表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/237

59日目:ダブル・デート(後編)

動物園デート、完結。

「そうだ、ニケに忠告しておこうっと」

「忠告?」


 猿山の無数の猿を見ながら、先輩はスマホを取り出した。


 ここの猿山の地面は草の生い茂る土で、猿が登る木も本物の生きている木を使用している。木と木の間にネットが付いていて、そこを猿たちが自由に行き来している。


 毛づくろいのし過ぎで禿げてしまっている猿も見当たらないし、随分と良環境だ。楽しそう。


「あ、ニケ。あのね、センパイが来てるから。うん、小学生くらいの女の子と一緒に。うん、それじゃあ」


 先輩は忠告とやらを済ませ、スマホをしまう。


 ニケさんとヒアさんは、相性が悪いのだろうか。先輩方と当時の三年生の皆さんの間に何があったのか、それを私が知る日は来るのだろうか。


 まぁ、知らなくても別に良いんだけど。自分と直接関係の無い物語を知ろうとするなんて、ココさんじゃあるまいし。


「ニケさんはなんて言ってました?」

「『アラちゃんと一緒にいるところを見られるわけにはいかない』って言ってたよぉ。別に気にしなくてもいいのにねぇ」


 流石にちょっと気になってきた。アラさんの姉でもあるマスターとヒアさんは仲が良いハズだし、自分の彼女の姉の友人を警戒するってどういうことなんだろう。……ダメだ、混乱してきた。


 でも、自分から訊くのはココさんみたいでなんか嫌だ。いや、ココさんが嫌ってわけじゃないけど。


「あ、センパイとニケのことを話してなかったね。ごめんごめん」

「実は気になってました。不仲なんですか?」

「ボクも詳しくは知らないんだけど、センパイも陸上部だったんだよ。で、その頃になんかあったみたい」

「ふむ……」


 ヒアさんが陸上部だったとは。だからいつもジャージを穿いているのだろうか。


 私は部活動をした経験が無いので、部活内での先輩とのトラブルとか軋轢については、想像の域を出ない。お二人とも、温厚なイメージがあるから尚更わからない。


「訊いても教えてくれないんだけど、とにかく会いたくないらしくてさぁ。それで電話で忠告したのだぁ」

「なるほど。人には話したくないことの一つや二つ、誰にでもありますよね」

「そうだねぇ。ボクにも君にも、ね」


 特に何もやましいことは無いけど、ドキッとしてしまった。交番の前を通る時とか、監視カメラの近くを歩く時のような緊張感。


 まーちゃんのことも話したし、他に隠し事なんて無いと思うけど……どうだろう。


「隠していなくても、わざわざ話していないこととかありますもんね」

「あるねぇ」

「でも、秘密と嘘は違いますから」

「良いこと言うねぇ。たまに」

「たまにってなんですか……」


 そりゃ確かに、名言らしい名言を、頻繁に発言しているわけではないけども。


 普段から他愛ない会話ばかりしているから、胸に深く刺さる言葉ってあまり無いかもしれない。でも人生は漫画や小説ではないので、別にそんなことを気にする必要は無いか。


 先輩は入口で貰った園内マップを開き、まだ見ていないところを指で数え始めた。


「あとは反対側の動物を見たら終わりかな?」

「そうですね。あ、触れ合いコーナーがあるじゃないですか」

「モフりたい?」

「モフりたいです」


 猿山から離れ、右手側に向かって歩き出す。


 鹿やレッサーパンダを見つつ、触れ合いコーナーへ期待を膨らませる。


 最後に、人間以外の生き物と触れ合ったのって何時だろう。近所の野良猫も撫でたりはしないし、ペットを飼っている友人とかもいないし、今は亡きおばあちゃんが飼っていた柴犬を撫でたのが最後かもしれない。


 名前も覚えていないけど、あの犬はどうなったんだったっけ。おばあちゃんが亡くなった時はまだ生きていたと思うけど。


「あ、この小屋じゃない?」

「うさぎちゃんがいっぱいですね!」

「うさぎ()()()?」


 木枠の中に、草の生えた床。そこにうさぎちゃんが沢山いる。可愛い。もっふもふだ。白いのと、茶色のと、灰色のもいる。全員可愛い。


「百円で餌も買えるみたいですよ。買いましょう!」

「すごい目が輝いてるねぇ」


 コインロッカーに百円を入れて、鍵を回して扉を開ける。中には、野菜スティックの入った紙コップが置いてある。


 中身はニンジンと大根の葉だ。確か主食は牧草とかで、野菜は副食だったかな。ウサギ=ニンジンではないって、前にテレビで観た。


 紙コップからニンジンを取って、うさぎちゃんの口に近づける。すんすんと匂いを嗅ぎ、ニンジンを咥えて小刻みに齧る。可愛い。頭とか撫でちゃおう。もっふもふだ。


「可愛いねぇ」

「本当ですね」

「いや、うさぎにはしゃぐ君がね?」

「えっ、あっ……?」


 顔が熱くなる。火が出そうだ。顔の上に生卵を落としたら、ゆで卵か目玉焼きになること間違いなしの火力だ。


「あはぁ。ボクにも餌ちょーだい」

「は、はい。どうぞ」

「おぉっ、すごい食いつきぃ」

「可愛いですよね、ね?」

「うん。君ほどじゃないけどねぇ」

「も、もう!」


 そろそろ顔の熱で溶接ができちゃいそうだ。こんなに先輩に茶化されるの、初めてかもしれない。


「君だって、ボクに可愛い可愛いって言うじゃん。たまには仕返し〜」

「し、仕返しですか……」

「もしくはお返しかなぁ」

「それなら、ありがたく受け取っておきます。恥ずかしいですけど」


 餌を全てあげ終え、紙コップをゴミ箱に捨てて触れ合いコーナーを出る。


 あ、抱き上げたりとかしても良かったのかな。今度はそうしてみよう。


「そろそろ終わりだねぇ」

「あっという間でしたね。意外と狭いというか」

「そうだね。次はもっと広い動物園に行こっかぁ」

「ふふ。別に、動物園じゃなくても良いですよ。先輩と一緒なら、何処にでもデートに行きます」

「やっぱり可愛いなぁ」

「先輩こそ」


 動物園の出口の手前で、後ろを振り返ってみる。


 人混みと動物たちの姿を最後に見て、手を繋いで動物園を後にした。


 太陽の高さと、お腹の空き具合で昼時と判断した。お昼は何を食べようか。ほとんど蒸発した水溜まりの跡を踏み、先輩に昼食の希望を訊ねる。


 水族館に行った時は魚料理が食べたいと言っていたけど、動物園だとどうなんだろう。お肉とか食べたくなるのだろうか。


「うーん、今日は中華がいいなぁ」

「全然、動物関係なかった……」

「あはぁ。鶏肉とかうさぎとか食べたーいって言った方がよかったぁ?」

「い、いえ。そんなことはありません。というかそれは流石にお断りします」

「というわけでぇ、中華を食べようよ。チャーシューの代わりにカマボコ入ってるチャーハンが食べたい」

「それ、入店前から判別するのは不可能では?」


 いつも私たちは、ネットで調べたりはしない。適当に歩いて見つけたお店で食事をすることがほとんどだ。


 なんの流儀なんだろう。まぁ、別に良いんだけどね。当たりも外れも、先輩と一緒なら楽しめるから。

ゴールデンウィーク中、暇なので投稿頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング→参加しています。気が向いたらポチッとお願いします。 喫と煙はあたたかいところが好き→スピンオフのようなものです。良かったら一緒に応援お願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ