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84日目:愛を込めて弁当を

いつもより長いので、飲み物とか用意してからお読みください。

 朝の五時。いつもなら寝ている時間だけど、今日の私は台所に立っていた。


「よし、まずは玉子焼きから」


 そこそこ料理は回数をこなしてきたけれど、お弁当を作ったことは無い。


 昔、お母さんが作ってくれたお弁当を思い出しながらの挑戦になる。

 明確なルールは無いけど、今回は冷凍食品は使わないというマイルールを課している。


 卵を割ってお椀に入れ、菜箸でかき混ぜる。ここに、いつも通り醤油と砂糖と少しの塩を入れて、油を入れた玉子焼き専用のフライパンに流し込む。


「……先輩の作った玉子焼き、美味しかったなぁ」


 今日作ってきてくれるお弁当に、入ってたら良いな。

 いや、ご飯系とは限らないか。サンドイッチとかの可能性だってある。


 どんなお弁当だったとしても、たとえ弁当箱にコンビニ弁当の中身を移し替えただけだったとしても、きっと私は笑顔で食べると思う。先輩に限って、そんなことをするハズは無いけども。


 なんて考えながら玉子焼きを完成させて、次はタコさんウィンナーを作る。

 一度も作ったことが無いけれど、これも昔お母さんが作ってくれたお弁当に入ってて感動した記憶がある。


「ウィンナーに切り込みを入れて……わっ、一本取れちゃった」


 意外に苦戦してしまったけど、足を負傷したタコさんも話の種になりそうなので気にせず炒める。


 熱が通ると、自然に足が開いてタコになっていく。軽く胡椒を振って、完成。簡単。


 皿に移して、フライパンの油をキッチンペーパーで軽く拭いてから新たに油を入れる。

 そこに、昨日寝る前に漬けておいた鶏肉を入れる。今日の夕飯の分も揚げておこう。


「あとは、人参を切ろう」


 サッと水で洗って、まな板に置いて包丁を当てる。

 ヘタの部分を切り落として、軽く皮を剥く。そして適当な大きさに切って、細長くしていく。やっぱり人参を切るのは気持ち良い。


 唐揚げの様子を見つつ、その隣に別のフライパンを置いて人参を炒める。カレー粉と、少量の出汁を入れてまた炒める。なんか男子向けのお弁当を作っている気がしてきたけど、気にしないことにしよう。


 女子らしさとか映えを全く感じさせない内容になりつつあるけど、端にプチトマトを入れれば色合いも悪くないハズ。


 人参の方は火を止めて、そのままにしておく。

 唐揚げがそろそろ頃合いになってきたから、菜箸で一つ取り出す。それを皿の上で割って、火の通りを確認する。うん、大丈夫そうだ。残りも全部取っちゃおう。


 全てのおかずを作り終わったところで、二段のお弁当箱の一段に、可愛いお弁当カップを入れる。

 チェック柄、デフォルメされた動物が書いているものを交互に並べて、左からプチトマト、唐揚げ、タコさんウィンナー、人参炒め、玉子焼きを詰めていく。


「あとはご飯。ここからが本番かな」


 気を引き締めて、最後の工程を始める。

 先輩、喜んでくれるかな。


―――――――――――――――――――――


 昼休み。朝の電車で会わなかった先輩から、『お弁当を持って第二理科準備室に来てね』というメールが届いた。

 てっきり寝坊したのかと心配していたけど、杞憂だったようだ。


 お弁当を持って、第二理科準備室に向かう。昼休みに理科室の方向に向かう生徒は皆無なので、ある意味で浮いてしまっている。

 そろそろ、誰かに勘づかれたりしないか心配になる。理科の先生的にも、それはマズイんじゃないかな。


 なんて考えながら、第二理科準備室に到着した。引き戸に手をかけると、簡単に開いた。私が来るまで、鍵はかけておいた方が良いんじゃないかな。


「待ってたよぉ、莎楼」

「朝見かけなかったので、心配したんですよ」

「ごめんごめん。電車の時間に間に合わなくてさぁ」

「えっ、遅刻したの?」

「チャリで来たぁ!」

「ぶっ、ふふ……!」


 右腕を曲げてポーズを取る先輩を見て、思わず笑ってしまった。先輩ってそういうネタも知ってるタイプだったのか。


「え、そんなに面白かったぁ……?」

「個人的にめっちゃツボでした。先輩って自転車持ってたんですね」

「久しぶりに乗ったけどねぇ。やっぱり電車の方がいいね」

「楽ですよね、実際」


 基本的に電車でしか移動しないので、比べようが無いとも言えるけど。

 ヒアさんの運転する車が、個人的には現時点で快適さナンバーワンかな。


「……と。話に花を咲かせすぎましたね。本題に入りましょう」

「そうだねぇ。ボクね、すっごく楽しみにしてたんだよ」

「私もです。はい、お弁当」

「はい、ボクからも」


 私の白い布で包んだ弁当箱と、ピンクの布で包まれた先輩の弁当箱を交換する。


「せーので開けましょうよ」

「いいよぉ。せーのっ」


 布を解いて、同時に弁当箱の蓋を開ける。


「わっ……めっちゃ可愛いですね」


 二段弁当のおかずの方には、左からプチトマト、玉子焼き、ピックの刺さったアスパラベーコン巻き、花の形に切ってある人参、中にキュウリの入ったチクワ、最後にハムで作った花が入っている。


「ご飯の方も見てみてぇ」

「もちろん見ますけど……わっ!」


 蓋を取り外してご飯の方を確認すると、海苔で可愛らしい表情が描かれている小さなおにぎりが三つ、私のことを見つめてきた。可愛い。

 赤らんでいる頬は鮭フレークだろうか。可愛い。


 取り敢えず写真を撮ろう。ブログにもSNSにも載せないけど、後で見返してニヤニヤするために連写しよう。


「そんなに喜んでもらえるなんて、嬉しいよぉ」


 モデルを撮影するカメラマンのようになった私を笑顔で見つつ、先輩もお弁当の蓋を開いた。


「わぁ、ボクの大好きなおかずばっかり!」

「本命はご飯の方です」

「えー、どんなご飯なんだろ……わぁ! まんなカぐらしのドラゴンだ!」

「お好きでしたよね?」

「うんっ、すっごい好き……うわぁ、すごい完成度……尻尾まである……!」


 先輩もスマホを取り出して、連写し始めた。嬉しい。


 お互い、フォルダがパンパンになるまで撮影を続け、満足したところで食べ始めることにした。

 店長がうるさいタイプのラーメン屋だったら、確実に店から追い出されているレベル。


「いただきます」

「いただきまぁす」


 見た目の良さと比例して、味も美味しい。食べたかった玉子焼きも入っているし、可愛いおにぎりも程よい塩気でどんどん進む。


「おいしぃ!」

「先輩のお弁当も、すごく美味しいよ」

「あはぁ。チャリで来た甲斐があったよ」

「それ、関係あります?」


 ひとつひとつ、じっくりゆっくり噛みしめながら食べる。無くならないで欲しいと思いつつ、美味しいと思いつつ。


 先輩はどれを食べても、なんらかの食べ物のCMの依頼が来ちゃいそうなレベルの笑顔を連発している。私だったら、表情筋が筋肉痛を起こしちゃいそう。


「莎楼ってさ、いい顔でご飯食べるよね」

「えっ、それは先輩では」

「自分のことはわからないけど、君もすっごく笑顔だよ?」

「……恥ずかしいんですけど」

「なんでぇ? 好きな人が笑顔でご飯食べるのを見るの、幸せだよ」

「それについては激しく同意です」


 先輩の食事シーンが見たいから、デートではほぼ確実に飲食店に行ってると言っても過言ではない。


「誰の食事を見るのが幸せなのぉ?」

「わかっててそういうこと訊くの?」

「……莎楼が強くなってるぅ」

「今、幸せですよ」

「ボクも、今すごく幸せ」


 少し前の私なら、何かのフラグというか、この幸せが大きな事件の前フリのように感じていたかもしれない。


 でも、一緒に笑いあって、一緒にお互いが作ってきたお弁当を食べて。


 疑いようも無いくらい、幸せだ。


「残りも食べちゃいましょうよ、お昼休み終わっちゃいます」

「そうだねぇ。五時間目の授業、サボってもいいけど」

「ダメですよ。気持ちはわかるけどね」


 このまま片付けて、手を繋いで一緒に学校を抜け出したいけど、先生たちに問題児だと思われているらしいことが発覚したので、しばらくは真面目に振る舞っておかないと。


 あの時は思い当たる節が無いと訝しんだけど、部活にも委員会にも入らず、最近はマシになったとは言え、少し前まではクラスの輪にも入っていなかったから仕方がないのかも。


「じゃあ、週末のデートまで我慢するね」

「はい。そうしてください」


 自然に週末デートすることが決まった。まぁ、お決まりというかお約束みたいなものだけど。


 残りの平日は、キスするログボだけでやり過ごそう。


「ごちそうさまでしたぁ」

「ごちそうさまでした」


 空になった弁当箱を布で包んで、交換する。


「月に一回くらいでいいからさぁ、またお弁当交換やろうよ」

「私は構いませんけど、チャリで来ることにならないようにしてね」

「はぁい」


 休み時間は残り五分。第二理科準備室を出ようとしたら、先輩に手を握られて阻止された。


「どうしました?」

「チューしてないから、したい」

「朝、電車に間に合っていたらできたのに」

「えっ、してくれないのぉ……?」


 手を握ったまま、上目遣いで私と目を合わせる先輩。いくら強くなったと言えど、ここでノーと言える強さは持ち合わせていない。


 手を離さず、先輩を引き寄せて抱きしめる。

 そして、お弁当の味が残っていそうだと思いながらキスをした。軽めの、唇を重ねるだけのキス。


「ログインしたのにキスも無しなんて、そんなダメな運営になった覚えはありませんよ」

「好き……」

「あっ、もうすぐチャイム鳴りますよ。早く戻らないと」

「はぁい」


 もう少し余韻に浸っていたいけど、時計の針が私たちを急かす。全く、時間はいつだって空気を読まない。


 第二理科準備室を出て、先輩に手を振る。


 教室に向かって歩く途中で、手洗い場の鏡に映る自分の顔が視界に入った。


「……この顔じゃ、教室には入れないな」


 教室まであと階段二つ分の距離しかないけれど、なんとかして真顔に戻さないと。


 先輩は、どんな顔で教室に入るんだろう。それを見られないのは、少し残念だ。

次回、多分まとめてお送りします。

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