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134日目:アニメーションは止まらない(後編)

アニメ観て、その流れで……お家デートって良いですね。

『それじゃあサヨナラ、フェニックス君〜!!』

『ケルベロス君も元気でね!!』

『翔んで、ドラゴン!』


 まんなカぐらし。


 それは、多種多様な種族の生物たちが、自らが主役として……真ん中で暮らしていくために、時に争い、時に友情を育み、時になんかよくわからないけどトラブルに巻き込まれるというお話。


 他人に深く踏み込まないように、一歩引いて生きてきた私にとって、『主役として生きる』という目標を掲げている、このもちもちしている可愛い生き物たちがとてつもなく素晴らしく見えた。


「……まさか、フェニックス君は元の世界に戻れないなんて」

「劇場版限定のキャラとはいえ、意外だったよねぇ」

「先輩の副音声、欲しいタイミングで入ってきて楽しかったです」

「ほんとぉ!?」

「はい。先輩の推し、カッパとドラゴンも大活躍でしたね」

「そうなんだよぉ」

「感動しました。これは他の作品も観たくなりますね」


 まさか、これほどストーリーがしっかりしているとは思わなかった。


 キャラクターの可愛さだけで成立するほど、今の世の中は甘くないということなのかもしれない。いや、甘いのは私の認識だけか。


「莎楼はどの子が気に入った?」

「悩みますね……。みんなそれぞれ個性が爆発していたし、もちもちで可愛いし」

「うんうん」

「でも、三つ首全ての意見が違う『ケルベロス』が一番好きかも」

「わかる。莎楼っぽい」

「え、そうですか?」

「うん。ケルベロスは最推しじゃないけど、ボクも好きだよ。取り敢えず、ぬいぐるみとポスターとクリアファイルあるけどいる?」


 そう言いながら、先輩は蓋付きの白い箱を漁り始めた。


 ほとんど何も無い、良く言えば開放感があって悪く言えば殺風景な部屋に、そんなに大量のグッズが隠されていたとは。


「そ、そんなに良いの?」

「うん。一緒に観てくれたし、まんなカを好きになってくれた記念ってことでぇ」

「では、ありがたくいただきます」


 ボールチェーンの付いた、小さなぬいぐるみは鞄に付けたりしようかな。でもなくしたらショックだし、飾っておくべきだろうか。


 なんて、本当に私もケルベロスみたいだ。複数の考えが浮かんでは、まとまらない。


「袋にまとめておくねぇ」

「ありがとう。帰りに忘れずに持っていくね」

「はぁい。さて、この後はどうする?」

「どうしようかな……。何かしたいこととかあります?」

「え、お昼前からしてもいいのぉ?」


 ぐい、っと身を乗り出して、キス寸前くらいまで顔を近付ける先輩。


 もしかして私、食べられる?


「あー、えーっとですね。その、え?」

「お昼前からしてもいいのって訊いてるんだけど」


 圧が凄い。どうしよう、さっきまでの布教しまくり早口オタクの影も形も無い。


 何があっても、どんな生き方を選んでも、自分は主役だと信じて生きるしかない。……って、さっきドラゴンが言ってたっけ。


 全くもってその通りで、今この瞬間も私は主役なんだ。捕食される寸前だとしても。


「おや。先輩ともあろうお方が、まさか時間を気にするとは」

「……!?」

「月が昇るまでは愛し合えないなんて、そんなルールはありませんよ」

「く、莎楼」

「というわけで、本日のログ」


 喋り終わる前に、優しく押し倒された。


 柔らかくて甘い匂いのするベッドに、自分の体がどんどん沈んでいく。


 際限なく落ちていく感覚に襲われながら、それを追いかけるように迫る先輩の顔が、本当に綺麗で。


「……もう。ちゃんと運営からのメッセージは聞いてください」

「あはぁ。ごめんごめん」

「今日のログボは、先輩のお好きにどうぞ」

「イヤな時は言ってね……?」

「またそうやってすぐ不安になる。ちゃんと言うから、安心してください」


 私の頭はひとつしか無いけれど、やっぱりケルベロスと似てるかもしれない。


 敬語が出る口と、タメ語が出る口と、あとは……キスする用の口ってところかな。


―――――――――――――――――――――


「明日、学校ですね」

「そうだねぇ……」

「……いや、そんなしみじみと言われると、なんだか寂しくなっちゃうんですけど」

「寂しいもん。楽しい時間って、どうしてあっという間なんだろ」

「終わりが近づくと寂しくなっちゃうのって、私の役目だったと思うんですけど」

「ボクもそうなの」

「そっか。じゃあ、同じだね」


 窓から見える空が、真っ赤に燃えている。雲を貫く紅蓮の柱が、町を照らしている。


 暗くなるのが早いのも、寂しさの加速の一助となっている気がする。冬になれば、それはより顕著になるだろう。


 明日は学校だし、夕飯前には帰らないと。特に宿題とかは無いけど、シンプルに疲れた。


 いやいや、先輩と過ごす楽しい時間やデートの感想に『疲れた』というワードを加えるのは不本意だけど、でも身体は正直だ。


 我が家に先輩のお母さんが来ていたり、紅葉を見るために結構歩いたり、先輩と愛し合ったり……。色々なことがありまくりの、濃密な3日間だった。


「もう帰っちゃう?」

「そう、ですね。そろそろ帰ります」


 軽く、本当に軽く袖を引っ張る先輩。


 行かないで、行っちゃだめ。って言葉が聞こえる気がする。


 でも先輩は、私を困らせたくないとか考えて口にはしないだろう。困らされたり、振り回されたりするのが本懐なんだけどな。


「……帰る前に、もっかいチューして」

「いいよ」


 そろそろ部屋の灯りを点けた方が良いかな、と思う程度には暗くなった部屋で、オレンジ色のスポットライトが私たちを優しく照らした。


「んっ」

「ちゅ、ん……」


 楽しい時間が矢の如く過ぎ去ってしまうなら、キスの時間くらいは長くても良いだろう。


 いつものような柔らかさと、湿気を帯びた熱がいつまでもある。


 私の袖を引っ張っていた手は、いつの間にか私の腰に回っていた。キスをしたまま、少しだけ抱き寄せる。


 目を閉じたまま、唇と体温が溶け合う感覚に身を任せる。クラクラする、心臓はさっきから嘘みたいに煩い。


「んっ、はっ、はっ……」

「ねぇ、もっかい」

「どこまでが1回カウントなんですかね……」


 これじゃまるで、『いいえ』を選ぶまで進行ができなくなる、親切なキャラクターとの掛け合いみたいだ。


 終わりを告げて、緩くもきつい矛盾のようなハグから抜け出す。


「では、また明日」

「えっ、待ってよぉ。急にドライだよ、賢者モード?」

「賢じっ、いやいや。何を仰いますことやら。私は平素から賢者ですよ」

「どうしてそんなに、しどろもどろなのぉ」


 賢者モードとか賢者タイムって、先輩の口から出て良い類のワードだったっけ?


「とにかく。名残惜しいですが、これ以上くっついてると本気で帰れなくなるので」

「わかった。お見送りする」

「納得してくれて良かったよ、華咲音先輩」

「……それずるい」


 少し顔を赤らめて、唇を尖らせる先輩。可愛い。


 一緒に部屋を出て、玄関を目指す。先輩から貰った、ケルベロスのグッズも忘れない。


 必要以上に広い玄関に到着し、鍵を開けて扉に手をかける。


「それじゃ、また明日ね。先輩」

「うん、また明日。バイバイ、莎楼」


 笑顔で手を振る先輩に、同じく笑顔で手を振り返す。


 上手く笑えているか、自信は無い。けど、少しでも寂しさを感じさせないために微笑み続ける。


 ドアが閉まったタイミングで、手を振るのをやめて振り返る。よし、帰ろう。


「それにしても、毎回お泊まりする度にこんな気持ちになるなら、色々ともたないな……」


 でもきっと、これが人を好きになるってことなんだと思う。


 そうだとしたら、アニメの主役みたいになるのも悪くは無い気がするね。

次回、久しぶり?な平日!学校!

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