103日目:あなたにふれて(中編)
レッツクッキング!まるでレシピ!
「というわけで、夕飯はスコップコロッケを作ります」
「いえーい!」
どんどんぱふぱふー、という擬音が先輩の口から飛び出したのを合図に、カメラも回っていないのに料理番組のように調理を始める。
「ところで、スコップコロッケってなぁに?」
「丸めたり揚げたりしないコロッケです。耐熱容器に広げて、そこからすくって食べるんですけど……今回はフライパンで作っちゃいます」
「ボクは何を手伝えばいい?」
「じゃがいもと玉ねぎ、どっちを切りたいですか?」
「うーん、じゃがいも!」
「では、じゃがいもを一口大に切ってください」
「はぁい」
お母さんも食べるので、じゃがいもを気持ち多めに4個使おう。先輩にじゃがいもを手渡して、私は玉ねぎの皮を剥く。
「あ、ピーラー使います?」
「平気ぃ。包丁でむけるよ」
言葉通り、包丁でスルスルと皮を剥いていく先輩。凄い、いつの間にそんなに上手になったんだろう。
元々、野菜を切ったりするのはできていたけど、遥かにレベルが上がっている。
皮を剥いて、芽を取って、一口大にリズム良く切っている。そちらに目を奪われて、玉ねぎはまだそのままの姿だった。
「なぁに、そんなに見つめられたら緊張しちゃうよ」
「えっ、あ、ごめんなさい。手際良いなぁと思いまして」
「あはぁ。いっぱい練習したからねぇ」
「一人暮らしに向けて、ですか?」
「たまには先輩も作ってくださいね、って言ってたじゃん。うどん作ってくれた時に」
「……えっ、あれ聞こえてたんですか」
聞こえていない感じだったのに、というか確実に聞こえていない対応をしていたのに、まさか聞こえていたなんて。いや、冷静に考えてみると、先輩が私の独り言を聞き逃すハズが無かった。
何食わぬ顔でじゃがいもを切り終えた先輩が、今度は玉ねぎをみじん切りする私のことを見つめてきた。仕返しだろうか。
「よし、と。では、じゃがいもを水にさらす間にパン粉を炒っていきましょう」
「はぁい」
先輩の切ってくれたじゃがいもをボウルに入れ、水にさらす。5分ほど経ったら、レンジで加熱しよう。
鍋で茹でて作った方が良いのかもしれないけど、今日はなるべく楽に作りたい。洗い物が多いと、後で先輩と過ごす時間が短くなっちゃうから。
「フライパンにマヨネーズとオリーブオイルを入れて、パン粉がコロッケの衣みたいになるまで炒めます」
「なるほどぉ、これで揚げなくてもサクサク食感が楽しめるってわけだね」
「はい。それに、揚げないから時短だしヘルシーです」
炒め終えたパン粉を皿に移して、そのままこのフライパンにサラダ油を追加する。
「次は何をするのぉ?」
「ひき肉を炒めます。そろそろじゃがいもが頃合だと思うので、耐熱容器に移してレンチンしてもらっても良いですか」
「いいよぉ。何分チンするの?」
「ラップをゆるめにかけて、3分くらいで」
「3分……っと。終わったらボクがつぶしてもいい?」
「うん、お願いするね」
ひき肉に火が通り、色が変わったところでみじん切りにした玉ねぎを加える。塩コショウで味を整えながら、玉ねぎが透き通るまで炒め続ける。焦がしそうな気がしてきたので、火を弱めよう。
チン、とレンジが業務終了の合図を出したので、先輩はじゃがいもを取り出した。
「どうぞ、じゃがいもを潰すやつです」
「わぁ、じゃがいもをつぶすやつだぁ!」
正式名称がわからないけど、じゃがいもを潰すやつを先輩に手渡す。なんだか目を輝かせているけど、憧れのアイテムだったのかな。
先輩は、子どもみたいに楽しみながらじゃがいもを潰している。人参を切る時の感触が好きな私と、もしかしたら仲間かもしれない。
「潰したじゃがいもに、このたねを入れて混ぜます」
「まぜまぜ」
「混ざったら、このフライパンに平になるように広げちゃってください」
私たちを除くと、今日一番働いてくれたであろうフライパンにたねを広げる。先輩が均一になるように綺麗に均してくれたところで、最後にパン粉をかけて完成。
「できました。ソースは食べる時にかけましょうか」
「わぁ、これもう実質コロッケだねぇ」
「食べたらわかるけど、本当にこれコロッケだよ」
先輩に鍋敷きを持ってもらい、フライパンをリビングのテーブルに運ぶ。そろそろお母さんが帰ってくるだろうし、3人分の箸とスコップコロッケをすくうためのスプーンも用意しておこう。
「あ、お義母さん帰ってきたんじゃない?」
「え、全然わからないけど」
先輩がそう言った数秒後、解錠音が聞こえた。そして、疲れた表情のお母さんがリビングに入ってきた。
「「おかえり」」
「ただいま。夕飯作ってくれたのね」
「うん。ボクも手伝ったんだよぉ」
「可愛い2人の娘がご飯を作ってくれたってわけね。最高」
ややキャラ崩壊している気もするけど、疲れているっぽいしこんなものだろうか。可愛い娘と言われて悪い気はしないし。
お母さんが着替えるためにリビングを出たので、今のうちにご飯をよそっておこう。
「先輩、ご飯はどのくらい食べます?」
「莎楼よりちょっと多いくらい食べるぅ」
「はーい」
夕飯の準備が全て整ったところで、部屋着に着替えたお母さんが戻ってきた。
「それでは、いただきます」
「いただきまぁす」
「いただきます」
それぞれがスプーンでスコップコロッケをすくい取り、最近買った和風とんかつソースをお好みでかけてから食べる。
先輩が食べるまで、私は口に運ばずに見守る。そういえば味見をしていないけど、大丈夫かな。
「……うん、すっごくおいしぃ! パン粉がマヨネーズ味なのもいいねぇ」
「良かった。お口に合って何よりです」
「うん、美味しい。じゃがいもの潰れ具合も絶妙」
「つぶしたのはボクだよ、お義母さん!」
「あら。じゃあカサネちゃんの腕前も上がったってことね」
「あはぁ。莎楼だけじゃなくて、自分でも料理をできるようになりたいんだぁ」
「何、同棲でもするの?」
口からじゃがいもが吹き出るところだった。必死に堪えたけど、パン粉が予定外の酸素と一緒に喉にダイレクトアタックを仕掛けてきた。
「がっ、ごほっ、ごほ!」
「だ、大丈夫ぅ?」
「何をそんなに慌ててるの、同棲くらいいつかはするでしょ。そう遠くない未来に」
「ごほっ……まぁ、そんな未来が来たら良いなとは思ってるよ」
その時は、私たちは何歳になっているのかな。不行を出ていく時は来るのかな。なんて、たまに寝る前とかに考えてはいる。
むせたりもしたけど、和気あいあいとしたまま晩餐会は終わった。
いつかこうやって、先輩の母親とも分かり合える日が来たりはしないだろうか。それはきっと、同棲する未来よりも有り得ないものなのかもしれないけど。
「皿は私が洗っておくから、2人はお風呂に入っておいで」
「え、良いの?」
「さっきお風呂を沸かしておいたから、先にどうぞ」
「ありがとぉ、お義母さん」
「どういたしまして」
お母さんに甘えて、お風呂に入っちゃおう。後で楽するために洗い物が少なくなるようにしたのに、もっと楽になった。
「お風呂……ってさ、一緒に入ってもいいのぉ?」
「なんですか、今更。何度も一緒に入ってるじゃないですか」
「いや、そうなんだけどね。こう……お互いの気持ちを確認した状態で入るのはさ、なんか緊張するというか……」
「……え、なんかそう言われると意識しちゃうんですけど。いや、でも今まで通りで大丈夫ですよ、うん。入ろうよ一緒に」
「じゃあ、入るね」
そうか。先輩はともかく、私も先輩のことを恋愛対象として見ていることが確定したから、それを意識してお風呂に入るのはなんとなく恥ずかしいのか。
わからなくはないけど、今までも一緒に入っていたし大丈夫だろう。うん、大丈夫だよ。
大丈夫という言葉を心の中で繰り返しているのに、心臓が大丈夫じゃないって返事の代わりに脈を打っている。
付き合ってもいないのに、友だちだからと嘯いて一緒に入浴してきたわけだけど、今までの自分がどれだけ凄いことを平気でやっていたのか思い知った。
もしかして私、また何かやっちゃってました?
料理で長くなったので、お風呂は次回に続きます。




