131日目:会いたくて逢えたからするキスと恋
無事にテストも終わり、ここからは実質ボーナスステージです。
「終わった……」
物理的にも手応え的にも、3日間に渡って行われた中間テストは終わりを迎えた。
いや、そんなに悲惨な結果にはならないと思うけど、範囲の狭さの割には少し厳しかった。
準備不足というか勉強不足というか、シンプルに先輩と正式に付き合えたことに舞い上がりすぎていたというか、とにかく勉学を疎かにしていた事実を思い知らされた。
「お疲れ様ー、クグルちゃん」
「お疲れ様です、ココさん」
「テスト難しかったねー」
「えっ、ココさん的にも難しかったんですか?」
「うん。でもまー、2月までもう後期期末は無いわけだし、取り敢えず終わってハッピーって気持ちでいた方がいいよー」
「そうですね。今年のビッグイベントは残りひとつですもんね」
少なくとも、私にとっては先輩の誕生日を残すのみとなった。
翌日のクリスマスもビッグイベントとしてカウントしても良いけど、チキンを食べてパジャマを脱ぎ捨てて外に飛び出すことよりも、サンタクロースとエンカウントすることよりも、先輩の生誕を祝うことの方が圧倒的に大切だ。
「先輩の誕生日だね」
「そこでクリスマスだね、と言わないのが流石ですね」
「それくらい、私じゃなくてもわかっちゃう」
「俳句ですか」
「季語が無いけどねー」
そう言って、体を小刻みに震わせながらココさんは笑い出した。え、ツボが意外すぎる。
あまりにも笑っているから、周囲もそれを見てざわつき始めた。私、また何かやっちゃいましたか。
「珍しい! ココがすっごい笑ってる!」
「そ、それも俳句……ふふっ、あはは!」
本当に驚いた様子で近づいてきたセイナさんも、そのあまりのウケっぷりに軽く引き始めた。
「ふー……。そういえば、セイナにあげる……これどうぞ」
「無理に一句詠んでません?」
人の物語を読むのが好きなのは知ってるけど、俳句を詠むのが好きなのは知らなかった。
いや、ただ面白がってるだけか。
落ち着いたけど涙目のココさんが、セイナさんに小さな箱を手渡した。
「もしかして、誕生日覚えててくれたの!?」
「日曜日だったし、テストもあったから遅くなっちゃったけどねー」
「遅くなんてないよ、すっごい嬉しい!」
「お誕生日だったんですね。おめでとうございます」
「ありがとうクグ!」
日曜日、ってことは10日だろうか。
そして、セイナさんと左々木さんが学校を休んだのが金曜日。……繋がった気がする。私の脳細胞がトップギアに入った。
私の誕生日の時も、先輩と一緒に学校をサボったなぁ。懐かしい、遠い昔のことのように思える。
「セイナ、帰ろう」
「あっ、待たせてごめんねシオリ。今行くね」
左々木さんの元へ向かうセイナさんの背中には、『青春』の二文字が見えた。
「……ココさんの誕生日はいつですか?」
「7月2日だよー」
「そうですか。今年は祝いそびれてしまいました」
「別に良いのにー。じゃあ、私たちにはまだ来年もあるから、その時にでもお祝いしてよ」
「はい。覚えておきます」
「因みに、シオリの誕生日は2月10日だからまだだよー」
そんなに一気に覚えられるだろうか。
誰かの誕生日の日に起床したら、目の前とかにそれが表示されれば良いのに。
「ありがとうございます。それでは、また明日」
「また明日ー」
ココさんに別れを告げ、教室を出る。
と同時に、静かに微笑む先輩が視界に入った。先輩を切望するあまり見えた幻覚かと思ったけど、どうやら本物らしい。安心。
「お疲れ様ぁ。早く会いたくて来ちゃったぁ」
「はぁー可愛い。めちゃくちゃ早く会いたかったです、私も。お疲れ様です」
「倒置法かな?」
「なんか、自分が思っているよりも先輩欠乏症が進行していたみたいです」
「ボクも、莎楼欠乏症になってたよぉ」
にへら、と笑って、ちょっとおかしくなっている私の手を握る先輩。
「まぁ、莎楼欠乏症は随分前に罹患していて、完治する見込みはないんだけどねぇ」
「え、そこ掘り下げます?」
「君の、ボク欠乏症はいつから?」
「……いつからだろ。割と早かったと思いますよ、ログボを渡すようになってすぐかも」
元々先輩のことは好ましく思っていたけれど、キスをされてからはすぐに意識するようになった。
恋だと確信を持つまでは時間がかかったけれど、先輩が居ないと寂しくて物足りないって思ったのは、本当にすぐだった。
「そっかぁ。嬉しいなぁ」
本当に嬉しいみたいで、表情がずっと笑顔のままになっている。可愛い。
「そういえば、テストはどうでした?」
「今回はちょっと難しかったかなぁ」
「3年生もですか。私も、今回は範囲の割には苦戦してしまいました」
「勝負はどうなるかなぁ」
「仮に負けても、別に平気ですけどね」
「えー。そこはさぁ、もっと対抗意識を燃やしてよ」
「今から燃やしても手遅れなので」
「それはそうだけどさぁ」
今回のテストの点数勝負、結局勝ったら何が得られるのか、そして負けたらどんな目に合うのかは不明のままだ。
先輩に限って、まさか極悪非道な罰ゲームとかはしないと思うけど。
そんな話をしている間に、気がつけば玄関に到着していた。
いつも通り手を離して、靴を履き替えてまた合流する。この速度、回数を重ねる毎に早くなってる気がする。
「バイトまで時間ありますし、何か食べに行きましょうよ」
「いいよぉ。何がいいかなぁ、莎楼は何食べたい?」
「テストで脳を酷使したので、甘いものが食べたいかな」
「じゃあ、久々にファミレスにしよ?」
「良いですよ」
先輩がファミレスと言ったら、あの店しか無い。ログボが始まった、あの伝説のファミレスのことだ。
そうなると、ハンバーグを昼食にして、食後にパフェという黄金ムーブが鉄板だろうか。ハンバーグだけに。
「ねぇ、莎楼」
「なんですか?」
「んふっ。好きだよ」
太陽よりも眩しくて、宝石よりも輝いていて、パフェよりも甘くて、何よりも大切で嬉しい告白が、なんの前触れもなく贈られてきた。
すごいな、こんなにも幸せの絶頂に居ながらも、その最高値を更新し続けて良いのかな。
付き合うって、お互いが同じ気持ちでいるって、本当にすごいことだ。
「私も、華咲音のこと大好きですよ」
「…………きゅう」
「ふふっ。テストはともかく、この勝負は私の勝ちですね」
「だっ、だって呼び捨ては反則だよぉ!」
「反則ついでに、ここでログボなんてどうですか」
顔を赤くして、狼狽する先輩を見ていたらキスがしたくなってしまった。
学校からは少し離れたけれど、流石に大胆過ぎたか。
前言を撤回しようと口を開いたら、そこに柔らかくてしっとりとした唇が押し付けられた。
「んむっ」
「ちゅー。あはぁ、ボクも反則しちゃった」
「……先輩は基本的にズルいので、いつも反則してますよ」
「えー。そんなことないよぉ」
パフェより先に、パフェより甘いものを食べてしまった。お腹は減ってるけど、胸がいっぱいだ。
もし食べきれなかったら、先輩にあげよう。あーんとかして。
次回!土日を控えた2人は……!?




