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69日目:函館ロマンス(後編)

函館デート、完結。※いつもより長いです。

 先輩が注文した料理は、全て先輩のお腹に入った。それほど時間もかからなかったように思う。


 トレーやポテトの入っていたマグカップを、食器返却口に置いて店を出る。

 まだ日は真上まで昇っていない。けど、そこそこ気温は高くなってきた。普通に暑い。


「おいしかったねぇ」

「美味しかったですね」

「それじゃ、タクシーに乗って五稜郭に行こっかぁ」

「結構停まってましたよね」


 観光地なので、待機しているタクシーは多い。

 地の利や時間が無い観光客にとって、安価なバスや電車よりも時として重宝する。


「あれ〜、タクシーに乗るの?」

「知り合い?」

「さっき写真を撮ってあげたの」


 タクシーの近くまで来たところで、さっき写真を撮ってくださったお姉さんと、そのお友だちらしき女性が話しかけてきた。


 写真を撮ってくださったお姉さんは、腰までの長さのウェーブがかった黒髪で、声も顔も優しい。


 もう一人の女性は、黒のミディアムボブに青のメッシュが入った髪型で、パンキッシュな服装に左耳にはピアスを二つ着けている。声は少し低い。


「あ、さっきのお姉さん。うん、タクシーに乗って五稜郭に行こうかなぁって」

「ほうほう、お金持ちさんなのかな〜?」

「いえ、普通の高校生です」

「それなら、私たちが五稜郭まで送ってあげるよ〜。良いよね、恋夏(レンカ)ちゃん?」

「うん。ウチらも行こうと思ってたし」

「地元の方なんですか?」

「出身は北海道だけど、函館の人じゃないよ。車で旅する根無し草なの〜」


 車で女二人旅、なんてちょっと羨ましい。

 先輩と手を繋いで、二人に着いていく。旅先で知らない人の車に乗せてもらうのは危険な気もするけど、女性だし油断してしまう。


 もし何かあっても、すぐに先輩だけでも逃げてもらおう。そんな覚悟を決めていると、すぐ近くのコインパーキングに到着した。


 真っ赤な車のドアが開いた。詳しくないからわからないけど、確か高級車だ。

 お二人が乗ったのを確認してから、後部座席に先輩と一緒に乗り込み、ドアを閉める。甘い匂いがする。


「私の名前は赤川(あかがわ)朱音(アカネ)。こっちは旦那の双子の姉の赤川恋夏だよ〜」

「ご結婚なさってるんですね」

「離婚調停中だけどね〜。だから旦那の姉(レンカちゃん)と逃避行してるんだよ」

「あんな奴じゃなくて、ウチにしておけば良かったのに」

「あはは。本当、そうだよね〜」


 何やら複雑な事情があるようだ。旦那さんと不仲でも、その姉とは旅をするほど仲がいいなんて、なんだか不思議だ。


 会ったばかりの人の、家庭の状況に踏み込めるほど私はまだ怖いもの知らずにはなれていない。

 複雑な家庭環境、という意味では先輩にも通ずるところがある。


「アカネさんの方が年上なのぉ?」

「よくぞ訊いてくれたね〜。そう、恋夏ちゃんは私の二つ下の二十歳なんだよ。義理の姉だけど年下なんだ〜」

「もうすぐ義理の姉でも無くなるけどね」

「さっき、『ウチにしておけば良かったのに』って言ってたけど、アカネさんのことが好きなのぉ?」

「グイグイ来るね……。まぁ好きだけど」

「まだ離婚成立してないから、浮気になるのかな〜?」

「ならないよ」


 私が一言も発さないまま、どんどん会話が弾んで車は進む。でも、こういう時に盛り上げてくれる先輩はやっぱり心強い。


「そういう君たちは付き合ってるの〜?」

「どうしてそう思うのぉ?」

「うーん。距離感っていうか表情っていうか、友だちとは違う気がしたんだよね〜」

「あはぁ。()()()()()()だよぉ。ね、莎楼?」

「えっ、あの、その……イジワル」

「ふぇっ、ごめんねぇ!? そんなつもりじゃなかったんだよぉ」


 先輩は半分泣いてるみたいな表情で、ごめんねと繰り返しながら私に抱き着いた。


 これじゃあ、私がイジワルしたみたいじゃないか。いや、別に先輩もイジワルなんてしてないんだろうけど。そう聞こえたのは、私自身に後ろめたいものがあるからだ。


 好きな人に『ただの友だち』、なんて言わせることへの後ろめたさが。


「そろそろ五稜郭に着くよ〜。タワーと公園、どっちが良い?」

「どっちから見ます?」

「公園から行こうかなぁ」


 元気を取り戻したらしい先輩の方を見ると、大きな警察署が視界に入った。


「それじゃ、公園前で降ろすね〜。そこからはご自由にどうぞだよ」

「お二人はこの後どうするんですか?」

「ウチらは逆にタワーから行くよ。で、その後はススキノにでも行こうかな」

「ススキノ……って札幌ですよね。私たち、札幌のホテルに泊まっているんですけど」

「君たちにススキノはまだ早いよ〜」

「わ、わかりました」


 やっぱり、大人になってからまた先輩と一緒に来ないとダメだね。

 その時には、ただの友だちなんて言わせるわけにはいかない。


 五稜郭公園前に到着し、車を降りる。


「ありがとうございました。アカネさん、レンカさん」

「なんもなんも〜。それじゃ、良い旅を〜」

「お二人も、仲良く楽しんで逃げてねぇ」

「ふふっ。うん、そうするね〜」


 走り去る車に私は頭を下げて、先輩は手を振った。あの二人が、無事に逃避行を遂げられることを祈って。


 車が見えなくなったのを合図に先輩と手を繋ぎ、水で満たされた堀の上に掛かる橋を渡る。


「自然が豊かだねぇ」

「春は桜、秋は紅葉を見れるそうですよ」

「ふーん、じゃあ夏は何もないのぉ?」

「緑があるじゃないですか」


 橋を渡り終え、公園に入る。本当に緑が凄い。木が沢山あるし、花も植えられている。


 石垣もかなり残っていて、ここで戦った人達が居たことを改めて感じる。そんなに歴史には詳しくないけど。


「こっちの道と、こっちの木のトンネルみたいな道で分かれてるみたいだよぉ」

「木のトンネルの方にしましょう」


 自転車に乗った人や、散歩中らしい老夫婦と一緒にトンネルを抜ける。

 木と石垣の道を歩いていると、何やら大きな建物が見えてきた。神社とかお寺のような見た目だ。


「なんなのかなぁ、あれ」

「えっと……復元された奉行所のようです」

「なるほどねぇ」


 お土産屋さんらしき店が奉行所の向かいにある。夏だからわからないけど、しだれ桜らしき木もある。


「この先ってなんかあるのぉ?」

「多分ですけど、木と石垣が続いているんだと思いますよ」

「……もうタワーに行かない? ほら、ここからでも見えるよぉ」

「本当だ。それじゃ、行きましょうか」


 さっきの話題じゃないけど、私たちには歴史ある建造物やその跡はまだ早かったみたいだ。

 散歩とかするにはうってつけだと思うけど。


 来た通りの道を歩いて、更にそこから十分ほど他愛ない会話をしながら歩いて、五稜郭タワーに到着した。地味に距離があったから、暑いのも相まって疲れた。

 太陽は真上から私たちを照らしている。


 自動ドアから先は冷房が効いていた。ありがたい。

 お土産やグッズが沢山売られていて、その先にあるエレベーターから最上階に行けるらしい。


「あ、有料なんだねぇ。680円だって」

「ちょっと高いですね。でも、行くよね?」

「もっちろん。そのために来たんだからさぁ」


 エレベーター前の、並ぶところに入る。待ってる人が何人かいるけど、一度に全員乗れそうだ。


「こんにちは。本日はどちらからお越しいただいたのか、アンケートに記入をお願いします」


 道外に丸を付けて、お姉さんに手渡す。ありがとうございます、とお姉さんは頭を下げて用紙を箱に入れた。


「お待たせしました。それでは、エレベーターにお乗りください」


 ぞろぞろと列が動き出し、全員がエレベーターに乗り込んだ。お昼時だから混んでいないというのもあるのかもしれない。先にご飯を済ませて正解だった。


「本日は、五稜郭タワーをご利用いただき誠にありがとうございます。五稜郭タワーは──」


 エレベーターに一緒に搭乗した解説のお姉さん、凄く良い声をしている。声優さんというか名ナレーターというか、とにかく透き通っていて聞き取りやすい声。天職なんじゃないかな。


 なんて考えていると、エレベーターが止まった。どうやらここが展望する階のようだ。お土産屋さんもある。


「うわぁ、見てよあれ! さっきボクたちが歩いてた五稜郭公園があんなに小さく見えるよぉ」

「歩いている時はわからなかったけど、本当に星みたいな形なんですね」

「五稜郭から向こうは街が広がってるんだねぇ。もっと向こうには山が見えるよぉ」

「あ、こっち側の教会も見てください。屋根に文字が書いてますよ」

「十字架の縦にLOVE、横にGODかぁ……上手いことを考えるねぇ。タワー利用者へのメッセージかな?」

「それかシンプルに、神様に見せているのかも」


 じっくりと函館を一望している間に、先輩は何枚か写真を撮っていた。私もスマホで撮影してみたけど、そんなに綺麗には撮れなかった。残念。


「ねぇ莎楼。お願いがあるんだけど」

「良いですよ。一緒に昇ってきた人達も、ほとんど居なくなりましたし」


 エレベーターでも、自分たちの好きなタイミングで階段でも、いつでも下の階に戻れるようになっている。

 それこそ時間的に、みんなお昼ご飯を食べに行ったのかもしれない。


「えっ、まだ内容を言ってないよぉ?」

「えっ、キスじゃないんですか?」

「キスだけど」

「ふふっ、あってるじゃん」


 函館の街をバックに、先輩の顔と、ガラスに反射して映る先輩の背中を見ながらキスをした。


 タワーの下で蟻みたいに小さく見える人たちには、私たちのキスなんて見えちゃいない。

 それでも、もしかすると神様には見られているかもしれない。


 まぁ、私のLOVEは先輩にだけ見えていれば良いんだけどね。

次回、70日目。

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