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58日目:スター尾途(後編)

別行動。

「カズマくんは、先輩と旧知の仲なんですよね」

「まぁね。クグ姉は付き合ってどのくらいなの?」

「付き合ってません。……えっと、一緒に遊んだりするようになったのは去年くらいからですね。親密になったのは今年の5月からです」

「親密って、具体的にナニしてんの?」


 中学二年生に、どこまでなら話しても良いのだろうか。先輩の幼馴染的なカズマくんに、あまり刺激的な話をしたくない。


「……キス、とか」

「イマドキの高校生が、キス止まりなの?」

「ぐっ……。いや、もうちょっとアレですけど……」

「ふーん。ってことは、カサ姉のこと本当に好きなんだね」

「……はい」


 まるで名探偵に追い詰められた犯人のように、私は年下の女の子相手にたじたじになってしまった。


 そう、やっぱり私は先輩のことが好き。大好き。じゃあどうして付き合っていないの、と質問されたらどうしようと身構えていたけれど、カズマくんはそれ以上は言及してこなかった。


 名探偵としては致命的だけど、私的にはありがたいミスだ。


「おれは女なんだけど、それに違和感があるんだよね。カサ姉と同じで女の子が好きなんだけど、自分が女って意識が薄くてさ」

「凄いですね、きちんと自分のことを把握できていて」

「? それって普通じゃないか?」

「私は、未だに恋というのがわかっていないので」

「カサ姉は違うの?」

「自分でもよくわからないんです。大好きだってことはわかるんですけど」

「ふーん、おれは直感で好きとか嫌いとかわかるけどな。多分、クグ姉は理論的に考えすぎなんだよ」

「なるほど……」


 よく、数学が苦手な人は『考えすぎるから』というのを聞いたことがある。数学より手前の、算数で何故1+1が2になるのかを深く考えてしまう人は前に進めなくなる、という話だ。


 それはそういうもの、と割り切らないと深みにハマってしまう。


 そうか、恋がどうとか考えすぎなのか。天啓を得た、気がする。


「でも、おれは女の子に告白する勇気とか無いから、カサ姉は凄いなぁって思うよ。怖いもん」

「誰だって、想いを伝えるのは怖いと思います。勇気と無謀が違うように、勇気が無いのと臆病なのは違いますよ」

「良いこと言うっすね」

「恐れ入ります」


 私の方こそ、カズマくんの言葉が良いものだと感じた。そうだ、考えるな、感じろと昔の偉い人も言っていたじゃないか。


 そういえば、先輩はえっちなことがしたいかどうかだって言ってたっけ。案外あれも的を射ているのかもしれない。


「しかし外は暑いなぁ。そうだ、近くに喫茶店があるんだけどさ。そこで休もうぜ」

「あ、昨日先輩が言ってた店ですかね」

「ここら辺に喫茶店は一軒しかないからね。最近、軽食も始めたんだぜ」


 先輩は軽食は無い、と言っていたので、本当に最近始めたのだろう。お昼になったら、そのままそこで昼食にしても良いかもしれない。


 一応、ここは歳上としてご馳走したりしようかな。ついでに、先輩の昔の話とか教えてもらおう。


―――――――――――――――――――――


「ただいま戻りました」

「おかえりぃ」


 来た時と同じように、鍵のかかっていない引き戸を開けると、先輩が満面の笑顔で出迎えてくれた。


 時刻は夕方の5時。まだまだ外は明るい。


「メナミさんとゆっくり過ごせましたか?」

「おかげさまでねぇ。ほとんど話題は君のことだったけど」

「……なんだか照れますね」

「君はどうしてたのぉ?」

「家を出てすぐにカズマくんに会ったので、彼女と過ごしていました」

「ふぅん」


 久しぶりに不機嫌モードになってしまった。やはり私が、先輩以外の女の子と過ごすのは嫌なのだろうか。


 ココさんに対する嫌悪感とかも、もしかして嫉妬が起因だったりするのかな。目を細める先輩を見ながら、少し嬉しい気持ちになっているのは内緒にしておこう。


「因みに、ほとんど話題は先輩のことでしたよ」

「……ふ、ふぅーん」


 あ、嬉しそうだ。先輩は表情と声色に感情が出やすいから、わかりやすい。例えるなら、しっぽを振る犬みたいな。


 そういう私も、数時間ぶりに先輩と話せて嬉しいけど。


 夕飯の支度をしているおばあちゃんにも挨拶をして、階段を上る。今日の夕飯はカレーかな。そんな匂いだった。


 夕陽の射し込む廊下を進み、先輩の部屋に入る。畳の匂いにも慣れてきた。


「先輩、今日は喫茶店に行ってみたんですけど」

「マスター、元気そうだった?」

「元気そうでしたよ。そこでカズマくんと一緒に先輩の話をしまして」

「あんまり昔の話とかされると、恥ずかしいんだよねぇ」

「先輩って、あまり昔の話をしませんよね」

(すすぎ)ちゃんの話とかしたじゃん」

「あれも渋々でしたよね。私って、案外先輩のことを知らないのかもしれません」

「あはぁ。ボクに興味が出てきたのぉ?」


 興味、か。前から興味は津々だし、もっと知りたいと思っている。何もかもをではないけど、ある程度の深さまでは知りたい。


 別に、語りたくない過去を掘り返したいわけでも、恥ずかしい話題を掘り下げたいわけでもない。ただ、私の知っている先輩の数を増やしたい。


「逆に、先輩は私に興味ありませんか?」

「興味津々だけど」

「ふふっ、つまりはそういうことです」


 前に質問をし合ったこともあるけど、まだまだ私たちはお互いを知らない。例えば好きな色とか、誕生日に何をあげたら喜ぶかとかを知らない。


 先輩を深く知ることは、恋を知ることの近道になり得るのではないだろうか。


「それじゃあ、明日はボクと一緒に尾途周辺にお出かけして、そこで色々とお話をしてあげよっかなぁ」

「よろしくお願いします」

「電車でちょっと移動すれば、普通に発展してる街とかにも行けるよぉ」

「そうなんですね」


 微妙に前後の地理がわからないので、先輩に任せよう。


 明日か明後日辺りには不行に帰るのだろうか。帰ったら、

今度はいつ先輩に会えるのかな。まだまだ始まったばかりの夏休みを、もっと謳歌しないと。


「夕飯までまだ時間もあるしぃ、ちょっとイチャイチャしよ?」

「へ?」


 布団はまだ敷かれていないけど、直接畳の上でイチャイチャするという意味だろうか。


 ぎゅっと抱きしめて、私の肩にあごを乗せる先輩。シンプルにドキドキが止まらない。


 そうだ、そのことだけでも先輩に知ってもらおう。


「せ、先輩。実はですね、私はキスもドキドキしますが、ハグが一番ドキドキするんです」

「それはぁ、こうやってぎゅってされる方が好きって意味?」

「そう思っていただいて、差し支えありません」

「ふーん。ボクのログボはキスだけど、君はハグの方が嬉しいんだねぇ。だからバックハグしてきたの?」

「あ、あれはその……したくなったから」

「あぁもう可愛いっ」


 先輩は少しだけ離れて、私の唇に熱いキスをした。


 部屋にまで入り込む夕陽と、先輩の顔が星みたいに眩しくて思わず目を瞑ってしまった。

更新が遅くなってすみません。またペースを戻せるように頑張ります。

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