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番外編:待ちわびた恋ひとつ

先輩目線でお送りします。

「実はねぇ、莎楼と付き合うことになったんだぁ」


 昼休み。ニケとアラとご飯を食べながら、自然に交際報告をしてみた。


「おめでとう、です。随分と遅かったね、ですね」

「あはぁ。そうだねぇ、遠回りに思えるけど、これが最短ルートだったってボクは思ってるよ」

「そういうものかもしれないね、ですね」


 アラは静かに、だけど確実に嬉しそうな笑顔を浮かべている。


 こうやって、一緒に喜んでくれる友だちに恵まれてボクは幸せだなぁ。


「……後輩ちゃんと?」

「うん」


 ニケはアラと違って、困惑というかなんというか、目の前で燃えている家屋を呆然と眺めている……みたいな顔をしてる。


 ボクが莎楼のことを好きなのは知ってるし、付き合うことに衝撃は受けないと思ってたんだけどなぁ。


「おっ、おめでっ……うっ……うぅ……」

「なんで泣いてるのぉ?」

「ニケは、ずっとカサちゃんのことを応援してたんだよ。ですよ」


 ニケはそういうことにニブいと思っていたけど、ちゃんと伝わってたみたいで嬉しい。


 自分のことのように涙するニケを見て、なんだかボクまで泣きそうになってきた。


「あはぁ。ありがとぉ」

「よし、今日の放課後に何か食べにでも行こうぜ! あたしが奢るよ」


 気持ちはありがたいんだけど、というかすごく嬉しいんだけど、今日はまだ莎楼に会ってないから、まずは莎楼に会いたいんだけど……。


 でも、それを言うのは友情の否定みたいでイヤだなぁ。仕方ない、莎楼には後で連絡しよう。


「ニケ。今日からテスト前期間だよ、ですよ。遊ぶのはテストの後にした方が良いんじゃないかな、ですかね」

「うぐっ、それもそうだな……。ごめんカサっち、来週遊ぼう!」

「うん。楽しみにしてるねぇ」


 内心ほっとしてると、アラがボクの顔を見てウインクをした。


 まさか、ボクが莎楼に会いたいのを見透かされていたのかな。それで助け舟を出してくれたのかも。


 親友と恋人を天秤にかける難しさを、初めて感じた。そっか、ニケとアラもこういう気持ちだったのかも。


 この世の全生物の中で莎楼が1番好きだけど、恋人と友だちって『好き』の種類が違うからなぁ。


「そうだ。あの時はよくわかんなかったけど、今度こそダブルデートできるんじゃないか?」

「あの時……あぁ、動物園の時だね。ですね」

「懐かしいなぁ。莎楼にも相談してみるねぇ」

「おう。あ、勿論無理はしなくて良いぜ」

「うん、大丈夫だよぉ」


 莎楼はニケとアラのことを『友だち』って言ってたし、案外ノリノリでダブルデートしてくれるかも。


 相変わらず、ダブルデートの正解がボクにはわからないけどねぇ。


「そろそろお昼休み終わるよ、ですよ」

「次の授業はなんだっけ」

「世界史だねぇ」

「確実に寝るわ」

「次のテスト、赤点だったら許さないからね」

「うっ。が、頑張る……」


 ボクも勉強がんばっちゃおうかな。


 また莎楼と勝負するのも面白いかも。


―――――――――――――――――――――


 放課後。ちゃんと教室の掃除を全うしたボクは、法定速度の範囲内で廊下を駆け抜ける。


 やっと莎楼に会える。なんて、そんなに長い間会ってないわけでもないのにって笑われちゃうかなぁ。


 でも、なんだか2ヶ月以上はお預けをされていた気がする。おかしいな。


 階段を降り終えると、玄関前のベンチに座る莎楼の姿が見えた。可愛い。


「あ、先輩」

「あはぁ。もう気づいたのぉ?」


 そんなにうるさかったかな、ボクの足音。


 笑顔でボクを見つめる、愛しのハニーの元へ慌てて駆け寄る。


 ベンチから立ち上がって微笑むその姿、切り取ってポスターにして飾りたい。


「足音でわかりますよ」

「急いで来たからねぇ。音が大きかったかな」

「いえ、そうではなく。好きな人の足音って、わかりますよ」

「なっ……うっ、好き……」

「そんな、毒でも盛られたみたいなリアクションしなくても……」


 死に至りかねない劇薬、という意味では恋も毒もそう変わらないかもね。莎楼の過剰摂取は危険。我慢は無理だけど。


「と、とにかくぅ。やっと会えたね」

「私だけかもしれないんですけど、なんか2ヶ月くらい会えていなかった気がします」

「奇遇だねぇ、ボクもそう思ってたんだぁ」


 時の流れの早さが違うというか、もしかしたら時空が歪んでいたのかもしれないね。怖い怖い。


「そんな長い空白の間に、交際報告は済ませましたか?」

「うん。ニケとアラには話したよぉ。あとはセンパイに報告すれば終わりかなぁ」

「私も、ヒアさんには自分で話したいかも」

「じゃあ、予定をきいておくねぇ。今度、一緒に行こっか」

「はい。是非」


 一旦別れて、靴を履いてから再会。


 手を繋ごうとしたら、先に莎楼が手を握ってくれた。少し冷たい指が、ボクの指の間に入っていく。


「これからは、もっと寒くなるよね。玄関で待ち合わせするのやめるぅ?」

「どれだけ寒くても、流石に先輩のクラスまで行く勇気は無いよ」

「それもそっかぁ」

「それに、どれだけ冷たくなっても。その、先輩があっためてくれるでしょ……?」

「一生あっためます!!」


 思わず、大きな声を出しちゃった。


 気合が入りすぎてる、コンビニの店員さんみたいだ。見たことないけど、そんなにお弁当のあたために本気の人。


「ふふっ、お願いします」

「じゃあ、早速だけどさ。今日はバイトも休みだし、ボクの家であっためちゃってもいい……かな?」

「手だけじゃ済まなさそう」

「い、イヤだった……?」

「そこはもっと自信を持ってくださいよ、ね?」


 ボクは自信なんて微塵もないけど、付き合ってからはより慎重になった気がするなぁ。


 相思相愛、両想いなんだから少しくらいは。少しくらいは、自信を持っちゃってもいい……よね。頑張ろう。


「あたためますかぁ!」

「お、お願いします!」


 お互い、気合が入りすぎている店員さんとお客さんみたいになっちゃった。


「ぷっ、ふふっ。あははっ!」

「んふっ、あはぁ。おかしいねぇ」

「本当、気合が入りすぎているコンビニの店員さんみたい」

「結婚しよ」

「何段階か会話飛ばしてません?」


 感性が同じなのが嬉しすぎて、思わず求婚してしまった。


 結婚を前提に付き合ってるんだけどね。……いやいや、冷静に考えるとすごいなぁ。


「ごめんごめん、嬉しすぎて結果だけが残っちゃった」

「先輩・クリムゾン……」


 その言葉の意味はよくわからなかったけど、莎楼が楽しそうでよかった。それだけで幸せ。


 そんな楽しいお話をしていると、気がつけばそこは駅だった。本当に過程が飛んでいる気がするね。


「そういえば、テスト前期間に突入したって知ってました?」

「うん。ボクも今日自覚した」

「中間テストとはいえ、今回はちょっとマズイ気がするので……その」


 言いにくそうに、言葉に詰まる莎楼。


 莎楼はいつも言葉を慎重に選んで、少しでもボクが悲しまないようにしてくれる。君になら、何を言われても平気だよって本当は言いたい。


 けど、それは莎楼の優しさを否定するみたいだから、絶対に言わないんだ。


「大丈夫だよぉ、ボクはとってもいい子なんだから」

「……何段階か飛ばしていただき、ありがとうございます」

「あはぁ。1週間くらい余裕だよぉ」

「少し会わなかっただけで、2ヶ月くらい会えてなかったと錯覚する2人なのに……」

「そ、それはまぁそうなんだけどさ。でも大丈夫だよ、なんなら今回も勝負しよっか?」

「勝ったら何が貰えるんですか」

「それはもちろん、げ……現金……?」

「生々しい……!」

「冗談だよぉ、ちゃんと考えておくね!」

「あげる側でも貰う側でも、気を遣わずに済むやつでお願いしますね」

「はぁい」


 お金を渡すのはいいけど、莎楼からもらうなんて絶対にダメだから。真剣に考えよ、勉強の合間にでも。


 ログボをもらってばかりだから、ボクからも何かあげられたらいいんだけど。莎楼の誕生日の時みたいな、何か特別なものを。


「あ、電車が来ましたよ」


 ちょっと考え事をしている間に、電車が到着してた。


 一緒に乗り込むと、今日は座席に余裕があった。莎楼と並んで座れるなんて、ラッキー。


「今日のログボ、いつもは私が渡すはずなのに、今日は先輩があっためてくれるらしいので楽しみです」

「たまには、ボクも何かしてあげたいもん」

「たまには、って……。先輩は、いつも私に色々渡してくれてますよ?」

「えっ、そんなことないと思うけど」

「そんなことあるよ」

「たとえば?」

「……ちょっと、電車の中では言えません」


 照れて頬を赤らめる莎楼。その表情を見るに、冗談やお世辞じゃなさそう。


 本当にわからない。けど、もしボクも莎楼に何かを……そう、ログボみたいに日々を彩る何かを渡せているなら、そうだったら嬉しいなぁ。


 少し揺れる電車の中で、もう冷たくない莎楼の手を握る。


 ボクがあげられるのは、こんな些細なぬくもりだけかもしれないけど、それでも一緒にいてもいいかな。


 待ちわびて、そしていっぱい待たせてしまったこの恋が。


 どうかこれからも、続きますように。

本当に本当にお待たせしました。そんなつもりではなかったサブタイが、別の意味を持ってしまいました。これからまた頑張って2人の物語をお届けしますので、よろしくお願いします。

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