74日目:サマープール・ダイバー(中編)
終わらなかったので、プール中編になります。台詞が多めなので、地の文が好きな方はゴメンなさい。
「プール、冷たくって気持ちいいねぇ」
先輩が可愛い。
飛沫を上げる塩素水が、照明の光を受けてキラキラと輝く。
それよりも眩しい先輩の水着姿が、私の目を奪う。
先輩の水着を一緒に買いに行けなかったのは残念だったけど、そんなことは忘れよう。目の前の光景の方が大事だ。
先輩の水着は、黒のフリルビキニ。生地の黒より濃い黒のドットが散りばめられていて、背中でリボンのように結んである。可愛い。
惜しげもなく晒される肌がとにかく綺麗で、何度も見ているハズなのにドキドキが止まらない。
「せ、先輩」
「なぁに?」
「えっと、水着……すごく似合ってます」
「ありがとぉ。莎楼も似合ってるよぉ」
「ありがとうございます」
私が選んだのは、フリルの付いている、白地に黒のドットのワンピース型の水着だ。
個人的にもこれが一番良かったし、先輩の反応も良かったからこれにした。色も先輩と正反対だし、正解だったかな。
「あれで付き合ってないとか、信じられないよな」
「これからの進展に期待だね、ですね」
ニケさんとアラさんが、話しながら近づいてきた。
今日は皆で遊ぶ日だから、私が先輩とばかり話していたらダメだよね。
ニケさんは競泳水着、アラさんはスクール水着を着ている。生で見るのは初めてかもしれない。
うちの学校に水泳の授業は無いから、中学生の頃のだったりするのかな。
「アラはスク水なんだねぇ。中学の時のやつ?」
「うん。ニケと違って、私は身長も胸も成長しなかったからね、ですね」
「あたしはたまにプールで泳いでるから、ちゃんとした競泳水着なんだぜ」
「走りだけじゃなくて、泳ぐのも速いんですか」
「そうだなー。タイムとかはわかんないけど、結構速いと思う」
陸上競技と水泳は別のジャンルだと思うけど、どっちも得意なんて凄い。
野球部がなんとなくサッカーとかバスケもできるのと同じ感覚だろうか。
「あれ、そういえばセンパイとタイラちゃんは?」
「あの2人なら、キッズプールの方で遊んでるよ、ですよ」
そっか、こっちのプールだとキツちゃんは足が付かないのか。
キッズプールの方を見ると、2人でとても楽しそうに水をかけ合っているのが見えた。
やっぱり、複数人で集まっても普段のパートナーと一緒になるんだね。勉強になった。
「お義姉さ……クワエさんも煙草屋先輩の方に行ったみたいだし、4人でなんか対決とかしようぜ」
「4人で、ですか」
ココさんとアキラ先輩を見つけるために周囲を見渡すと、2人は随分と離れたところで腕を組んでいた。
いや、せめてプールには入ろうよ。サブキャラに徹しすぎて、ベテランの監視員みたいになってるよ。
「誰が一番長く潜っていられるか、とかどうよ」
「わかりやすくていいねぇ」
「泳ぐ対決ではないんですね」
「それだとあたしが勝っちゃうだろ?」
全く謙遜せず、かと言って嫌味っぽさも無くはっきりと言い放つニケさん。
陸でも水中でも、ニケさんに運動で勝てないのは事実だ。ゲームなら勝てるかもしれないけど。
「それじゃ、せーので潜ろっかぁ」
「あたしが合図するよ。せーのっ」
4人で一斉に水中に潜る。ゴーグル無しで目を開けられるか心配だったけど、案外なんとかなるものだ。
先輩は目をつぶっていて、長い黒髪が、クラゲみたいにふわふわと広がっている。
少しずつ漏れ出す呼吸の気泡が、水面に向かって昇っていく。人工の光が射し込む水中で、小さな揺れが波になって体を揺らす。
と、考えながら潜ることで気を紛らわせていたけれど、流石にそろそろ限界が近い。
最初に脱落するのは悔しいから、もう少し粘ろう。
そう思ってから少しも経たない内に、アラさんが脱落した。浮上した勢いで、また体が揺れる。
続いて脱落したのは、意外なことにニケさんだった。まさかの先輩と一騎打ち。
水中で薄目を開いて、ニヤリと笑う先輩。
それを見て、思わず気が抜けてしまった。残り僅かな酸素を一気に吐き出してしまう。
「──ぷはっ」
「あはぁ。ボクの勝ちだねぇ」
「まさか、カサっちと後輩ちゃんに負けるとは思わなかったぜ」
「ボクと莎楼は、毎日のように息を止める訓練をしているからねぇ」
「ちょ、ちょっと先輩!?」
「ふふ。そういう関係なんだね、ですね」
「あたしには全くわかんないんだけど……」
「ニケはそれで良いんだよ、ですよ」
卵焼きを作ってあげる関係から、2人で息を止める練習をしている関係にランクアップしてしまった。いや、どっちが上とか下とかわからないけど。
「さて、勝負には勝ったわけだし……賞品は何かもらえるのかなぁ?」
「あたしからは、プール上がりのジュースを進呈しよう」
「それじゃ私は、アイスクリームでも奢ろうかな、ですかね」
「莎楼は?」
「えっ……と」
キスとは言えないし、そもそも勝敗に関係なくキスはするし、無難なアイディアはお2人に先を越されてしまったし。
「……この後、先輩が欲しいと思うものを差し上げます」
「やったぁ。何もらおっかなぁ」
にへら、と緩く笑う先輩。少し前までの私なら身構えてしまいそうだけど、今ではその屈託のない笑顔を素直な気持ちで受け止められる。
体が冷えてきたので、4人で一緒にプールを出る。
すると、先に上がっていたらしいヒアさんがやってきた。キツちゃんとマスターはベンチで休憩している。
「カサ。私たちはもう出ようと思うんだけど、2人はどうするの」
「温泉は入らないのぉ?」
「きーちゃんが、皆に裸を見られたくないって言うから」
「そっかぁ。莎楼、どうする?」
「個人的には温泉にも入っていきたいです」
「ん。じゃあ休憩所で待ってるよ」
「あ、先にお帰りになっても大丈夫ですよ?」
「行きも送ったんだから、帰りも送らせてよ」
そう言って、ヒアさんはベンチの2人と一緒にシャワールームへ向かった。どうしてあんなにカッコイイんだろう。
「あたしたちもシャワー行くか。アラちゃんは温泉どうする?」
「私も入りたいな、です」
「じゃあ、4人で入ろっかぁ」
「そうですね」
そういえば、ココさんとアキラ先輩はどうするのかな。
腕を組む2人を目で探したけど、見当たらない。
もしかして、何も言わずに帰ってしまったのかな。物語を読み終えてしまったのだろうか。
複数人で遊ぶ楽しさと難しさを感じつつ、シャワーを浴びる。
「あ、クグルちゃんもプール終わり?」
見当たらなかったココさんが、シャワーを浴びながら話しかけてきた。不意打ちだ。
「わっ、ココさん。てっきり帰ってしまったのかと」
「流石に、勝手に帰ったりはしないよー。今日もいいものを見れて満足だよ」
「そうですか。楽しんでいただけたなら何よりです」
「厚かましいのは百も承知で言わせてもらうと、読者としてはもっと先の展開を待ってるよー」
「そんなこと、ココさんに言われなくてもわかってます」
バルブを捻り、水圧が強くなったり弱くなったりするシャワーを浴びる。
思っていたよりも冷たくて、変な声が出そうになるのを必死に堪える。
「あ、そういえばココさんとアキラ先輩は温泉入ります?」
「お兄ちゃんはもう温泉に行ったよー。私も入ろうかなーとは思ってるけど」
「そうですか。なら、一緒に行きましょう」
「うん。ありがとうねー、クグルちゃん」
「? どういたしまして……?」
何に感謝されたのかわからないけど、一応は応えておこう。
キュルキュルと音が鳴るバルブを締め、シャワールームを出る。
アキラ先輩以外のメンバーと合流して、休憩所に向かうチームと温泉に入るチームに別れて行動する。
プールに入る前に服を脱いだところに戻り、そこで水着を脱ぐ。
同じ脱衣所から、プールにも温泉にも行けるのがここの良いところだと思う。その気になれば、温泉の後にプールに行くことも可能だし。
そういえば、先輩以外の人とお風呂に入るのは久しぶりだ。中学の修学旅行以来だろうか。
しかし、この中に恥ずかしがったり躊躇うような人は居なかった。
何度見ても見蕩れる先輩の裸に、陸上部ということもあって引き締まった全身のニケさん、私と同じか少し小さい胸で色白なアラさん、先輩よりは小さいけどかなり大きな胸のココさん。全員が堂々としている。
私も急いで脱ぎながら、あることに気がついた。
先輩以外の方の裸を見ても、別にドキドキしていないということに。
普通に『恋愛』をしている人は、好きな人以外の裸でもドキドキしたりするものなのかな。
考えてもわからないけど、つまり私は『女性』が恋愛対象というよりは、『先輩』のことが好きというだけ……なのかな。
「どうしたのぉ?」
「えっ、いや別にその」
「君は、たまに難しい顔をするよねぇ」
「そんな顔してましたか」
「うん。君が考え事をしてる間に、ボク以外は先に温泉に行っちゃったよ?」
「あっ、すみません。行きましょ──」
慌てて振り向いた先に立っていた先輩が、私の唇に優しくキスをした。
誰も居ない、天井に付けられた扇風機の回る音しか聞こえない脱衣場で。優しく、そして軽く。
「ふふ。塩素っぽい味がするねぇ」
「せっ、先輩……!?」
「さ、早くお湯に浸かろ?」
「はい……」
どうしよう、ドキドキが止まらない。
温泉に入る前から顔が真っ赤になっているなんて、皆さんになんて言われるだろう。
屋内プールだから、日焼けしたとも言えないし。
次回、先輩が欲しいものとは……?




