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110日目の夜:食べ歩きデート(デザート編)

先輩目線でお送りします。

 元々そんなに食べる方じゃなくて、ボクがパフェを食べているのを見ながら珈琲を飲むような子だったのに、今日は朝から夜までずっとご飯に付き合ってくれた。


 しかも、太ったこととか気にしてたのに。


 ボクの目に狂いがなければ、莎楼は全然まったくこれっぽっちも太ってなんかいないけど。


「ねぇ、先輩」

「なぁに?」


 莎楼の家に向かう帰り道、秋のちょっと冷たい夜風が吹く中で。


 クールな中にも甘さを感じさせる、チョコミントのような声で話しかけられた。


「本当に、今日はごちそうさまでした」

「いいんだよぉ。いっぱい食べる莎楼が見れて、すっごく嬉しかったし」

「次のデートの時は、私が払いますから」

「それはそれで、なんか申し訳ないなぁ」

「私だってバイトしてるんだし、華咲音先輩は学年がひとつ上なだけなんだから。奢らなくても良いんですよ?」


 ここでまさかの名前呼び。


 不意打ちにやられたせいで、喘ぎ声にも似た声が、喉の奥の手前までやってきた。


 それを必死に飲み込む。そんな声出したら、莎楼にドン引きされちゃうもんね。


「まっ、まぁそうなんだけどね? でも、君にはお金のこととか気にしないでぇ、純粋に楽しんでもらいたいんだよ」

「……確かに、最後のフルコースはドキドキしちゃいました」

「それにさ、ボクはログボをもらってるから。そのお礼ってことでいいでしょ?」


 いつも野良猫が寝ている塀まで来た。もうすぐ莎楼の家が見えてくる。


 チラッと莎楼の顔を見ると、少し照れたような顔をしていた。可愛い。


「別に、対価が欲しくてキスしてるわけじゃないですよ。私だって、その……十分過ぎるくらい、貰ってるよ」

「ふぇっ、はぁっ、んぅ! もぉ!」

「わっビックリした」


 さっきから我慢していた分が、一気に漏れちゃった。


 いつももらってばかりで、ボクは何も返せていないと思っていたけど。そんなことはなかったみたい。


 底が見えないくらい深い箱の中に、お互いの気持ちを入れあっている感覚。

 キャパシティはきっと存在しなくて、あげたり返してもらったりしながら気持ちを伝えあっていくんだろうな。


 あ、でもキャパが存在しないと満たされないってことになっちゃうか。たとえって難しい。


「莎楼ってさぁ、ボクが欲しい言葉ばっかり言ってくれるよね」

「そうですか?」

「うん。優しいなぁって」

「……別に、優しくはないですよ」

「どうしてぇ?」

「だって、きっと喜ぶだろうなって言葉を選んでいるつもりなので。だから全然優しくはないです」

「それを優しいって言うんじゃないのぉ?」

「えっ?」

「えぇ?」


 相手の気持ちを考えながら言葉を紡ぐのって、優しくないとできないことだと思うけど。


 でも、優しい人は自分のことを優しいって言わないだろうし、結果的にそれが莎楼の優しさを裏付けているのかも。


 センパイも、絶対に自分が優しいって認めないしなぁ。


 そんな会話をしているうちに、莎楼の家の前まで来ていた。まだ納得がいってない顔をしている莎楼が、解錠してドアを開ける。


「ただいま」

「おじゃましまぁす」

「おかえり。カサネちゃんも『ただいま』でいいのよ」

「ただいま、お義母さぁん!」


 母娘(おやこ)揃ってボクに「おかえり」って言ってくれるの、本当に嬉しい。


 よく聞く第二の故郷って言葉は、こういう時に使うのが正解なのかな。


「それじゃあ、私の部屋に行きましょうか」

「はぁい」


 お義母さんに手を振って、階段を上る。


 それにしても、甘いログボってどこまでのことを指すのかな。まさか()()()()しても良いって意味じゃないだろうし。え、違うよね。まさかね。


 ドキドキしながら、莎楼の部屋に入る。

 いつ来ても基本的にはドキドキしてるんだけど、今日のそれは桁違い。


「ね、ねぇ莎楼?」

「はい?」

「お風呂とか、シャワーとか先に済ませちゃう?」

「え、後で良くないですか?」

「そう?」

「うん。だって、どうせ今から汚れますし……?」


 プツン、と何かが切れる音がした。


 それでも構わないと、ボクは思ってしまった。


「ボクのせいで付き合えてないのに、いいの?」

「確かに今は恋人ではないですが、私はもう答えを出したので。だから……良いんだよ?」


 可愛すぎる。声色から目配せから、何から何まで徹頭徹尾余すとこなく可愛すぎる。


 両想いだからいいってことなんだね。

 据え膳食わぬ乙女は命短しだから、恋も行為もしていいってことだよね。


「それじゃあ、遠慮なく……いただきまぁす」

「……んっ。んちゅ……」


 そういえば、今日はまだキスをしていなかった。

 だからまずはキス。仮にしていたとしてもするけど。


 今日食べた、どの食べ物よりも美味しい。

 でもそんなこと言ったら確実に引かれるから、言わないよ。


「先輩」

「んぅ?」

「今日は色んなものを食べたけど、先輩が一番……美味しいです」

「はぁーもう可愛い、好き。愛おしい。月が綺麗」

「お、落ち着いてください。語彙力が豊富なように見せかけて貧困ですよ」

「大丈夫、カラダの語彙力は豊富だから」


 なんて、別に経験は豊富じゃないんだけど。


 それは言わなくても、莎楼は知ってることだけどね。


「えっと、久しぶりだから……優しくしてね?」

「あはぁ。ボクは優しくなんかないよ?」

「あっ、それさっきの話で私が言ったやつですよね!?」

「えー、なんのことかなぁ」


 とぼけながら、ゆっくり莎楼を抱きしめる。

 外は少し肌寒かったけど、ここはとっても温かい。


 怒られない程度に、それこそ『優しく』しようっと。


―――――――――――――――――――――


「……ん」


 すっかりお楽しみを堪能して、一緒にお風呂に入ってから寝たのにも関わらず、何故か目が覚めてしまった。


 それにしても、思い出すだけでニヤニヤしちゃう。こんなログボは本当に久しぶりだったけど、次はいつ貰えるのかな。


 隣で眠る莎楼の顔を覗き込んでみた。可愛い。当たり前だけど隙だらけで、あまりに無防備で。


「ちゅーしちゃお」


 ほっぺに軽くチューをして、布団に入り直す。


 ふと窓に目をやると、カーテンの隙間から覗く月がとっても綺麗に見えた。


「ねぇ莎楼、月が綺麗だよ」


 もちろん、起こすつもりはないから小声で囁いておく。


 そんな回りくどい表現をしなくても、ボクは素直に大好きって言えるけどね。

以前怒られてしまったので、肝心のシーンはありません!ごめんなさい!

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやぁ、デレ莎楼、いい [一言] 肝心なシーンはあると良いが、無いのも良い。 結論、良い。 毎回毎回、最高です!
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