9日目:告白(後編)
嘘や秘密って、案外必要が無かったりしますよね。しかし、本当に必要な時もあるので難しい。
「いつから嘘だって思ってたのぉ?」
「ログインボーナス実装の日には、もう」
「それなら早く言ってよぉ」
バレバレなのに恥ずかしいじゃん、と先輩は頬を赤らめて首を横に振る。洗われた後の犬みたいだ。
早く言ってよ、と言われても、その場で指摘するのは流石に無理だった。会話の流れを中断しそうだったし、それこそ嘘ではなかった時に険悪になっては困る。そういった事故を起こさないために、私は人から距離を置いているのだから。
「私的には、嘘でも本当でも構わなかったので」
「そっかぁ、じゃあボクの考えすぎだったんだね」
「先輩なりの予防線だったわけですね」
「うん。女の子だけが好きって言ったら、警戒されちゃうかなぁって思って」
それはそうか。世間的には同性愛が認知され、理解もされてきたとはいえ、正直に言うのはリスクが高いと判断したのだろう。
仮に先輩が、最初から女性しか好きにならないと言っていたとしても、それを理由に嫌いになったり警戒したりするわけは無かったけど。
「でも、少し安心しました。私がいつまでもはっきりしないでいたら、先輩が超絶イケメンと付き合ったりするんじゃないかって心配していたんです」
「あはぁ。そんなに心配なら、やっぱりボクのこと好きなんじゃない?」
「いや、まぁそりゃ好きですけど……」
「うーん、なんだかボクが恥ずかしくなってきたよぉ」
「なんだかすみません」
抱えていた荷物を全て降ろしたような、そんな開放感が今の私を満たしている。秘密も、訊きたかったことも、全て話すことができた。あとは私次第。
先輩と同じ『好き』だと確信を持って、正式に交際をするだけだ。それが今すぐにできることではないと、自分が一番わかっている。けど、こんな自分のことを好きだと言って、待っていてくれる先輩の気持ちを踏みにじるようなことはできない。
いや、そういう遠慮や気遣いこそが、人を好きになれないという結果を招いているのかもしれない。もう少し、せめて先輩相手には踏み込んでみても良いのかもしれない。今日のように。
「でも、ボクのことを恋愛対象として見れないってことじゃないんだよね?」
「対象も何も、恋愛をしたことがありませんから」
「普通に女は無理、って言われると思ってたからさぁ。緊張したよぉ」
「すみません。前日に言われると緊張しますよね」
「うん。でも、結果的に話して良かったよ」
「お互い、スッキリしましたね」
「んー、まだスッキリし足りないかな」
「まだ他に何か?」
やらしいことだよ、と言われると思っていたら、先輩は無言で私の唇を奪った。今日のログインボーナスはまだだったけど、このタイミングだとは思わなかった。完全に不意打ちだ。
……というか、スッキリするためにはそういうことをする、という発想をした自分が恥ずかしい。これでは、先輩のことを言えない。
「これはログインボーナスじゃないからねぇ」
「じゃあ、なんですか?」
「ボクなりの、精一杯の『好き』って気持ち。君にもわかってほしくて」
「以前から伝わっていますよ」
「まだまだ、足りないかなぁ」
「え、ちょ、待ってくださ」
戸惑う私を他所に、先輩は私のことを強く抱きしめた。痛みを感じる手前くらいの強さだ。大きなぬいぐるみを抱きしめる時と似た感覚。
「伝わった?」
「……だから、前から伝わってますってば」
「えへへ、ごめんねぇ」
「あの、今日のログインボーナスなんですが」
「うん」
「もう少しだけ、こうしていてもいいですか」
「それだと、ボクのログインボーナスにはならないかなぁ」
「そ、それは、その。……その通りですね。バイト終わりで疲れているのも重々承知していますが、えっと」
「ごめんごめん、ちょっとイジワルしたくなっただけ」
もうログインボーナスはいらないかもね、と先輩は私を抱きしめたまま、耳元で囁いた。
無くなっても、先輩との関係まで無くなるわけではない。デートしたり、抱きしめたり、キスしたり。既に私たちは人生に足りない何かを、満たすことができたのかもしれない。
でも。
「運営としては、まだまだログインしていただかないと困ります。アンインストールなんてさせませんよ」
「……それは、どうして?」
「付き合ってもいないのに、毎日キスする理由が無くなっちゃうじゃないですか」
「君は本当に可愛いなぁ」
「可愛くなんてありませんよ」
先輩の腰に手を回し、今度は私から唇を重ねた。卒業式の日に口にする、とか言っていたのが懐かしい。
これから、もうずっとログインボーナスは最低でも口にキスするくらいのものになっていくのだろうか。それこそ私次第でどうとでもなるけど。
先輩は私のことを抱きしめたまま、なんだか幸せそうな顔をしている。自然に笑えるのは、やっぱり羨ましい。
「10日目のログインボーナスは、明日貰えるのかなぁ?」
「先輩さえ良ければ」
「どんなのかなぁ、楽しみだなぁ」
「やらしいこととか、します?」
「する」
即答すぎて怖い。
「先輩? なんか抱く力が強くなってません?」
「いやぁ、遂にこの時が来たかと」
どうしよう。今更、冗談とか言えない。
想定を遥かに上回る先輩の食いつきに、たじろぐ。
「そ、それでは。また明日。時間とか詳細は後でメールします」
「はぁい。またねぇ」
先輩は私から手を離し、笑顔で手を振った。ぎこちなく笑いながら、私も手を振り返す。
どうしよう。恋も知らない私が、そんなことできるのだろうか。
次回、10日目!!やらしいことってなんだ!?




