62日目:LOVE IT
8月(夏休み)編、スタートです!
「今日はなんの日でしょーか?」
「えっと……」
突然の先輩からのクイズに、脳みそを高速回転させて回答を考える。
今日は8月2日、金曜日。場所は先輩の部屋で、天気は快晴。時刻はお昼前で、少しお腹が減ってきた。
少なくとも私と先輩の誕生日や記念日ではないし、ログボもキリのいい数字ではないし。なんだろう、これ正解できなかったらガッカリさせちゃうやつかな。
「あはぁ。すごく考えてくれてうれしいけど、そんなに悩むことじゃないよぉ」
「では、答えを教えてもらっても良いですか」
「正解は、バニーの日でしたぁ」
そう言って、先輩はバニースーツを何処からともなく取り出して、自分の前に掲げてヒラヒラと私に見せつけた。
なるほど、語呂合わせか。バニースーツを持っているのはコスプレが好きだからだろうか。え、これを先輩が着たりするのか。見たい。
「それを着ているところ、見せてくれるんですか?」
「えっ、見たいのぉ?」
「見たいですけど」
「えっちだねぇ」
「せっ、先輩には言われたくないです!」
「あはぁ。君も着てくれるなら、見せてあげてもいいけどぉ?」
「等価交換ですね……」
何かを得るためには、何かを失わないといけない。この場合は、羞恥心とか尊厳とかを消失する気がする。
「因みに一着しかないから」
「え、じゃあ私が着た後に、先輩がこれを着るんですか」
「うん。ボクは気にしないけど」
「私が気にします」
「じゃあ、残念だけどボクのバニー姿は見せられないなぁ」
「わかったよ、着るよ」
「あれぇ、この前のタメ語が残ってるよぉ?」
しまった。うっかり出てしまった。指摘されると恥ずかしいので、気付いても流してほしい。とは言えない。
先輩はログボチケットを使ってまでタメ語を希望したわけだから、反応するのも仕方ないか。そんな希少でも貴重でもないんだけどね。
その気になれば、いつでもタメ語で会話できるわけだし。
お母さん以外の人で、敬語無しでも大丈夫そうだと思った初めての人だから。いや、先輩相手にそれもどうかとは思うけど。
「ごほん。では、着ますね」
「はいどーぞ。着替えるところ、見てても良い?」
「裸を見られるのは平気ですが、着替えを見られるのは恥ずかしいです」
「ふーん。じゃあ壁の方を見てるからぁ、その間に着替えちゃって?」
「わかりました」
ふーん、はセーフか。ふぅん、だとアウトだ。
お風呂に入る前の脱衣は見られても平気だし、その後の裸も別に恥ずかしくないんだけど、『脱いで』『着る』という着替えを見られるのは何故か恥ずかしい。
思うに、お風呂とかは裸を見せるのが前提だけど、着替えは人に見せるものではないから照れちゃうんだと思う。
もしかして、私の感覚がおかしいだけなのだろうか。
服を全て脱いでブラも外し、バニースーツを手に取る。しっかりと骨が入っていて、胸や腰周りが綺麗に見えるタイプだ。やはり立体感が出ている方が本物っぽい。しっかりウサギの尻尾も付いている。
ウサ耳ヘアバンド、蝶ネクタイ、カフスも着けて完成。網タイツとかは無いみたいだ。
先輩のバニースーツだから胸元のサイズ感が心配だったけど、案外大丈夫そうだ。ピッタリくっつくからだろうか。
「着ました、よ」
「かっ……可愛い……。照れないでさぁ、ほら腕どけてよぉ」
「うっ、うぅ……」
先輩に言われて、仕方なく腕を後ろに組む。先輩と違ってスタイル抜群ではないので、その劣等感と敗北感を織り交ぜたような感情が、羞恥を加速させる。
着替えという行為だけでなく、着替えた後の結果も恥ずかしかった。これは相当照れる。多分、私の顔は真っ赤になっていることだろう。
「写真撮ってもいい?」
「誰にも見せないなら、良いですけど」
「やったぁ」
先輩は、自分の机の上に置いてあった一眼レフを手に取った。スマホで撮るとばかり思っていたから、少し驚いた。
まるで本物のコスプレ撮影会のように、小気味いいシャッター音が部屋の中に響く。
いや、コスプレ撮影会のことを微塵も知らないけど。
シャッターを切る音が止んだと思ったら、今度こそスマホを手に持って、動画を撮影し始めた。
「何故、動画を……」
「いいじゃーん、後で使えるし」
「使うってなんですか?」
「あー……なんでもないよぉ?」
まさか加工して配布……なわけないか。言い間違いだろう。
一通り撮影を終え、満足したらしい先輩が笑顔で私に抱き着いた。
「ちょっ」
「バニーちゃんかわいいなぁ」
「次は先輩の番ですからね」
「じゃあ、脱いでぇ?」
「では、また後ろを向いていてくださ」
「そんなこと言わないでよぉ」
抱き着いた状態で、背中のチャックを下ろす先輩。いやいや、これは流石に恥ずかしいって。
「先輩?」
「大丈夫だよぉ、ギュッてしてるから見えないし」
「何が大丈夫なんですか……」
結局、まるで子どものようにあっさりと脱がされてしまった。ウサ耳と蝶ネクタイとカフスは自分で外して、先輩に手渡す。
先輩がバニーに着替えている間に、急いで服を着る。変身中に攻撃するのはマナー違反だけど、これは含まれないだろう。
「じゃーん!」
「うわっ可愛い……。写真撮っても良いです?」
「いいよぉ」
流石は先輩。尋常ならざるプロポーションを更に綺麗に魅せるバニースーツ、恥じらいを少しも見せない自信に満ちた表情、そしてその顔はあまりにも綺麗に整っている。
その完璧さに、本場のバニーガールも脱兎のごとく逃げ出すに違いない。ウサギだけに。
「そういえば、まだキスをしていませんでしたね」
「これからするつもりだったんだよぉ」
「まぁ、先輩が忘れるわけないですもんね」
「というわけでぇ、チュー」
バニーガールに唇を奪われ、そのままベッドに押し倒された。
大きな胸が、すらりと伸びた脚が、サラサラの黒髪が。先輩の全てが、私の眼前に惜しげもなく晒されている。
「……ウサギって、年中発情期らしいですよね」
「なぁに、それはボクに対する嫌味ぃ?」
「いえ。先輩が積極的でないと、私が困るので」
それと、ウサギは草食だけど先輩は肉食ですし。なんて言葉は流石に飲み込んだ。
先輩がそんなことで怒るとは思わないけど、お家デート中に機嫌を損ねたりなんてしたら大変だし。
「あはぁ。それじゃ、もっともーっとチューしちゃうよぉ」
「どうぞ。キスで止まれます?」
「止まれなかったらごめんねぇ?」
先輩の圧と熱が凄い。室内の温度もそれなりに高く、お互いに前髪が顔に汗で張り付いている。
先輩がバニーなら、やっぱり私はメイドだろうか。今度遊びに来る時は、メイド服を持ってこよう。そしてコスプレ撮影会でも開こう。
先輩の他のコスプレも見てみたいし。そのためなら、私も着せられるリスクは甘んじて受け入れよう。
この続きは、いつかあっちで書くかもしれません。




