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49日目:学校祭一日目〜ご注文はメイドですか?〜(後編)

学校祭一日目、完結。

「お疲れ様でした、先輩」

「ありがとぉ」


 体育館の更衣室で、学校指定のジャージに着替えた先輩を出迎える。


 ジャージ姿でも可愛いなんて凄いな。胸元がパツパツで、チャックが弾け飛ぶんじゃないかと心配になる。


「あの、とってもカッコよかったです!」


 考えに考えた結果、率直な感想を伝えることにした。泣いたことは内緒にしておこう。もしかしたら、バレているかもしれないけど。


「あはぁ。そう言ってもらえると嬉しいよぉ」

「これからも、先輩のことを見続けますから」

「よろしくぅ」


 少し疲れているのか、赤らんだ顔でへにゃり、と笑う先輩。


 残りのグループの演奏を見るつもりはないので、先輩と一緒に体育館を出る。


 あとは特にすることもないので、一緒にクラスの演し物を見て回るくらいだろうか。


「先輩、少し休憩しませんか」

「ホテルで?」

「ご休憩じゃないです。私のクラスで、珈琲でも飲みませんかって意味です」

「なるほどねぇ。じゃあ、君がメイドさんやってね?」

「お任せください」


 これで当初の目標を達成できる。


 さっきからずっとメイド服を着てはいるけれど、これで先輩を接客するのが目的だった、はず。


 学祭一日目が終わるまで、残り4時間くらい。


 先輩のお化け屋敷は、明日行こうかな。他に会っておきたい人のいるクラスが皆無というのも悲しいものだ。いや、別に悲しくないけど。


 メイド喫茶の前に到着すると、まさかの待機列ができていた。恐らく、ココさんの宣伝効果だろう。


 その列を綺麗に並べつつ、更に宣伝をしているココさんが、私たちに気づいた。


「おっ。おかえりークグルちゃん。今から先輩をご主人様にする感じだった?」

「そのつもりでしたが、こんなに混んでいると厳しいですね」

「いやいや。ウチのメイドさんなんだから、もっと堂々としなよー」

「えっ」


 列ができているドアとは反対側の、閉めているドアの方を開けるココさん。


「こっちから入ってー、空席が一つあるから。そこに座ってね」

「こんなに混んでいるのに、何故空席が?」

「クグルちゃんと先輩のために、空けておいたんだー」


 主人公にはこれくらいの待遇が必要でしょ、とウィンクをするココさん。


「なんですか、それ」

「観葉植物よりは手出しするけど、私は二人の物語に加わりたいわけじゃないから。名脇役、助演女優賞的な立ち位置でいたいんだー」

「『中心』と書く貴女が、意外なことを言いますね」

「中心に居れば、周りの人達の端っこになれるじゃん」

「……ちょっと難しいです」

「まぁまぁ、私の話は置いといて。早く入りなよー」


 ココさんに急かされ、先輩と一緒に裏から入る。


 こっち側はパーテーションで仕切られていて、メイドが待機したり休憩したりするスペースになっている。


 今は忙しすぎて休んでいるメイドはいない。パーテーションを少しズラして、空いている席に先輩を通す。


「なんかぁ、ずるしたみたいで悪いねぇ」

「そんなことありませんよ、()()()()

「あはぁ。いいねぇそれ」

「お嬢様の方が良いですか?」

「大発見なんだけど、ボクはご主人様の方が好きみたい」

「ふふ、ヒアさんも言ってましたよ」

「うぇっ!? センパイと一緒かぁ」


 先輩は、少し不満そうに唇を尖らせた。可愛い。


 仲良しのはずなのにそこは嫌なのか、と心の中でツッコミながら、珈琲とアップルパイを頼むためにマスターの元へ歩く。


「マスター。大変お忙しいとは思いますが」

「茶戸さん……大丈夫ですよ、珈琲とアップルパイはすぐに出せます……」

「ありがとうございます」


 マスターに頭を下げ、メイド喫茶と化した教室内をぐるりと見渡す。


 普段使っている机を4つ繋げ、白のクロスを敷いたテーブル。椅子は各自が持ち寄ったのでバラバラだが、それが逆に良いらしい。ココさんの言うことだから、きっとそうなのだろう。


 天井やカーテンに飾り付けられた、折り紙を輪っかにして繋ぎ合わせたものが視界に入る。あれ、名前とかあるのだろうか。


 焼き上がるまでまだ時間はあるだろうし、先輩の待つ席へ戻る。


「お待たせしました、ご主人様。焼き上がるまで少々お時間いただきます」

「それじゃあ、料理が揃うまでなんかゲームしようよ。()()()()()

「ゲーム、ですか。メイド喫茶ならではのゲームとかはご用意していませんが」

「えぇー、ないのぉ?」

「メイドと一緒に写真を撮れるサービスはございますが」

「一万円くらいまでなら出すよぉ」


 右手の人差し指を立てる先輩。金銭感覚はヒアさん超えだ。


 というか、その気になればいつでも一緒に写真は撮れるのに、一万円は出しすぎだろう。


「いえ、料理を注文したご主人様は無料となります」

「それはすごいねぇ。じゃあ早速」

「今、用意をしますね」

「その必要はないよぉ。ボクが撮るから」


 先輩は右腕で私を抱き寄せ、頬がくっ付く手前まで接近した。


 そして、左手に持ったスマホで撮影。自撮り慣れしてる系女子だ。流石は先輩。


「自撮り、上手ですね」

「まぁ、趣味が趣味だからねぇ」


 なるほど。コスプレをして自撮りをしているわけか。


 今度、見せてくれたりしないかな。それとも、個人的な趣味だから見せてはくれないのかな。


 でも、私はメイド姿を見せたわけだし、先輩だってコスプレを私に見せるべき……ではないな。落ち着こう。


「せんぱ……ご主人様、私のメイド姿はどうですか?」

「そうだね、可愛いが過ぎるね。百点満点中百京点って感じかな。ありえん良さみが深い、尊い。萌え」

「ご主人様の語彙力って、そんなに悲惨でしたっけ」


 ネットミームに汚染されすぎではないだろうか。良さみが深いって久しぶりに聞いた。


 萌えに代わって尊いがすっかり人権を得ている昨今だけど、メイドさんといえば萌えじゃないだろうか。今でもそうなのかは知らないけど。


「とにかくすっごく可愛いよぉ。キスしたい」

「そういえば、今日のログボがまだでしたね」

「一緒に学祭を回るのがログボなんじゃないのぉ?」

「……ちょっと、パーテーションの裏に行きませんか」

「あはぁ。ご主人様相手に、いけないメイドさんだなぁ」


 ニヤニヤする先輩の手を引いて、パーテーションの裏に入る。


 さっきと同じく、誰も居ない。


 パーテーションで隔てられているだけなので、声や音は聞こえる。けど、そんなことは関係ない。


「良いですか、ご主人様」

「いいよぉ、メイドさん」


 先輩の両肩に手を乗せ、ゆっくりとキスをする。


 パーテーションの向こうに同級生がいるという事実が、妙に興奮を煽る。先輩の言う通り、いけないメイドだ。


「ご、ご主人様……」

「まってぇ、それ以上は我慢できなくなるよ?」


 頬を染めた先輩の発言を受けて、我に返った。


 危ない危ない、教室でキス以上のことなんてできるわけがない。


 ……いやいや、何処であろうとキス以上のことなんてしちゃダメだよ。これじゃあ、まるで私が過激なことをしたがってるみたいじゃないか。


「では、戻りましょうか。そろそろアップルパイも焼けるはずですし」

「はぁい」

「……ご主人様、何故そんなにニヤニヤしてらっしゃるのですか」

「だってぇ、ボクからキスしたいって言ったわけじゃないのに、こんなところでキスしてくれるなんてさぁ」

「素敵なライブのお礼、とでも思っておいてください」

「そういうことにしてあげるね」


 一日目でこれなら、明日はどうなるんだろう。


 でも、明日のログインボーナスは考えてある。


 だって明日は、学祭二日目であるのと同時に、50日目でもあるのだから。

次回、学校祭二日目でしかもログボ50日目。

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