世界に混沌を
――居間にて。
俺は、リウとサクヤの二人を抱っこしたまま、玉座に座っていた。
心地好く、じんわりと椅子から、力が流れ込むかのような感覚。
二人の、熱い体温。
俺は、この椅子に座ると元気になるのだが……この子らは、どうだろうか。
魔王の力は継いでいるようだし、同じようにこの椅子に座ったら、力が流れ込んでくるのだろうか。
……ん、そうなってる気もするな。
我がダンジョンは、俺の子供達のことを生まれた時から青点表示に――つまり身内だと判断していて、それに二人は他の家族よりもより俺に近しい存在のはずなので、ダンジョンにいればある程度力が流れ込んでくるんじゃなかろうか。
いつも元気いっぱいだしな。いやもう、ホントに。
「いばぁ! うぅ!」
「あうよ、おぉ?」
そんなことを考えていると、リウはご機嫌な様子で、俺の服を引っ張って遊び、サクヤは何に興味を引かれているのか、不思議そうに床へと手を伸ばしている。
リウは、自由に動き回れるようになってから、大体いつもご機嫌だ。
やっぱり獣人の子であるからか、身体を動かすことが楽しいらしく、ただハイハイしているだけで笑顔になってくれるので、親としてはありがたい限りである。
ただまあ、そのせいで以前より大分目が離せなくなっているのだが。
いやホント、ハイハイが出来なかった頃は、ただその場でゴロンと転がしていて、ぶっちゃけそのまま放置でも問題なかったのだが、自分で動き回れるようになると、ちょっと目を離した隙に全然違うところにいたりして、ヒヤリとすることがままある。
そうなっても問題ないよう色々工夫はしているが、四六時中気にかけ続けるってのも難しい話だからな。
ここにサクヤが加わるとなった時、どうなるのかがもう、考えるだけで大変だ。
うむ、親の力の見せどころだな。頑張らないとか。
「親、か……はは」
小さく笑みを浮かべる。
今の俺は、自分を表す時に、まず『親』という言葉が出て来るのだ。
そのことを自覚して、少し、面白くなる。
――あの後、調査は無事に終了した。
俺があそこの管理権限を得たことでゴーレム軍団が敵対しなくなったので、自由に探索可能になったとあって、羊角の一族の皆はもう物凄い喜んでくれていた。
お師匠さん達も、一段落したので一旦里に帰るが、今後も定期的に訪れて研究に参加するつもりらしい。
レイラが羨ましそうにしていたが、ここが俺の支配領域になったので、いつでも来られるという話をすると、感激したようにギュッと俺を抱き締め、軽くキスしてくれた。
これだけで、俺にとってはこの調査に参加した甲斐があったというものである。
そして魔界王は、地底世界旅行には満足したようで、ニコニコしながら奥さんと話し――。
「いやぁ、なかなか楽しい経験だったよ! 王になると、こういう危険からは遠ざけられるからねぇ。久々にワクワクした」
「……まあ、ここに連れて来たのは私でありますれば。危険な場所に付いて行ったことに関して、何も言わないでおきます。あなたの部下が何を言うかはわかりませんが」
「……え、えーっと、クア、そのことに関して、内緒にしといてくれると嬉しいんだけど」
「陛下の行動を報告するのは、妻としての行動ではなく、私の職務。それは無理というものでございます」
――なんて言われ、最終的に引き攣った笑顔になっていた。
友人夫婦の仲が良いようで何よりだ。
ちなみに、ゴーレムの残りが置かれているらしい兵器工廠らしき場所も覗いてみたのだが、ずらーっとSFプテラにSFアルマジロ、侍ロボに阿修羅ゴーレム、その他俺達が遭遇しなかった他のよくわからんゴレームなんかが所狭しと並んでいて、思わず頭を抱えたものである。
いや、光景としてはかなりカッコ良かったし、大分ロマンのある造りだったが、流石に余り過ぎである。どんだけ造ったんだ、ドヴェルグ神は。
これらは、本当に下手に流出させることが出来ないので、もう完全に封印することにした。
地底世界には後から手を加えることが出来ないが、女神ガイアもちゃんとこれは危険だと思っていたらしく、元々しっかりとした封印が出来るような機構が存在していため、それを活用して俺以外誰も入れないようにした。
そのことは、エルドガリア女史にしっかりと伝えてある。
彼女も、ゴーレム軍団の危険性は十分に理解してくれているので、「わかった、しっかり周知しておくよ」と頷いてくれた。
壊れたゴーレムの方は、もう大分解析されてしまっているが……まあ、そっちはいいだろう。
それで再現出来るのならば、すでにこの世界にはそれだけの文明発展の素地があるということだと思うからだ。
なるようになるだけ、だ。
それもまた、きっと混沌の一助となるのだろう。
「なあ、お前ら。父ちゃんなぁ、本当は自分が、父ちゃんになれるなんて、思ってなかったんだ。そうなる自分が、全く想像出来なかったし、自分が人に物を教えられるような上等な存在なのかって思いがあってな。いや、そりゃあ今もそうなんだが」
俺は、笑って二人に話す。
己のコンプレックスを。
抱え続けている思いを。
「ただ、レフィ達がいてくれて。それで何とかやれるかって思って、そこからリウとサクヤが生まれてくれたおかげで……俺は、何とか父親をやることが出来てる。二人がいてくれるから、俺は父親と名乗れるんだ。大変なのはこっからかもしれないが……ま、一緒に、生きることを楽しんでこうや」
――肩ノ力ヲ抜イテ。気楽ニ、命ヲ楽シミナサイ。ソレガ、命アルアナタ達ノ特権。混沌タルヒトガ持ツ恩寵。
女神の言葉を思い出す。
生きることは、大変である。
過酷で、辛いことばかりで、一日を過ごすだけで疲れてしまう。
だが、それでも俺達は、命ある限り、生きなきゃならない。
死ぬまで、生き続けなければならない。
なら、もっと肩の力を抜いて、気楽に構えて。
それでこそ、命を謳歌出来るというものなのだろう。
神様達は、一々良いことを言うもんだ。
命というものに掛ける、彼女らの思いの強さが伝わってくる。
真摯に生を見詰め、世界に混沌をもたらさんとした彼女らの言葉だからこそ、そこには誰よりも説得力があるのだろう。
「あうぅ! あう!」
「あんまんま! んあ!」
「はは、おう、そうだな。俺にそんなこと言われずとも、お前らは十分に、一生懸命に命を謳歌してるか。そういう面は、俺達も見習わねぇとな」
いつでも真面目に、精一杯一日を過ごしているのが、赤子という存在だ。
この子ら以上に、一生懸命生きている存在も、そうそういないだろう。
全く、お前らと過ごしてると、学ばされることばっかりだぜ。
「あうぅよ、ううぅ?」
と、相変わらず何か、床に興味を示しているサクヤ。
「……? どうした、サクヤ?」
俺は、とりあえずサクヤが求めるままに、腕から降ろして好きにさせてみると、我が息子はこてんと床に転がり、それから四肢を動かし――。
「! おぉ!」
――ゆっくりと、身体の動きを確かめるように、ハイハイを始めた。
「うあぅ!」
そして、そんなサクヤに触発されたのか、リウもまた「私もハイハイする!」みたいな感じで俺の腕の中でもがき始め、降ろしてやると、サクヤの横で同じようにハイハイを始める。
元気良く動き始める二人。
爆走ハイハイ赤ちゃんツインズの完成だ。
「はは、リウ、サクヤ! みんなにお披露目しようか! ――おーい、みんな! サクヤがハイハイしたぞ!」
動き回る我が子達を横目に、俺は、大声で家族を呼んだ。




