85日目:班決める
※久々に五十右セイナと左々木シオリが登場します。混乱したらごめんなさい。
「茶戸さんって、いつも理科室の方に何しに行ってるの?」
「えっ、えーっとですね……」
先輩に今日のログボを渡して、教室に戻ってきた私に核心をつく質問をしてきたのは、意外にも左々木さんだった。
夏休みが明けてから、初めて会話したかもしれない。
五十右さんとキスをしているのを目撃してから、なんとなく気まずくて。
「言いにくいことなら良いよ。ココじゃあるまいし、なんでもかんでも知ろうとは思ってない」
「ふふっ」
「何故笑う。……言っておくけど、ウチはココとは違うからね」
「はい。それは承知していますよ」
「なら良いけど」
「おはよー。朝からクグルちゃんと話してるなんて珍しいね、シオリ」
「おはよう、ココ。別に普通のことでしょ」
左々木さんと、教室に入ってきたばかりのココさんが話し始めたところで、チャイムが鳴った。
ココさん、遅刻ギリギリだったのか。思い返してみると、一度も朝の電車で見かけたことが無いかもしれない。
左々木さんもココさんも自分の席に座ったところで、糧近先生が入ってきた。
「お前ら、席に着け。今日は大事な話がある」
「なんですかー?」
「遅刻ギリギリだった奴は静かにしてろ。今月は期末テストがあるが、来月は何があるかわかるか」
「修学旅行、ですか」
率先して先生にレスポンスをするココさんが静かにさせられたので、側近である左々木さんが代わりに発言した。
「その通りだ。修学旅行というものは、修学である前に旅行だ。その意味がわかるな」
あ、そっちなんだ。普通は旅行である前に勉強の場だからって言うものじゃないのか。
あの校長にしてこの担任ありだな。
「全力で旅行を楽しんでもらうために、今日は班決めをしてもらう。人数は五人か六人くらいで、男女を混ぜる必要は別に無い。好きに組め」
教室内がざわつき始める。中学生の時の修学旅行は、男女比が半分になるように班決めしたから意外だ。
「それと、ホテルの部屋割りはまだ未定だ。班決めとは関係無いから、今は気にしないでくれ。それじゃ、話し合いを始めろ」
説明をし終えたらしい先生は、いつものように教卓の横の椅子に座った。
それを合図に、一斉に皆が立ち上がる。仲のいい人を班に加えるために。
私は急いで立ち上がってもどうしようもないから、しばらく静観しよう。
そう思っていたら、斜め向かいの席のココさんが笑顔で歩み寄って来た。
「クグルちゃーん、一緒の班になろうよ」
「良いんですか、私で」
「もっちろん。セイナとシオリも入れて四人だね」
「あと一人か二人、どうするんですか」
「ハカリちゃんにしようかなー。それならクグルちゃんも話しやすいでしょ」
「別に、私に気を遣わなくても良いんですよ?」
「いやー、別にそういうわけじゃないよ」
「そう、ですか……?」
「というわけで、ハカリちゃんを誘いに行ってくるねー」
クラスの中心人物で、誰とでも仲良く分け隔てなく接しているココさんなら、引く手数多というか選び放題だろうに。
例えるなら、はないちもんめで真っ先に選ばれるポジションにして、参加者全員を引っこ抜ける権利を有している……という感じだろうか。
「茶戸さん。ココは皆の人気者だけど、ココは皆が好きなわけじゃない」
いつの間にか私の席の左側に立っていた左々木さんが、小声で私に囁く。
「え、意外とシビアな感じですか」
「……例えば学園が舞台の小説があったとして、全校生徒は概念として存在しているけれど、全員が名前のある登場人物にはならないでしょ」
「それってつまり、ココさんにとって誰も彼もが重要な人物ではないってことですか。まぁ、人間誰しもそんな感じだとは思いますが」
「そうだね。でも、ココがそうだとは誰も思っていない」
自分たちにとって重要な存在である中心という人物が、自分たちのことも重要視してくれていると思い込んでいるのか。
クラスの人気者って、言われてみるとそういうイメージかもしれない。
真ん中に居れば全員の端っこになれる、みたいなことを前にココさんは言っていたけど、なんとなく意味がわかったかも。
左々木さんと話していると、杯さんを誘いに行っていたココさんが戻ってきた。勿論、杯さんを連れて。
私を含めて、ココさんからの誘いを断れる人なんて存在しないんじゃないだろうか。
「よーし。それじゃ、これで五人決まったね。カテキン、こっちは班決まったよ」
「おう。それじゃ、この紙に名前とか書いて提出しろ」
班員の名前や誰が班長になるのか、自由行動の時に何処に行きたいか等を記入するらしい。
「班長はクグルちゃんでしょー」
「えっ、どうして私なんですか」
「セイナも、ココがやるより茶戸さんが班長の方がいいと思う!」
「そうだね。ウチも同意」
「あっ新手のいじめですか」
「違うよー、信頼として受け取ってほしいな。少なくとも、私はセイナとシオリには信用されてないから。ね?」
「方向音痴だし、計画を立てるのが苦手だし」
「そうなんだよ茶戸さん、ココはこういう時に全然頼りにならないんだよっ」
「ふふっ。では、班長を務めさせてもらいますね。杯さんもそれで良いですか?」
「うん。なんだか、楽しい修学旅行になりそうだね」
正直、そこまで楽しみにはしていなかったんだけど、なんだか楽しそうな気がしてきた。
当たり前だけど先輩は居ないし、ログボも無いわけだけど、楽しんでみせる。先輩に楽しかったよって言うために。
―――――――――――――――――――――
「というわけで、この五人で自由行動をすることになりました」
「ココしか知らないなぁ」
放課後。今日も明日もバイトだからあまり長くは一緒に居られないけど、先輩といつものように駅に向かいながら雑談をする。
「あれですよ、杯さんは前にバス停で話した人です」
「あーわかった。思い出したよぉ」
「五十右さんと左々木さんは、ココさんといつも一緒にいるんですけど」
「でも、みんなでプールで遊んだ時にはいなかったよねぇ」
「そうですね。まぁ、私もあまり会話したりしないのでよくわかってないんですけどね」
「君がちゃんと班決めの輪に入れただけで、ボクは嬉しいよ」
「そんな心配されてるんですね、私」
「だってログボ実装前の莎楼はさぁ、全然クラスに馴染めてないって言ってたから」
「……そんなことも言いましたっけね」
「うん。でも、もう心配はなさそうだねぇ。楽しみだね、修学旅行」
「はい。……逆に先輩のことが心配です」
「テスト前に四日も我慢した経験があるから、今回もちゃんと我慢するよ。ボク、とってもいい子だから」
めっちゃくちゃに抱きしめて頭を撫でたい。
修学旅行に行く前に、会えない分のログボを渡そう。それはもう満足してもらえるまで、何度でも唇を重ねよう。
そして、修学旅行から帰ったら真っ先に会いに行こう。絶対にそうしよう。
「テスト前と言えば、期末テストが近づいてきたらデートはお休みでお願いします」
「はぁい。順位が落ちたら許さないからねっ」
「頑張ります」
先輩という沼には完全に落ちちゃっているけど。
それは内緒にしておこう。
陽が傾くのも、気温が下がるのも少し早くなってきた。夏が足早に去っていくことに寂しさを覚えつつ、もう少しでログボが節目を迎えることを再認識する。
そう、もう少しで三桁に突入する。その時に私は、先輩に渡さないといけないログボがある。
完全に秋が来る前に。もしくは、ココさん風に言うならこの物語に飽きが来る前に。
「あ、もう駅に着いちゃったねぇ。それじゃ、また明日ぁ」
「はい、また明日」
日々募り、膨らみ続けるこの想いを。
「……修学旅行に行く前に、言えるかな」
待っててね、華咲音先輩。
次回もバイトの日なのでサラッとやります。




