83日目:結果発表
テストが返ってくる時のドキドキ感。※テスト対決については、77日目をご覧ください。
「それじゃ、夏休み明けテストを返却する。今回はクラス担任が模範解答と合わせて返すことになっているから、わからないことがあれば各教科の先生に訊いてくれ」
糧近先生にしては珍しい長さの言葉と共に、まとめてテストの返却が行われた。
普段は各教科の先生が返却するから、一日で全部揃わなかったりするので助かる。
「それから、各教科の順位と総合順位の書いてある紙も渡すぞ。因みに、総合一位から三位まではうちのクラスにいる」
おかげで平均点が高かったな、と先生が呟く。
クラス単位で点数が高いと、先生的には良かったりするのだろうか。
「名前呼ぶの面倒だから、出席番号順に取りに来い」
「はーい」
男子から順番に席を立って、教壇に向かう。
割とすぐに、私の順番が回ってきた。答案用紙六枚に模範解答用紙が二枚、それと順位の書かれた紙を受け取る。
「茶戸。今回はいつもより頑張ったな」
「えっ、あ、ありがとうございます」
「進路が決まったのか?」
「いえ。目的は決まっていませんが、目標はできた感じです」
いつも無言で淡々とテストとか成績表とか渡すのに、どうして私に話しかけたんだろう。
「そうか。まぁ理由はどうであれ、総合三位おめでとう」
「……えっ、私がですか?」
「やっと茶戸が本気を出したって、各教科の先生も喜んでたぞ」
私はそういう扱いを受けていたのか。別に普段も意図的に手を抜いていたわけではないんだけど。
席に戻ると、ニコニコしながらココさんが話しかけてきた。
「カテキンがあんなに喋るなんて、珍しいねー」
「本当ですよね。自分では知らなかったんですけど、私って問題児として認識されていたっぽいです」
「えー? 真面目なクグルちゃんに限って、それは無いでしょー」
「そう思いたいです。あと、別に私は真面目じゃないですよ。部活も委員会も参加してませんし」
「そこはほら、自由な校風で良かったなーって感謝しておきなよ」
「そうします。……あの、因みにココさんは何位だったか教えてくれますか」
「いいよー。はい」
既に四つ折りにされていた順位の紙を手渡され、丁寧に開く。
国語以外の全教科が満点。もちろん総合一位。国語は満点の人が居たらしく、国語だけは二位と書かれている。
このレベルの人が居る中で、私が三位って何かの間違いじゃないだろうか。
「はい、ありがとうございました」
「クグルちゃんのも見せてよー」
「一緒に見ましょう」
順位の紙を広げて、ココさんと一緒に見る。
国語が満点だったのは、私だった。しかも、いつもは平均点ギリギリの数学が、なんと90点と書かれている。
「すごいじゃん、いつもは真ん中くらいの点数だったよね?」
「そうです。数学の点数が高かったのは、ココさんのおかげですね」
「そんなこと無いと思うけどねー。あとは先輩に勝ってるかどうかだね」
「だから、その話はココさんにしてないんですってば」
なんて、ココさんと雑談に花を咲かせていると、糧近先生が手を二回叩いた。静かにしろ、の合図だ。
「お前ら。夏休み明けテストは終わったが、今月末には前期期末テストがある。そっちも頑張れよ」
それだけ言うと、『残り時間は自習』と黒板に大きく書いて、先生は教壇の横の椅子に座った。なんだか今日はいつもと全然違う様子だったから、椅子に座ってだらだらする姿を見て少し安心した。
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「先輩、テストの結果はどうでした?」
「その感じだと、どうやら君は良い結果だったみたいだねぇ」
放課後。
今日はお互いバイトの日だから、玄関前のベンチに座って、テストの結果を見せ合うことにした。
正確に言うなら、ゲームの勝敗の確認だ。
「鋭いですね」
「あはぁ。ボクの順位はこれぇ」
先輩はそう言って、綺麗に四つ折りにしてある紙を手渡してくれた。
それをゆっくり広げる。遂に結果発表の時だ。
「……一位?」
「うん。アキラも一位だったから同率だけどねぇ」
「兄妹揃って頭が良いんですね。っていやいや、一位って凄いですね!?」
「夏休み明けのテストだから、範囲も難易度もそこまでじゃなかったし。って言うとイヤミに聞こえる?」
「いえ、そんなことはないですよ」
先輩以外の人が言ったら、ちょっと引っかかるかもしれないけど。
先輩は良いことも悪いことも、とにかく正直にストレートに言う傾向がある。だから、変に含みのある表現はしないだろう。
「で、莎楼はどうだったのぉ?」
「えっと……三位です」
「えっ!? この前は、真ん中よりちょっと上くらいだったんだよねぇ?」
「そ、そうです」
「すごいじゃん、本当にすごいよぉ!」
私の人生史上で最も凄い順位で、上がり幅で言えば文句無しで勝ちなんだけど、一位を見せられた後の三位はあまりにも弱い。
でも、まるで自分のことのように喜ぶ先輩を見て、そんなことはどうでも良くなった。
「ありがとうございます。先輩の一位には劣りますが」
「元々の順位も学年も違うし、劣ってなんかないよぉ。それはそれとして、勝負はボクの負けだね」
「なんだかこう、勝ったという感じがしませんが」
「勝ちは勝ちだよぉ。というわけで、ボクに何かしてもらいたいこととかある?」
先輩にしてもらいたいこと、か。
キスとか手を繋ぐとかデートをするとか、お泊まりするとか一緒にお風呂入るとかはわざわざお願いすることでもないし、お互いの料理を食べたこともあるくらいだし、改めて考えると全然思い浮かばない。
……料理か、これは良いアイディアかもしれない。
「先輩、いつもお昼休みは購買のパンを食べてますよね」
「うん。あ、焼きそばパン買ってこい〜みたいなお願い?」
「そんな絶滅危惧種ヤンキーみたいなこと頼みませんよ。えっと、私にお弁当を作ってきてくれませんか」
「ボクが、お弁当を?」
「先輩の作ったご飯、美味しかったから。ダメ?」
「ダメなわけないじゃん。任せてよぉ」
「良かった。いつ作ってきてくれます?」
「早い方がいいよねぇ。明日とか」
「では、明日のログボは私からのお弁当ということで」
「……? 作るのはボクでは……?」
「えっと、お弁当交換ってやってみたくて」
「せっ、青春のやつだ……!」
声と体を震わせて、いつもと少し違う笑顔で私の両手を握りしめる先輩。可愛い。
これなら普段のログボとは違うし、先輩にも自然に頼めるし、何よりめっちゃ青春っぽい。
「では、明日のお弁当を楽しみにバイト頑張りますかね」
「そうだねぇ。あ、その前に今日のログボちょーだい」
「はい、どうぞ」
周囲を見渡して、誰も居ないことを確認してから唇を重ねる。
一息、間を置いてベンチから立ち上がり、靴を履くために玄関で一旦別れる。
そしてまた合流して、いつものように手を繋いで駅を目指す。外はまだ十分明るい。暑さは日中に比べると控えめだけど。
「そういえば、第二理科準備室の鍵ってまだ貰ってないんですか」
「うん。どうしてぇ?」
「……いや、朝キスできないのは困るでしょ」
「急いで返してもらうね!」
「お願いします」
今日の先輩、やけに語尾にエクスクラメーションマークがついてるな。珍しい。
それだけ、私が三位だったこととか、お弁当の交換をすることを喜んでくれているのだろうか。だったら私も嬉しい。
あっという間に駅に着いたので、別れの挨拶を切り出す。
「それでは、明日は寝坊しないでね?」
「莎楼こそ、お弁当を作り忘れたりしないでねぇ」
「ふふっ、お任せください」
先輩に負けないくらいの笑顔で、大きく手を振って別れた。もうすぐ電車が来る。
先輩の喜ぶ顔を思い浮かべると、三位だった喜びとか衝撃とかを忘れちゃうな。
次回、お弁当を交換して食べます。




