126日目/127日目:ツーデイズ⑧
すっかりお馴染みの、2日間まとめです。
126日目:水曜日
テスト前期間だからといって、ログボが休みになるわけではない。
いや、過去にログボ休止をしたことはあるけれど、あんな過ちはもう二度と繰り返さない。
仮に先輩が「今日はログインしない」とか言い出したとしても、壁に押し付けてでも押し倒してでも、私はキスをするだろう。
本日のログインがまだですよ、とかスタミナ満タンになりましたよ、みたいな通知を送ってくるソシャゲみたいに、アピールしまくるだろうな。
そんなことを考えながら階段を上り終え、第二理科準備室に向かう。廊下の窓の横を歩くと、少し冷気を感じる。
第二理科準備室の引き戸を開けると、笑顔の先輩が椅子に座っていた。
「おはよぉ、莎楼」
「おはよう、先輩。ちょっとここ、寒くないですか」
「そうだねぇ。暖房もないし、冬になったら違うところでキスするぅ?」
「そんなところがあったら苦労はしませんよ……」
滅多に使われていない教室とはいえ、一介の生徒が鍵まで預かって占有できているのは奇跡だ。これ以上の贅沢は望めない。
「うーん。じゃあ、ちょっと考えておくねぇ」
「え、なんかアテとかあるんですか」
「うふふぅ。今度は本当の理科室……貰っちゃおうかなって」
「そんなことが可能なんですか!?」
「ボクは王里先生と仲良しだからねぇ」
「王里先生って、理科の先生でしたっけ」
「うん。隣の第一理科準備室を根城にしてる、ボクにここの鍵をくれた先生だよぉ」
ここに閉じ込められた時に、なんだかんだで助けてくれた先生だ。
私は王里先生の授業は受けていないので、どういう人なのかよく知らない。大きめの丸眼鏡をかけていて、ブカブカの白衣を羽織っている女性ってことくらいしか知らない。
「……あの、つかぬことを訊きますが」
「んぅ?」
「な、仲良しって……その。……ごめん、なんでもないです」
あまりにも失礼で、あまりにも無遠慮な言葉を紡ぎそうになったので、発言を中断する。
先輩がどう答えるかなんて、わかっているのに。
「ボクに気をつかうならぁ、もっと早くに気をつかってぇ?」
「ごめんなさい……」
「別に怒ってはいないけどぉ、そんな心配をさせちゃうくらいボクからの愛情って足りてない?」
「いえ、そんなことはないです。仲良しって言葉に引っかかってしまっただけです」
歩道の横に植えてある街路樹の枝が、服に引っかかった時のような。あるいは、魚の小骨が喉に引っかかったような。
そんな些細な違和感さえ、そんな取るに足らない嫉妬のようなものでさえ、口に出さずにはいられなくなってしまった。
独占欲の強い女だと思われてしまっただろうか。
「ふーん。君も嫉妬とかするんだね」
「し、しますよ。常日頃から、それはもう四六時中の年がら年中」
「そ、そんなにぃ?」
「はい。……嫌いになりました?」
「ちゅー」
「んむっ、んちゅ……ぅん……」
返事の代わりに、キスされた。
少し寒いことなんて、全く気にならなくなるくらい熱い。
唇から感じる熱と、いつの間にか私を抱きしめていた腕から伝わる熱が、ゆっくりと浸透していく。
「ぷはっ。ボクがどのくらい君が好きなのか、わかった?」
「わ、わかりまひっ……ました」
「嫉妬はしてもいいよぉ。ボクだってするし」
「はい……。はい?」
「でも、自分の好きな人が、他の人からも大切にされてるって考えるとさ。そんなに悪くないなぁって思えるよ」
「……さすが先輩、先輩なだけはありますね」
呼吸を整え、少しだけ乱れた制服を、軽く手で払って直す。
先輩が鞄を手にしたのを合図に、私も鞄を持って出口へ向かう。
「でも、恋人がいる歴は君と同じだよ?」
「そこは一生同じですよ」
恋も嫉妬も、胸のドキドキも焦燥も、喜びも幸せも興奮も、全部先輩から貰ったものだ。大切にしよう。
妙に頬を赤らめている先輩と一緒に、第二理科準備室を出た。
お互いの教室に向かうまでの、ほんの僅かな時間でさえ手を繋いでいたいと思うのは、やはり私の独占欲が強くなったことの証明だったりするのかな。
127日目:木曜日
「センパイ、土曜日なら暇だから遊びにおいでって言ってたよぉ」
昼休み。いつもの空き教室で、2人で一緒にランチタイム。
いつもより他の生徒が多くて、少し声を大きくしないと聞こえない。ショッピングモール内にあるフードコートみたいだ。
「土曜日、ですか。報告だけして帰る……というのは流石に失礼ですよね」
「やっぱり、テスト前だから別の日にするぅ?」
「でも、正直に言うと……早く伝えたいんですよ」
「わかるぅ。センパイのびっくりする顔、早く見たいよねぇ」
「残念ながら、それは全く想像できませんけど」
ヒアさんって驚いたりするのかな。そして、仮に驚いてもそれを表情に出したりするのかな。
基本的にクールで、たまに静かに微笑むくらいの表情変化しか確認したことが無い。
「じゃあ、土曜日でいいかな?」
「うん。勉強は、今日と明日やります」
「はーい。あ、勉強と言えばさぁ」
「はい?」
「テスト勝負の景品、考えたよぉ」
「現金じゃないやつですよね?」
「当たり前じゃん。あのねぇ、勝った方は負けた方に」
「スーパーの店員さんと客の人妻百合ってお前、それただの見間違いだろ!?」
隣の隣でパンを食べている男子グループが、突然大きい声を出したので大事なところが聞こえなかった。
なんかちょっとそっちも気になるけど、今の私には必要の無い話だ。
「ごめん、聞こえませんでした」
「じゃあ、テスト終わってから教えてあげる」
「えっ、今教えてくれる感じだったのに」
「あはぁ。花火の時のおかえしぃ」
「……怒ってないよって言ってたのに」
「怒ってなかったのは本当だよ?」
「先輩には敵いませんね、本当に」
隣の隣の男子グループに軽く怒りを覚えつつ、そして過去の自分にも腹を立てつつ、テストの終わりを楽しみにしつつ、先輩と楽しいランチを続ける。
「そうそう、先輩に言っておきたいことがあって」
「なっ、なに…………?」
「そんなに怯えないでくださいよ。ヒアさんに会う時のことなんですけど」
「うん」
「絶対に泣かないでくださいね」
「そんな予定はないけど、なんでぇ?」
「私の命が危ないからです」
「わかんないけどぉ、わかった!」
「ありがとうございます」
流石に大袈裟だけど、これくらい用心しておいた方が良いだろう。
私にとっては、義両親へのご挨拶にも等しいイベントだから。
まぁ、先輩の両親に会うことなんて無いだろうけど。
「ごちそうさまぁ。そろそろボクは戻るねぇ」
「はい。では、また明日」
「また明日ぁ」
笑顔の先輩を、軽く手を振りながら笑顔で見送る。
私もそろそろ戻ろう。次の授業は理科室に移動だし。
「で、そのスーパーの店員さんってどんな人だったんだよ」
「美人だったよ。客の方はダウナー系の美人だったわ。店員さんの名札も見たんだけど、なんだったかな……水戸、とか戸田……とにかく、戸って字は入ってたと思う」
そんな男子グループの会話を小耳に挟みつつ、教室を出る。
……スーパーの店員さんで、名前に戸が入っている?
「……まさか、ね」
浮かんだ疑念を振り払い、自分の教室へ向かう。
先輩の決めた景品の話といい、スーパーの店員さんの話といい。どれも結論がわからないままで、モヤモヤする。
早く終わらないかな、テスト。まだ始まってもいないけど。
明けました。今年もよろしくお願いします!




