30 重たいドレス
私は早速ロザミア様の所を訪問して、私がこの国に来る前のドレスを見せてもらう事にした。
「持って来たけれど、着ないわ」
トルソーに飾られたドレスは見事な出来栄えで、美しい刺繍が全面に入っている。
「どうしてですか?」
「重たいの」
ロザミア様は小柄だ。高いヒールを履いて立つ事になる。
驚く事に、実際に触れてみると想像以上に重たかった。ドレスのパニエが八段になっていて、小さな宝石が縫い付けられているせいだ。見えない場所なのに……。
「宝飾やドレスの重さは、送る側からの愛の重さだって王妃が言ったのよ。……このドレスは婚約発表の時に元王太子から送られてきたドレスなの。着ないけれど、かけられた手間を思えば安易に別のものにする事も下賜する事もできないの」
「そうだったのですか……」
そのドレスに、ロザミア様は王妃にも元王太子にも不機嫌を隠さなかった。それで、学園へ入学する予定が飛び級にされて大学への進学になったと言う。
以後、ロザミア様に元王太子からドレスが贈られる事は無く、茶会にも夜会にも呼ばれなくなった。
ロザミア様はこの頃から流行の夜会用ドレスを着ていない。そして、エリーゼ様はずっと男装。
その間にも夫人から令嬢まで、多くの貴族女性がこの重たいドレスの問題に苦しむ事になったのだ。
婚約者を持つ令息、娘の多い家……。
そこで、夜会の回数を減らそうと言う意見はかなり出ていたそうだが、元公爵夫人が夜会を好む事もあり、叔父様はそれを渋って貴族議会で却下していた。
臣籍降下の際に出された結納金は莫大で、それを元公爵夫人は毎年の予算に加えて湯水に様に使っていたのだが、叔父様は夫人用の予算しか注視しておらず、個人資産を把握していなかった。だから予算内でやっていると信じていたのだ。
学園で仕事をしていて分かったのは、お金の価値や計算を理解していない令嬢が多い事だ。しかも男性が女性の出費に必要なものを分かっていなかった。
今、学園では折に触れ、これらの事を教養として教えている。それと分かる形にせず、あらゆる授業に取り込まれている。そうしなければ、庶民との距離が開き貴族の社会も王権も維持できないからだ。
危機感を持っている今だから、皆真面目に聞いてくれている。この流れに乗って、分かりやすいドレスの基準を作らなくてはならない。
ただクリス様に唯一絶対の条件として告げられたのは、母国と全く同じにしてはいけないと言う事だった。
『国ごとの文化を異国風にすると言うのは……戦争の火種になりかねないんだ。特に宰相として招かれた僕の婚約者となると余計にね』
侵略ととられかねない場合があるのは、貴族として当然学んでいる。
『私には荷が重いです』
『難しい事を頼んでいる自覚はある。だが、この国のオリジナリティは予算オーバーだ。ロザミア妃が音頭を取ってくれるのが一番なのだが』
それが最善だが……平民ワンピースの愛用者にそれを頼むのは難しそうだ。
「私もエリーゼ様も、ロザミア様も喜んで着られる、楽で今よりも安い価格のドレスを作らなくちゃ」
私がぽつりと言うと、それまでドレスをうんざりした顔で見ていたロザミア様が私の方を向いた。
「何?その面白そうな企み」
「……企みも何も、クリス様はロザミア様にも相談したとおっしゃっていましたよ?」
「宰相には、予算を抑えたドレスを作って着てくれとしか言われていない」
クリス様の伝え方がつまらなかったから、いい加減な返事をしたらしい。
「メイフィーアがやるなら、私も一緒にやるわ!楽っていうのがいいわね」
「どうするおつもりですか?」
未来の王妃が乗り気になってくれたのは助かる。そこでロザミア様の猫の様な眼が輝いた。
「そうね。コンテスト!ドレスのコンテストをしましょう!学園に新聞社を招いて募集するわ。展覧会もやって選びましょう。お祭りよ」
ウキウキするロザミア様に言う。
「予算制限をしないと高額なドレスが出ます」
ロザミア様は少し考えて言う。
「同じ材質の布と糸を同じ量で、私の背格好に合わせて作る事にしましょう。雑費で飾りを加える事も出来るけれど、明らかに高額な飾りは無くなる筈よ」
「素晴らしいです!」
さすが天才王太子妃だ。
屑石の販売に困っていた宝石業者が、服飾業者と策を練り、王妃に言ったら喜んだので採用されてしまったものです。完全に抱き合わせ商法です。これに靴屋も乗っかりました。(靴にも屑石が付いている)
宝石の重みでパニエが膨らまないので、宝石の付いていない層も作ったりしていて、更に重量が増えています。
王妃はパニエの宝石の種類や色を茶会のドレスコードにすると言う頭の悪い事もしていた為(宝石商に幸運があるとかで唆されていた)、外してしまう事はできませんでした。対抗意識のある元公爵夫人も同じことをしました。
悪い事があると、出席者のドレスが調べられます。
ちょっとした狂気。




