妻様の事を思い出す。

「早まってはいけません。嫡子ではありませんか!侯爵はご存じなのですか?」

 クララ様は首を左右に振る。

「今離縁しなければ、子供を口実に離縁ができなくなります。他に愛する女性が居る人の側でこの子をちゃんと育てる自信がありません」


 どうしよう……。ただ、ここに居てはいけないのだけは分かる。

「ここは冷えます。馬車を手配しますからそのまま待っていて下さい」

 夜会ではドレスコードでヒールを履く。妊婦は基本立ち入り禁止なのだ。ロザミア様が悔しがってもここに来られなかったのはそのせいだ。


 私はテラスを出ようと扉に近づくと……エルリック・モートン侯爵と見知らぬ令嬢が立っているのが見えた。

(モートン侯爵と不倫相手!)

 一瞬気を失いそうになるほどの驚きだったが、その横にクリス様とコリーヌがいた事から踏みとどまった。コリーヌは護衛も兼ねている。クララ様が接触した事をクリス様に報告したのだ。


 ガタンと後ろで音がして、振り向くと青い顔をしたクララ様が立っていた。

クララは、自分の感情が絡んだ際の判断力が壊滅的です。仕事できるのに……。

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