13 ロザミア
ロザミア様は、大きなつり目のご令嬢だった。年齢は私と同じ。
背は私よりも低くて可憐な容姿をしているのに、猫の様な目が猛獣の様な圧を持っていた。
(見た目は愛らしい猫の様なのに……)
いつも背筋を伸ばして凛としたエリーゼ様が、申し訳なさそうに肩をすくめている。
「あなたがメイフィーア様?」
「はい。初めまして、メイフィーア・ロゼライトと申します」
同じ公爵家とは言え、肩や没落仕掛けの公爵家……あちらは王族になるかも知れない公爵家。立場の差は明確だ。
上から下まで私を見てからロザミア様は言った。
「不思議な人ね」
きょとんとしているとロザミア様が言った。
「驚く程……ひっかかる所が無いわ。こんなに美しいのに」
ひっかかる。……どういう事だろう。
「そう、まるで美しい風景画の様だわ!」
褒められているのだろうか、それとも貶されているのだろうか。
(変わったお方の様ね……)
「ありがとうございます。こちらにどうぞ。今お茶の準備をさせておりますので」
さらっと流しつつ考える。……いきなりの訪問、初対面の人間を批評する。間違いなく問題人物だ。
応接室に通してソファーを勧めると、エリーゼ様は何故か私の横に座った。ロザミア様の方が親しい筈なのに。
ロザミア様は紅茶を堪能した後で私を見て言った。
「いきなり押しかけてごめんなさいね。エリーゼが紹介してくれないから付いてきてしまったの」
さっきの眼力は和らぎ、年齢相応よりもちょっと強そうな程度になった。
「メイフィーア様は、お国を出られてこちらに来られたばかりなので、もう少し落ち着いてからの方がいいかと思っていたのです」
どうやら、ロザミア様の眼力から守ってくれようとしているらしい。
「落ち着くっていつ?ずるいわ。私だって一緒にお勉強したいのに……」
ぽつりと言われて目を丸くする。
元王太子殿下の婚約者であるロザミア様は、才媛だと聞いている。お妃教育も終了していて学園にも通う必要が無かったと。
その話をクリス様から聞いていたのでそう伝えると、ロザミア様は寂しそうに言った。
「そうやって王妃様は、私を持ち上げて孤立させたの。本当は、学園で同じ年頃の令嬢や令息達と一緒にやってみたい事があったのに」
「それは、お辛かったですね」
「そうよ!もし私が学園に通っていたら、麻薬なんて蔓延させなかったわ!」
確かにロザミア様なら可能だったかも。
「将来の王妃になると言うのに交流を断つ事に、陛下達は何も言わなかったのですか?」
「ロザミア様は飛び級をして大学に通っておいででした」
エリーゼ様がそう言う。
「まぁ!」
私が思わず声を上げると、ロザミアはまんざらでもない表情で言った。
「これでも、紙の製法で特許を持っているのよ」
紙は貴重品だ。しかし虫に食われたり経年劣化してしまう都度、写本と製本を繰り返す消耗品でもある。学ぶ都度壊れていく本を維持する為、より良い紙が求められている。
耐久性が高く、安価な紙。それは知識を未来へとつなぐ大事なものなのだ。
「良い紙が出来れば、庶民にも学びの場が提供できるようになるわ。そうなれば、貴族の負担は減るし、頭の悪い貴族を駆逐できるの。素晴らしいでしょ?」
(駆逐?)
ロザミア様の言葉に、ヒヤリとする。クリス様と貴族の義務の話をしたばかりだ。
確かに知の独占は良くないし、知を上手く扱えない貴族が居るのも事実だ。しかし、上手く進めないと国が崩壊する。それが教養の問題だった筈だ。
沈みかけた国でそんな事を言い出せば、本当に民衆からクーデターが起こってしまう。……貴族の望むクーデターとは内容も規模も全く違う。もっと暴力的で血なまぐさい何か。領民の事を考えている貴族ですら知の出し惜しみが原因で、仕事をしていない貴族と同等に糾弾されかねない。
もしそれが今起こったら、暮らしどころか命すら危うい。
上手く返事の出来ない私に、ロザミア様は挑むように言った。
「この際だから、国の体制を変えればいいのよ」
……ロザミア様の御父上を王太子にしない理由が、ようやくわかった。
飛び抜けて頭の良い令嬢が、反逆罪に問われてもおかしくない思想を持っている。これのせいで公爵閣下の立太子は見送られていたのだ。




