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104日目:コドモチック(中編)

遅くなって申し訳ありません。しかも後編じゃなくて中編です。

「というわけでぇ、ナポリタンできたよぉ!」

「ほとんど先輩だけで作れましたね」

「パスタの茹で方、前に莎楼が教えてくれたからねぇ。偉いと思ったら、頭を撫でてもいいよ?」

「キツちゃんの前ではちょっと……」


 キスするよりはハードルが低いけれど、なんとなく恥ずかしい。

 先輩とする行為は、先輩にだけ向けている。だから、第三者に見られるのは好きじゃない。


「ご、ごめんなさい。わたしも手伝えばよかったね」

「謝ることはないけどねぇ。じゃあ、夜は手伝ってもらおうかなぁ。もちろん、莎楼にもね」

「もう夕飯の話ですか。先輩は本当に食べることが好きですね」

「うん。大好き」


 柔和な笑顔を見せる先輩。

 私は先輩が食事をしているのを見るのが好きなので、食べることが好きな人が好き……ということになるから、結果的に先輩が食べるのが好きな人で良かった。


 うん。ちょっと訳がわからなくなった。変なことを考える前に、ナポリタンを食べよう。


 フォークでクルクルと巻いて、口に運ぶ。


「……うん、すっごく美味しいです!」

「ほんとぉ!? よかったぁ」

「ソースはケチャップだけではなく、バターも入ってるんですね。一口大に切ってあるベーコンの旨味も出ていて、とても良いです」

「えへへ。褒めすぎじゃない?」

「すっごくおいしい、です!」

「タイラちゃんのお口にも合ったみたいで、よかったぁ」


 先輩の料理の腕がどんどん上達している。文武両道で多才な先輩が、しっかり努力と研鑽をすれば上達するのはわかりきっていたけど。


 先輩は才能や努力を褒められても、あまり喜んだりはしない。でも、それらも先輩の一部なんだって認めてくれたら、私は嬉しい。


「ごちそうさまです」

「ごちそうさまでした。あ……わたし、お皿洗います、よ」

「いいよぉ、ゆっくりしてて。センパイの家だと思ってさ」

「ヒアちゃんの家だと、やっぱりわたしはお皿を洗ってるけど……」

「センパイもちゃんとやりなよって言っておくぅ?」

「えっ、えっと、わたしがやりたくてやってるから」


 私が小学生の頃は、お皿を洗いたいという願望も感情も一切無かったな。


 夏休みの宿題で、仕方なくお手伝いをした記憶ならあるけど。今思えば、そのおかげで先輩が遊びに来る前の掃除や、料理が上手になったのかもしれない。


 キツちゃんと先輩が皿を洗うためにキッチンに入ったので、取り残された私はテーブルを拭くことにした。


 まだまだ陽は高く、夕飯までは随分と時間がある。

 ここから何をして過ごすのかな。そしてキツちゃんは普段、何をして過ごしているのかな。訊いてみよう。


「キツちゃんは、普段は何をしてるんですか?」

「え、えっと……掃除洗濯とか、あとお勉強もしてるよ」

「そういえば、Ventiでも勉強してましたよね」

「うん。学校に行かなくてもいいけど、勉強はしなよってヒアちゃんに言われて」


 キツちゃんは不登校なのか。知らなかった。


 ヒアさんの叔父さんに引き取られて、今はヒアさんの家で暮らしている。ということくらいしか知らないし、それ以上深入りするつもりも無い。


 そもそも、何年生なのかも知らない。

 あと他に知っているのは名前と、当たり前だけど見た目くらい。随分と細い体に、前髪はギリギリ目が隠れないくらいの長さで、後ろの髪は背中の真ん中くらいまである。


「……あの、どうしたの。そんなに見られると緊張しちゃう、かな」


 フォークを洗うキツちゃんに気づかれた。視線に敏感なタイプなのかもしれない。


「あ、ごめんなさい。改めて見ようと思いまして」

「そ、そうなんだ」

「なぁに、そんなにタイラちゃんのことを見つめちゃってぇ」

「気にしないでよ。お皿は洗い終わったんですか?」

「うん。タイラちゃんが手伝ってくれたからすぐ終わったよぉ。莎楼はテーブル拭いてくれてありがとぉ」

「あ、いえ。そういえば、夕飯まではどう過ごすんですか?」


 ちゃんと私のことを見ていてくれたこと、そしてそれを感謝してくれることが嬉しすぎる。そういうところも好き。


 慌てて、照れ隠し的に今日の予定を訊ねてしまったけれど、大丈夫だったかな。


「うーん。タイラちゃんがお勉強するなら邪魔しないつもりだけど、違うなら遊びに行きたいなぁ」

「わたしのことは気にしないで。2人でデ、デートとかしてね」

「先輩がキツちゃんのことを放っておくわけ、ないじゃないですか」

「そ、そうなの……?」

「さすが莎楼、わかってるねぇ。というわけで、3人で遊びに行くよ!」


 この強引で有無を言わせずに引っ張る感じ、なんだか懐かしい。キツちゃんに、数ヶ月前の自分を重ねて見てしまう。


 ところで、何処に遊びに行くのだろう。ここら辺だと、カラオケとゲーセンくらいしか遊べる場所って無いし。


 遊びの定義と内容にもよるけど、後はそこに公園を追加しても良いかもしれない。


「何処に行くんですか?」

「ゲーセン! 何故ならぁ、センパイはゲーセンに連れていかないはずだから!」

「よくわかったね、カサちゃん」

「センパイはうるさいのが苦手だからねぇ。3人で写真撮ったり、莎楼にぬいぐるみを取ってもらったりしよ」

「と、突然の他力本願……!」


 キツちゃんが欲しいと思うぬいぐるみがあれば、もちろん全力で取るけども。


―――――――――――――――――――――


「というわけで、いつものゲーセンに到着ぅ!」

「いつもの、と言うほどの頻度で来てませんけどね」

「あ、そうなんだ」

「早速、写真撮っちゃお!」


 初デートで来た場所だから、頻度は少なくても思い出は多い。あの時撮った写真は、今でも私のスマホの待ち受け画面として大活躍している。


 3人でプリ機に入り、何度やっても慣れない指示に従う。3人で撮るのは初めてだけど、案外狭くない。


「わたし、上手にできてたかな……?」

「あはぁ。ちゃんと可愛く撮れてるよぉ。はい、これタイラちゃんの分」

「あ、ありがとう」

「センパイにも見せてあげてねぇ。絶対喜ぶから」

「うん。ヒアちゃんに自慢するね」


 まるで宝物みたいに、印刷されたプリントシールを大事そうに抱えるキツちゃん。その笑顔を見て、思わずこちらも微笑んでしまう。


 ヒアさんはゲーセンが苦手らしいし、撮ったこととか無いのかな。いつか、キツちゃんと一緒に撮ってもらいたい。なんて、そんなことは私が考えることでも無いんだけど。


 私はココさんと違って、自分の物語を楽しむので精一杯だから。他人の幸せを願ったりはするけれど、それ以上踏み込むのは私の役目じゃない。


「それじゃ、ここからは自由行動にしよっか」

「わたし、色々見てくるね」

「初めてだから、新鮮なんでしょうね」

「それに光と音のにぎやかさで、テーマパークっぽいよねぇ。見るだけで楽しいもん」

「確かに。子どもの頃とか、なんとなく見て回るだけで楽しかった記憶があります」


 クレーンゲームのコーナーに消えていくキツちゃんの背中を目で追いつつ、先輩と一緒にその後を追う。


 何があっても良いように、常に視界にキツちゃんを捉えておく。治安は悪くない店だし、大丈夫だとは思うけど。


 先輩と『まんなカぐらし』のぬいぐるみを探していると、キツちゃんが先にまんなカぐらしのクレーンゲームを見つけていた。好きなのかな。


「タイラちゃんも好きなのぉ?」

「えっ、わっ、うん。家事の合間とかに観てるんだ」

「小学生の発言とは思えないねぇ。因みにどの子が好き?」

「『ドラゴン』と『らいおん』かな。本当は猫なのに、自分のことをライオンだと思い込んでるところとか好き」

「いい趣味してるねぇ。じゃあ、あとは任せたよ莎楼」

「やっぱり他力本願なんですね」

「適材適所って言ってほしいなぁ」


 本当は猫らしい『らいおん』を取るために、500円玉を投入する。


 キツちゃんはアームが縦横に移動するのも、ゆっくり下りてくるのも食い入るように見つめている。動きに合わせて自分の首も動いているところとか、可愛らしい。


「クグルさん、取れそう?」

「取れるよ。取ると決めたので」

「か、かっこいい……!」

「そう。莎楼は可愛いだけじゃなくて、かっこいい一面もあるんだよぉ」


 嬉しい言葉が聞こえてきたけれど、普通に気が散る。集中力が散漫となり、誤操作しかねない。


 6回動かした結果、『らいおん』はまだ私たちに微笑んでくれそうにはない。今や降伏のポーズよろしく、手足を上に向けて青天井となっている。百獣の王の威厳も何もあったものじゃないけれど、そもそも猫なんだっけ。


「もう500円、いってみます」


 残機が6に復活したところで、アームを微調整する。


 後ろ足に引っ掛けて、傾けながら少しずつ移動させる。掴んで持ち上げるだけのパワーはあるので、確実に出口にさえ近づければ良い。勝利の時は近い。


「ラスト……!」


 何故猫なのにたてがみがあるのかは不明だけど、その立派なたてがみから真っ逆さまに落下した。ようこそ。


「わぁっ、すごいねクグルさん!」

「はい、どうぞ」

「えっ、もらってもいいの……?」

「可愛がってあげてください」

「……うん!」


 無事にらいおんをお迎えできて良かった。こんなに素敵な笑顔を見せてくれるなら、取った甲斐があったというものだ。


 キツちゃんの熱烈なハグによりやや変形したらいおんを横目で見つつ、先輩に視線を移す。ボクも欲しいって言うだろうか。


「先輩も欲しいですか?」

「今日は大丈夫。らいおんは最推しじゃないし」

「そうですか。では、そろそろ帰りましょうか」

「そうだねぇ。あ、夕飯の材料を買ってから帰ろっか。タイラちゃん、何か食べたいものとかあるぅ?」

「な、なんでもいいよ。なんでも食べれるから」

「そっかぁ。じゃあ好きな食べ物は?」

「お、おいしいもの。かな」

「あはぁ。ボクもおいしぃもの好き」


 3人で出口を目指して歩きながら会話する。少し大きい声で。


 やっぱりキツちゃんは遠慮がちというか、強く主張してこない。それはきっと性格というよりは、そう生きていかないといけなった背景があるんだと思う。


「じゃあ、ボクと莎楼が作ったら嬉しい食べ物は?」

「あ。えっと、ヒアちゃんが絶対に作らないって言ってたハンバーグ、とか。食べたい……です」

「よしっ、じゃあハンバーグに決定!」


 細かく質問を変えたことで、無事に夕飯が決まった。


 こういう時に先輩は強引に聞き出したりはしない。

 笑ったり馬鹿にしたり、怒ったりも当然しない。やっぱり子どもを相手にする仕事、向いてそう。


 ゲーセンを出て、スーパーに歩を進める。イチツウまで行かなくても、普通にスーパーはある。


 買い物中に邪魔になるかもしれないし、ぬいぐるみを入れる袋、貰えば良かったかな。でも強く抱きしめているキツちゃんを見ると、これはこれで良いと思えた。

次回、JKとJKとJSでパジャマパーティー!?

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