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65日目:後輩、水着を買う。

タイトルの通りです。

『次は練羽(ねりう)高校前。練羽高校前では、全てのドアが開きます』


 夏休みなのに高校前で降りるのも不思議だな、と思いつつ、定期区間外の壱津羽(いちつう)に行くために、その手前の駅で降りて歩く。


 大した距離じゃないし、雨も降っていないし問題ない。


 今日はお互いバイトの無い金曜日。


 土日を挟んだら月曜日にはもう北海道に旅立つわけだけど、昨日の夜に先輩に突然誘われて、買い物をすることになったというわけだ。


 歩き始めて数分で、不行(いかず)市民の強い味方、スーパーイチツウが見えてきた。


 横断歩道を渡り、店の駐車場を横切る。お昼前ということもあってか、あまり車は停まっていない。


「あ、莎楼(くぐる)ぅ」

「先輩。お待たせしました」

「ボクも今来たところだよぉ。って、一回言ってみたかったんだよねぇ」


 入口付近の自動販売機の横に立っていたのは、右半分が白で左半分がグレーっぽいベージュ色のワンピースを着て、白いストローハットを被る先輩だった。


 いつものことながら、めちゃくちゃ可愛い。ひまわり畑とかに立ってもらいたい。そして微笑んでほしい。


「今日は何を買うんですか?」

「ボクと君の水着だよぉ」

「もう買うんですか」

「早い方がいいじゃん。ほら、入ろぉ」


 先輩の左手を握って、一緒に入店する。歩いて火照った体を歓迎する冷房。一階は食料品売り場だから尚更涼しい。


 衣料品のある三階に行くために、入口から少し歩いたところにあるエスカレーターに乗る。


 エレベーターもあるけど、小さいし混みやすいのでエスカレーターの方が私は好き。しかし、二人で横に並ぶのは迷惑になる可能性があるので、手を繋ぐことはできない。


 そういえば、小学生の頃はなんとなくエスカレーターが怖かった記憶がある。降りるのに失敗したら足が吸い込まれちゃうんじゃないか、とか思っていた気がする。


「三階にとうちゃーく。早速、水着を見に行こぉ」

「はい、そうしましょう」


 手を繋ぎ直して、水着のお店に向かう。三階には色々な服の専門店が並んでいて、その中には水着の専門店も存在する。


 最後に水着を買ったのは何年前だろうか、なんて思いつつ、先輩と一緒に水着専門店に踏み込んだ。


「君は、どんなタイプの水着がいい?」

「えっと、私は水着に疎いのでよくわからないのですが、ビキニは控えていただけたらと」

「じゃあワンピースの方がいいかなぁ」


 ビキニを避けたい理由を特に訊かず、店内を進む先輩の後ろに着いて歩く。本当に先輩は優しいな。


「あ、タンキニとかはどうかなぁ」

「タンキニ?」

「タンクトップ・ビキニの略で、トップがタンクトップとかキャミみたいな水着なんだぁ。これなら露出も少ないし」

「それなら結構良いかもです」

「ボトムがショーパンのタンキニにすれば、露出控えめだけど可愛いと思うなぁ」

「すぐに思いつくのが凄いですね」

「別にすごくないよぉ。バイト中に、君に似合いそうな水着を妄想してたからねぇ」

「ふふっ。バイトに集中してくださいよ」


 バイトをしながら、頭の中で私に水着を着せている先輩のことを想像すると変な気持ちになる。

 仕返しに、私も脳内で先輩を着せ替えて遊ぼうかな。


 なんて、服や水着の知識が乏しい私には高度な遊びなので無理そうだけど。


 そんな私を他所に、先輩は次々と水着を手に取って吟味している。普段はあまり見せることのない真剣な表情に、思わずときめく。


「あー、でもフリルもいいなぁ……。モノキニもありっちゃありかな……いや莎楼にはやっぱりこういう……」


 ブツブツ呟く先輩を見ながら、私もなんとなく手に取りながら見てみる。


 露出度の高いマネキンを見て、こんな風に自信満々に肌を出せる人って本当に凄いなぁとか思ったり、自分に似合うかどうかはさておいて、赤い水玉模様でフリルが付いているビキニが可愛いと思ったりしていると、ハンガーにかかったままの水着を三着持った先輩が私の肩を叩いた。


「3つまで絞ったからぁ、あとは試着して決めてぇ?」

「わぁ、ありがとうございます。では、試着してみますね」


 近くの試着室に入り、服を全て脱いで水着に着替える。服の試着とは違い、一回全て脱がないといけないので緊張する。


 まず最初に、白地に濃い青の水玉が散りばめられているタンキニを着てみる。


 本当に見た目はタンクトップとショーパンを履いているようにしか見えない。胸元もお腹も隠れているし、これなら恥ずかしくないかも。


 カーテンを開けて、ワクワク顔の先輩に見せる。


「どう……ですかね?」

「もちろん可愛い。露出控えめの方が、やっぱり君には合うかもねぇ」

「胸が小さいですからね」

「違うよぉ、それは大した問題じゃなくてさぁ。露出が少ない方が、照れたり恥ずかしがらないで着れるでしょ?」

「そう、ですね」

「普段の服と一緒でさ、着たいものを着るのが一番だとボクは思うよぉ」


 流石、多種多様な服を着る先輩は言うことが違う。私なら、どうしても人の目を気にしてしまう。


 他人からどう見えるか、なんて些末なことなんだと思わされてしまった。恐るべし。


 カーテンを閉めて、次は白地に黒のドットのワンピース型の水着に着替える。

 フリルが付いていて可愛らしい。もちろん露出は控えめだし、私の要望に完全に答えてくれている。


 カーテンを開けて、ニコニコ顔の先輩に見せる。


「これ、凄く好みかもです」

「ボクもすごく好み。買ってください」

「先輩、こういう時によく謎の敬語が出ますよね」

「次で最後だねぇ。早く見せてよぉ」

「はいはい、今着替えますよ」


 カーテンを閉めて、最後の一つを手に取る。……前言を撤回しよう、私の要望を聞き入れていたのは前の2着までだった。私の手に握られた、リボンの付いた黒いビキニには私の意思や要望は微塵も反映されていない。


 正直に言うと着たくないけれど、着るまで先輩は試着室から出してくれない気もするので、仕方なく着ることにした。どうせ先輩には勝てません。


 カーテンを開けて、ニヤニヤ顔の先輩に見せる。

 しかもスマホを構えていた。


「……」


 無言でカーテンを閉めようとしたら、左手で止められた。


「いやぁ、すっごく似合ってるよぉ。もっとよく見せてよぉ」

「嫌です。お断りします」

「い、イヤかぁ……それなら仕方ないねぇ……」


 先輩はしゅん、としてカーテンから手を離した。思い返せば、先輩に『嫌です』って初めて言ったかもしれない。


 いや、確か前にも一度、冗談めいた口調で言ったことがあったはず。あの時も随分と狼狽していた気がする。


 何か先輩にとって、それこそ『嫌』な言葉なんだろう。なるべく言わないようにしよう。


「……元の服に着替えますね」

「うん……」

「えっと、そんな落ち込まないでくださいよ。3着とも全部買いますから」

「えっ!?」

「海もプールも行くなら、違う水着があっても良いじゃないですか」

「黒いビキニは……?」

「……ご想像にお任せします」

「もぉ! 大好き!」

「はいはい、私も大好きですよ」


 今度こそカーテンを閉めて、元の服に着替える。水着は全てハンガーに戻して、カーテンを開けて靴を履く。


 そういえば値段を見ていなかったけど、全部買ったらいくらになるんだろう。水着ってどのくらいの値段が相場なんだろう。


「それじゃあ、黒いビキニはボクからのプレゼントってことで」

「良いんですか?」

「いいも何も、それすごく高いからねぇ。まさか買うとは思わなかったからさぁ」


 値札を確認してビックリした。え、そんなにするの。この布面積でこの値段って、どこにお金がかかっているんだろう。普通に疑問だ。


「……では、お言葉に甘えて」

「あはぁ。任せてよぉ」

「そういえば、先輩は水着を買わないんですか?」

「買おうと思ったんだけどねぇ、サイズがね」

「では、今度は違う店に行きましょうよ」

「ボクが水着を選ぶの、見ても楽しくないと思うけどなぁ」

「楽しませてくださいよ」


 先輩みたいに選んであげることはできないけど、見て感想を言うことくらいはできる。

 まぁ、そんな私の感想よりも、着たいものを優先するんだろうけど。


 会計でもう一度ビックリしつつ、お店を後にした。


「そろそろご飯にしよっかぁ」

「一階で食べましょうか。チェーンのファストフードでも」

「じゃあ、竜月軒(たつきけん)のフライドチキンでいい?」

「『今日、竜月軒にしない?』のCMでお馴染みのフライドチキンですね」


 チェーン店は不行市内にもそれなりにあるけど、先輩はあまり行こうとはしない。別に嫌いというわけでは無さそうだけど。宅配ピザも美味しそうに食べてたし。


「その後は、キスしてねぇ」

「わかってますよ」


 水着を選んでくれたお礼に、いつもよりアツいキスをしよう。なんてね。

次回、今回のお話の補足のようなやつです。

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