61日目:同級生ごっこ(後編)
3日目のデートを読み返してから読むと、よりお楽しみいただけるかと思います。
以前来た時と同じように、ゲームセンターは賑やかな光と音で私たちを歓迎した。
あの時は同級生に見られることを警戒したりしていたけど、今では全く気にならなくなった。
仮にココさんとかに見られても平気だし、手を繋いでいるところを目撃されても特に思うところはない。無敵だ。
「華咲音、あの時みたいに写真撮らない?」
「んふふっ!」
「んふふ?」
「いやぁ、ごめんごめん。名前を呼び捨てられると、お腹の奥の方から歓喜が湧き出しちゃって」
「独特な表現だね」
「とにかく、写真を撮るのはさんせーい。プリ機にレッツゴー!」
プリ機の種類が、前回より増えている。しかも、髪をセットするためのヘアアイロンの貸し出しも始めたらしい。
色とりどりの風船も置いてあり、これは自由に使っても良いらしい。随分と気の利いたサービスだな、と感心する。
「風船、使う?」
「いや、別になくてもいいかなぁ」
「それもそうだね」
別に誰かに見せたりしないし、承認欲求を満たすツールでもないし。この前の写真もそうだけど、私と先輩以外の人が見ることはないだろう。というか、見せるのが勿体ない。
プリ機の幕の奥に2人で入り、お金を入れる。音声に従ってよくわからないポーズを取ったり、画面に貼るステッカーや自分たちでイラストを描いて装飾していく。
この慌ただしい感じ、全く慣れる気配が無い。世の中の若い子たちは、制限時間内で満足のいく結果を出せているのだろうか。是非、その方法をご教授願いたい。
「終了っと。それじゃ、ハサミで切って分けよっかぁ」
「そうだね。スマホの背景、更新しようかな」
「あの時はまだ、ログボ実装から3日しか経ってなかったんだよねぇ。なんか感慨深いなぁ」
「色々なことがあったし、私たちの関係も少しは変わったよね」
毎日キスしてほしい、と言われてから約2ヶ月ほどログボを渡し続けてきたわけだけれど、そして結局のところ交際には至っていないわけだけれども、流石にあの時と今とでは違う関係になっているハズだ。
それは、お泊まりするようになったこととか、踏み込んだ内容のログボが増えたことだけが起因ではない。
確実にログボ実装初期と違う点。それは、私が先輩のことを好きになっているという点だ。
もはや、これが恋ではないと嘯くことは不可能だろう。認めなくてはならない、私も惚れてしまっているということを。
「もっと変わってほしいなぁ」
「と、言うと」
「もぉ、わかってるくせにぃ」
「……そうだね。わかってるよ」
先輩が切り分けたプリントシールを財布にしまい、手を繋いで店内を歩き始める。
百パーセント成功するのがわかっている告白なんて、どれほど恵まれているか想像もできないけど、その最後のピースをはめるのはもう少し後にしたい。
ログインボーナスの存在も考えて、もっと区切りのいい日に想いを伝えようかな、とか一応考えてはいるんだけどね。
「あ、『まんなカぐらし』のドラゴンだぁ!」
「まんなカぐらしって、ドラゴンもいるの?」
「なんでもいるよぉ。ボクのお気に入りはカッパとドラゴンなんだぁ」
「よし、また私が挑戦してみようかな」
「がんばってぇ」
期待とワクワク感の混じったふわっとした声援で、全身に不思議な力がみなぎる。今回も5百円以内で取ってみせる。
5百円玉を投入し、アームを動かす。前回は上手くいきすぎたが、今回はどうだろう。
デフォルメされたキュートなドラゴンに、アームを下ろしてめり込ませる。持ち上げて数センチ動いたところでドラゴンは落下。短い尻尾をこちらに向けて転がった。
前回同様、これは確率機ではない。持ち上げるだけのパワーがあるなら十分だ。落下して弾むことも計算に入れよう。
最近薄れ気味の、ゲーマーというキャラ特性を存分に発揮しようじゃないか。
「取れそぉ?」
「取れるよ。取ると決めたから」
「かっこいい……」
残り5回。初期位置より落下口に近付いたドラゴンに、再びアームをめり込ませる。落下口を取り囲むパーテーションが無いタイプなので、バウンドさせて落とすことは容易なハズ。
さっきのアームから落ちたタイミングから考えて、落下口の右隣辺りに落としてみよう。
ぼむんっ、とドラゴンは弾み、その半身を落下口に投げ出した。ゆらゆらと数秒揺れて、自重に耐えられずドラゴンは落下した。
「よし!」
「すごぉい!」
「はい、プレゼント」
「ありがとぉ。7月最後のログボは豪華だなぁ」
「……ログボなんて関係ないよ。あげたいからあげたの」
「好きぃ……チューしてもいい?」
「店内はちょっと」
最近はわりと先輩の欲求を受け止めて受け入れていたけど、流石に店内でキスは厳しい。
知人他人を問わず、人に見られたくないところは変わらない。
「じゃあ、あとでいーっぱいチューしてぇ?」
「ふふっ、良いよ。あ、店員さん呼んできてもらっても良い?」
「いいよぉ」
「ママ見て! まんなカのドラゴンだよ!」
店員さんを呼んで、残り4回分をキャッシュバックしてもらおうかなと思っていたところで、母親と一緒にクレーンゲームの筐体を指さす子どもがやって来た。未就学児かな、多分5歳くらいの女の子だ。
「本当だね。でもママはこういうの苦手だから」
「えー! ほしいよぉ!」
「華咲音、やっぱり店員さんは呼ばなくていいや。ちょっとそこで待ってて?」
アームを動かして、端っこのドラゴンを掴む。また数秒で落下するが、初動で取ろうなんて思っていない。
2回で落下口に近付け、残りの2回で落とす。今日の私にならできる。
残数がゼロになるのと同時に、ドラゴンは景品取り出し口に降り立った。ようこそ。
優しく取り出して、女の子に手渡す。
「はい、どうぞ」
「いいの!?」
「うん。あ、お母さん的には大丈夫ですか?」
「良いんですか、いただいてしまって……」
「はい。5百円入れて残った回数で取ったので、お金も要らないですから」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「どういたしまして」
満面の笑顔で手を振る女の子に手を振り返して、ドラゴンを抱きしめる先輩に歩み寄る。
「お待たせ」
「好きすぎるんだけど……結婚しよ……?」
「はいはい、考えておくね」
景品を入れる袋を取って、ドラゴンを入れる。これで手が空くので、手を繋いで歩けるという寸法だ。
「ねぇ莎楼。7月も終わるけど、8月もよろしくね?」
「8月どころか、もっともっとよろしくして?」
「……ダメだ、タメ語の君が強すぎる」
「たまには勝たせてくださいよ、先輩」
ゲームセンターの外は、まだまだ暑くて陽も高かった。
まだ帰るには惜しいし、何処かでいっぱいチューをしよう。
これで7月編は完結です。よろしければ、ここまでの感想やポイント評価をお願いします。とても励みになります!8月(夏休み)編もお楽しみに!




