<閑話>クリスの失敗3
メイフィーが旅立った日のクリスの帰宅後と帰ってくるまでの話です。
僕が帰宅すると、メイフィーはエリーゼ嬢と辺境に旅立った後だった。
翌日、シュトラーゼ殿が来て安全は保障すると言われた。
「丁度、エリーゼに辺境で代理をやっているアリューゼ……私の乳兄弟との縁談がありまして、丁度辺境に行く話が出ていたところだったのです。警備も侍女も不足ないかと思います」
ジョセフも同じことを言っていた。
「婚約者を黙って連れ出した事を咎めているのです」
「そうはおっしゃいますが、メイフィーア様は嫌がる素振りを見せなかったと報告を受けています」
僕は苦い顔になっていたと思う。
「騎士団でもメイフィーア様はお飾りの婚約者で、クララ・ベルハム嬢と婚約を結び直すのではないかと噂されていましたよ」
「僕は騎士団とそれ程接点がないので知りませんでした」
シュトラーゼ殿を睨むと、彼は言った。
「メイフィーア様は人気があるのです。あなたとあの方が国を救ってくださいました。我々は恩を感じています。しかし、それと同時にあなたに恩を仇で返しても、奪いたいと言う欲もあるのです」
虚を突かれた。
「学園を再開して下さったお陰で、若い令嬢達は貴族の在り方を考え直しました。多くが夫人として勤めを果たす意味を考え直しています。しかし……男の目から見れば、そんな彼女達以上に素晴らしい令嬢が居る。メイフィーア様だ。堂々と奪い取る事は出来ないなら、どうすると思いますか?」
噂だ。貴族の情報戦は噂から入る。クララの行動は、まんまとメイフィーを狙う者に利用されていたのだ。
「メイフィーア様が人目のある場所で感情を顕にした。それはとても危険な事だったのです。今度こんな事があったら、メイフィーア様が無事で済むとは思えない。……この国は、女に優しくないのです」
一瞬、シュトラーゼ殿は暗い表情をすると一礼して去って行った。
クララと僕の関係性が大きな噂になりメイフィーが勘違いするまでの間には、目に見えない悪意があったのだ。そんな事は幼い頃から分かっていたつもりだった。公爵家の嫡男とはそういう立場だったからだ。
しかしこの国は母国と違いボロボロで……立て直しを優先した。もっと早い段階で仕事を減らすべきだった。そして……壊せない関係だとメイフィーにも周囲にも、示す必要があったのだ。
オスカー達は、即座にクララを婚約させて噂の鎮圧をした。
ジョセフは辺境にメイフィーを出している間に内通者を探した。噂を上手く流すには情報が必要だからだ。後日、フットマンが酒場で友人に酒を奢られて、その見返りに屋敷の情報を話していた事が判明した。
フットマンの友人の仕える家も特定され、財務大臣の次男が巧妙に噂を流していた事が判明した。
次男は僕達の待つ取調室に入ると、いきなり隠し持っていた短刀で僕を襲って取り押さえられた。
財務大臣は、息子の暴挙に青ざめていた。
メイフィーが王都に居なくて本当に良かった。……彼は、本当はメイフィーにこうしたかったのだと、狂気の浮かぶ目を見て確信した。
次男は文官を目指していたが、試験に通らず断念した。再挑戦は恥だと止めたらしい。
将来は長男の補佐をさせる予定で家に置いていたと財務大臣は言った。次男を思っての事だった様だが、出来の良い長男に期待をかける姿を、次男は挫折したまま見続ける事になった。
末っ子の妹が学園に通っていて、メイフィーは次男に一度だけ挨拶をしていた。たったそれだけの接点だったが、狂気の行先は決まってしまった。
次男は病死と発表され、財務大臣は辞職した。メイフィーがこの事実を知る事はない。
しかし、知る者は当然居る。
「次は無事とは限らない。メイフィーアに何かあったら、絶対に許さないんだから!側に居なさいよ」
ロザミア嬢に怒鳴られた。反論の余地がなかった。
軋むような気持ちのまま経つ時間の中、メイフィーから手紙が来た。
中を見て後悔した。まるで別れが決まっているから書いた遺書の様な内容だったのだ。
彼女は手放す事や諦める事に慣れ過ぎている。僕は忙しくても彼女の事を大事に想っていると伝えるべきだったのだ。
このままだと……僕を諦めて居なくなる。今の彼女には多くの選択肢がある。気付けば掌に汗をかいていた。
次男は、使用人のネットワークで、まず脳筋そうな騎士団関連の家に噂を流しました。そこからの情報がじわじわ染みて行きました。
学園に噂が届いた際も、すぐには話題にあがりませんでしたが、メイフィーアとクリスが一緒に居るのを見た事がないと言う話から時間が経過し、噂が不安と共に広まっていく事になりました。
ちなみにロザミアは、エリーゼと情報を共有をしています。
メイフィーアが危なかった事と、クリスが憔悴している様子を伝えています。




