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137日目/138日目:ツーデイズ⑨

バイトがある日はお馴染み、2日セット。

137日目:水曜日


水木(すいもく)ってお互いバイトだから、スキップとかしたら駄目ですかね」

「スキップって、こういうやつぅ?」


 そう言って、私たちしか居ない理科室でスキップをする先輩。


 すっかり伸びた黒髪と、いつもと変わらない大きさの胸がそれはもう揺れに揺れる。恐るべしスキップ。


「それではなくて、飛ばすとか省略するって意味のスキップです」

「わかってるよぉ」

「あ、わかってたんだ」


 じゃあなんの時間だったんだろう。私へのご褒美、それこそログインボーナスだったのだろうか。


「でもさぁ、一応ログインはしてるわけだし。それに、どんな日常でもボクにとっては大切な1日だよ」

「それは私もそうですけど。……って、何度この話をしたかわかりませんね」

「そうだねぇ。でも、同じ話を何度してもいいんだよ」


 それもそうだ。逆に、一度話したことはもう話してはいけない的なルールがあったら、シンプルに厳しい。会話ログは、自分の記憶の中にしか無いのだから。


「というわけで、今日のログボお願いしまぁす」

「はい。代わり映えのしない、いつものキスです」


 お気に入りのお店で、何度でも好きなメニューを注文するように。


 読破した小説を、また最初から読み直すように。


 代わり映えしなくても、既知でも、それを何度でも幸福として享受できるのが私の良いところに違いない。


「ちゅっ」

「んむ」


 この唇の柔らかさも、先輩の睫毛の長さも、いい匂いも、この胸の高鳴りも。


 既に何度も何度も見て体験して知っているのに、まるで初めてのような新鮮さがある。不思議だ。


「……倦怠期って、いつか来るんですかね」

「えっ!? ボクのキス、下手になった!?」

「あ、いえ。そういう話では」

「代わり映えしなさすぎて、あきっ、飽きてっ、飽きちゃった!?」

「ごめんなさい。あまりにも端折りすぎました」

「一から十まで、徹頭徹尾余すとこなく説明して」

「えっと、まずは今日のキスも最高でしたってところから説明しますね」


 慌てふためく先輩と、それを微笑みながら見つめる自分の対比も相変わらずだ。


 少しくらい、本当にもう少しくらいは自分に自信を持ってもらいたいな。と思うのは、流石にワガママ過ぎるかな。


138日目:木曜日


 昼休み。先輩はニケさんとアラさんとご飯を食べるとのことで、今日はフリーだ。


 フリーというのは自由という意味ではなく、なんにも約束が無いぜ、的なニュアンス。いや、誰に対する説明なんだって話だけど。


 ココさんとセイナさんの姿も見当たらないし、今日はソロで食べようかな。別に平気だけど、普段のことを考えると普通に寂しい。


「あれ、今日はフリーなの」

「左々木さん。そういう左々木さんも?」

「うん。今日はココとセイナ、2人だけにしようと思って」

「……なるほど?」


 いや、そんな邪推するようなことは何も無いよ、と言って、左々木さんは私の目の前の席に座った。


「移動しないなら、ウチと一緒に食べよ。良い?」

「はい、もちろん大歓迎です。むしろありがとうございます、1人で食べるのは寂しいなぁと思っていたところでした」

「そっか。ウチもそんな感じ」


 少し意外。なんとなく、左々木さんって群れるのが嫌いな印象があった。


 少なくとも、ココさんとセイナさん以外と親しげなところは、見たことが無い。


 左々木さんは、チョコチップのスティックパンを食べ始めた。前にセイナさんと一緒に食べていたパンだ。


「……ウチと2人なんて、本当に嫌じゃないの」

「えっ。そんなに私、左々木さんに対して距離が出ちゃってますか?」

「いや。そんなことは無いけど」

「良かったです。私、左々木さんとも仲良くしたいので」

「……ウチはさ、ココのことがあまり好きじゃないんだよね」


 なるべく馴れ馴れしくならないように、丁寧かつ繊細に言葉を選んでいた私に、左々木さんは衝撃的な言葉を投げかけてきた。いや、投げつけてきた。


 あまり好きじゃない。これは日本語特有の曖昧さを内包している。あくまで、嫌いではないということか。


 左々木さんはセイナさんとキスをしていたくらいだし、そこの仲の良さは疑う余地も無いだろう。


「あぁごめん、正確に言うと『苦手』かな。食べられなくはないけど、好んでは選ばない食材ってあるでしょ。あの感じ」

「ココさんはセロリってことですか」

「ウチはセロリ好き」


 喩えのチョイスを間違えた。育ってきた環境が違うので、そこは仕方ない。


「どうして苦手なのに、一緒に居るんですか?」

「セイナが、ココのこと好きだから。それだけ」

「好き、って言うのはつまり。えっと」

「ココが恋愛をしないのは知ってるし、セイナ的にもあくまで友だち的なニュアンスだと思うよ」

「そうですか」


 前にセイナさんが私を助けてくれた時に、『好かれる努力も嫌われない努力もしてないのに、どうしてココと仲良くできると思ってるの?』と言っていたことを思い出した。


 ココさんの世界の、登場人物で在りたいんだ。それがセイナさんの望みなのだろう。


「ウチにとっては、別にどうでもいいんだけどね。あんな知りたがりのどこが良いんだか」

「左々木さんは、知られるのが苦手なんですね。だからココさんのことが苦手……ということですか?」

「簡単に言えば、そう。茶戸さんは踏み込んでこないから助かるよ」


 左々木さんとセイナさんがキスしていたことについて、追及したり質問したりしなかったこととか。


 ココさんといつ知り合ったのか、とか。他にも色々あるけれど、確かに私は左々木さんに対して、踏み込んだ質問をしたことは全くと言っていいほど無かったかもしれない。


 左々木さんが、最後の1本になったスティックパンを口に運んだタイミングで、ココさんとセイナさんが教室に戻ってきた。


「あれっ、クグと一緒に食べてたの?」

「うん。アンタ達より話しやすくて良いよ。今度から茶戸さんとお昼食べようかな」

「……ぎっ、んぎぎ」


 油切れの、軋んだ歯車のような音がセイナさんの口から漏れ出す。ちょっと待ってくださいよ、修羅場ですかもしかして。


「冗談。後半は」

「前半は冗談じゃないの!?」

「わかるよー。クグルちゃんは踏み込んでこないから、シオリと相性良さそうだもんねー」

「……だから、そのなんでも見透かしてる感じが」

「ごめんごめん。つい、ね」


 左々木さんの怒りを察知してか、ココさんは足早に自分の席に帰っていった。あと5分もしないでチャイムが鳴る時間だ。


「今日はありがとね、茶戸さん」

「えっ、あっ、はい。こちらこそありがとうございました」


 続いて、パンを食べ終えた左々木さんが席に戻っていく。異音こそ鳴り止んだものの、浮かない顔のセイナさんだけが取り残された。


 左々木さんは自分とは付き合っていなくて、ココさんのことが好きだって言ってたけど。恋愛初心者の私から見ても、セイナさんが本当に好きなのはやっぱり……。


「クグ!」

「は、はい」

「シオリと仲良くしてくれてありがとう!」

「い、いえ? こちらこそ?」

「でも、シオリは……えっと、シオリはセイナのだから……」

「それは、私ではなく左々木さんに言ってあげてください」

「言えないよ、言ったら終わりだもん」

「……?」

「ごめんねっ、セイナも戻るね!」


 キスはするけど、付き合ってはいなくて。好きだけど、それを伝えるわけにはいかない。


 声にならないくらいの声で、親近感……という単語だけが口から漏れ出た。


 今度、掃除の時にでもセイナさんとお話できたら良いな。


 踏み込むつもりは無かったけど、流石にこれら一連の友だちの物語(アナザーストーリー)を無視して自分の人生(メインストーリー)を進められるほど、私はゲーマーを辞めてはいない。

先輩と後輩のことだけわかっていれば良い、そんな話だったハズなのに……!?

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