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92日目:メンテ明け、アプデ後(前編)

テスト最終日。

「終わった……」


 良い意味か悪い意味かはともかく、三日間に渡る期末テストが遂に終わりを迎えた。


 勉強しかしていない、と胸を張って言えるほど頑張ったのは久しぶりかもしれない。


 昼休み無しで終わりなので、お腹が空いた。


「お疲れ様ー、クグルちゃん。今日ってバイト休みだよね?」

「お疲れ様です、ココさん。はい、金曜日はシフト入れてないので」

「お願いがあるんだけどー、ちょっとだけ時間をちょうだい?」

「ちょっとなら良いですよ」


 今日は先輩と一緒に帰ってログボを渡すつもりなので、あまり長くは時間を割けないけど。


「ありがとー。実はね、カテキンに『修学旅行で移動にバスや電車を複数回使うか』を訊かれてさー。正直、そこまで考えてなかったじゃん?」

「そう、ですね。え、早く決めないとダメな感じですか」

「なんかねー、バスや電車にお得に乗れる券とか先に買っておいてくれるんだってさ。だから、早めに知りたいんだって」

「なるほど」


 前に少し調べたけど、バスなら安価に回れるし悪くないかもしれない。時間さえ合えば、まとめて名所を見れるだろうし。


 ただ、現時点で何もまとまっていないから困る。


 ココさんは伏見稲荷大社に行きたいって言ってたし、五十右(いみぎ)さんは金閣寺で左々木(ささき)さんは銀閣寺だっけ。名前が対を成しているからって、そこでまで合わせなくても良いのに。


 というか、金閣寺と銀閣寺は別に近くないんだよね。だからこそ困っている。


「カテキンには月曜日に決めるねーって言っておこっか。そろそろ先輩も待ちくたびれちゃうだろうし」

「お悩みのところに俺、三絛(さんじょう)! 電車とバス、両方乗り放題になるチケットがあるから買うべきだぜ!」


 私とココさんに話しかけてきたのは、女子のトップをココさんとするならば男子のトップとも言うべき存在、三絛(さんじょう)雷人(ライド)君だ。


 確か、声が大きくて乗り物に詳しいキャラだったかな。私は滅多に会話をしないので、あまり詳細は知らない。


 学祭のメイド喫茶で、嬉々として女装をしていたことは覚えているけど。


「そんなにお得なのー?」

「なんせ900円で、ほとんど全てのバスと電車に一日乗り放題だからな!」

「では、それを班員分お願いしましょうか」

「先輩とやらを待たせてるんだろ、俺が茶戸(さど)の班も買うってカテキンに伝えてくるぜ!」

「えっ、でも」

「気にすんな! 俺の班も申請がまだだったからな、ついでだついで!」


 そう言い残して、三絛君はカバンを持って教室を後にした。流石はクラスのトップ、爽やかさと行動力が桁違いだ。


「ライドが代わりに行ってくれたことだし、クグルちゃんは急いで先輩のところに行きなー?」

「ありがとうございます、ココさん」

「こちらこそ、時間取ってくれてありがとー。また来週ね」

「はい、また来週」


 教室を出て、階段を下りて玄関を目指す。


 テスト終わりということもあって、部活やバイトに戻る生徒もいれば、解放感から浮かれて、大声で話す生徒も居る。


 そんな人達の横を通り抜けて玄関に到着すると、ベンチに座ってスマホを見ている先輩がすぐに視界に入った。先輩の周囲だけクリアで、後はノイズにさえ見える。


「先輩、お待たせしました」

莎楼(くぐる)。ううん、そんなに待ってないよぉ」

「そうですか。……あの、テストで頭がいっぱいだったせいで訊き忘れていたんですけど、ライブっていつですか」

「明後日の日曜日だよ。あれっ、もしかしてボク何も説明してなかった?」

「そうですね。日時も場所も知らないです」

「えーっごめんねぇ! 場所は加木(くわえぎ)にあるコンサートホールなんだけど」

「加木!?」


 先輩が私の誕生日を祝って連れて行ってくれた、あの加木。水族館デートをした、車で二時間ほどの距離にあるあの加木だ。


「今回も泊まるんですか」

「いや、今回は日帰りだよぉ」

「それでは、今日はうちに泊まりませんか?」

「いいのぉ!?」

「はい。今日と明日は我が家で過ごして、そのまま加木に行きましょうよ」

「テスト終わったらお泊まりしたいーって思ってたから、すっごく嬉しい!」

「良かった」


 先輩がベンチから立ち上がったのを合図に、それぞれの靴箱に向かう。


 すると、三絛君が靴を履くところに遭遇(エンカウント)した。

 まさか先に玄関に来ているとは……と思ったけど、先輩と話している間に、職員室がある側から降りてきたのかな。


「おっ茶戸! 先輩って吹空枝(ふくうえ)さんのことだったんだな!」

「は、はい。話してるところ、見てたんですか?」

「チラッとな。盗み聞きなんてしてないから安心してくれ!」

「あれぇ。大きい声が聞こえると思ったら、ライドじゃん」

「吹空枝先輩!」

「……どういう関係なんですか?」

「前に声が大きいバイトが入ったって言ったと思うんだけど、それがライドだよ」

「いつもお世話になってます!」

「あはぁ。そんなにお世話してるつもりはないけどねぇ。それじゃ、()()()は莎楼と帰るから」

「お疲れ様です! 茶戸もまた来週な!」

「はい、また来週」


 走り去る三絛君を見送ってから、先輩と手を繋いで玄関を出た。


 三絛君の前だと、先輩は『わたし』なのか。確か、従姉妹のテラコさんの前でもそうだったな。


 基準はわからないけれど、使い分けをしていることはわかった。クラス内ではどうしてるんだろう。


「ライドと同じクラスだったんだねぇ。知らなかったよ」

「滅多に会話することも無いので、話題にも出しませんからね」


 というか、初めて会話したレベルだったかもしれない。三絛君に限らず、男子と話すことなんてほとんど無いし。


「莎楼の家に行く前に、自分の家に色々取りに行くね」

「はい。私は先に帰って、部屋を片付けたりしておきます」

「とか言ってぇ、もう片付けてるんでしょ?」

「ま、まぁ。もう昨日の内にお母さんの許可も得てますけども」

「あはぁ。嬉しいなぁ」


 本当に嬉しそうに、ニコニコしている先輩が可愛くて仕方がない。


 少し冷たい風が、先輩の髪を撫でる。ふわりと揺れる髪から香る匂いに、思わず鼓動が早まる。

 繋いだ手を離して撫でたい気持ちを、必死に抑える。


 駅に着くと、やはり沢山の生徒で賑わっていた。

 テストが終わって、明日から土日休みだから気持ちはわかる。


 でも、この中の誰よりも喜んでいる自信がある。表情に出ないように気を付けているつもりではあるけど、大丈夫かな。


「莎楼」

「何?」

「すっごい可愛い顔してる」

「先輩も、可愛い顔してますよ」


 表情に出ちゃってたかな。

 でも、私の言葉を受けて小刻みに震え出した先輩の方が可愛いに決まってる。


 可愛いなんて言われ慣れているだろうに、こんな可愛い反応をするなんて不思議だ。


「あ、電車来ましたよ」

「う、うん」


 外で先輩を褒めるのは控えよう。

 こんな隙だらけな先輩も、好きだらけな自分も、あまり人に見せたくないから。

テスト期間、頑張ったからお泊まり!

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